その3
「あの…。そこにいるのは、青チームリーダーのサクラ?」
僕は小声で話しかけたけど、返事がない。しばらくして、ふーっ、とため息が聞こえた。
「ええ、そうだけど…。どうして、私の名前を知っているの?」
「君のことを、青チームのサポーターから聞いたんだ。僕は、君の青チームのメンバーの、真琴だよ。」
僕はそう言いながら、ソファの陰から這い出て、サクラの隠れている場所に向かい、隣に座った。ゴーグルを外したサクラは、その名前のように、短い髪の毛がピンク色で、長いまつ毛をしている。
「あなた、サポーターと話せるの?変わってるわね…。でも、あなたが入ったってことは、さっきの子はもうやられてしまったってことよね。私も、後1回打たれたらおしまいだわ。今の緑チームは、本当に手ごわいの。」
「もしかして、さっきは緑チームのリーダーに打たれたの?」
「ええ、そうよ。もう二回連続でね。誓って言うわ。緑チームのリーダーと目が合ったらおしまいよ。彼は、敵を狙ったら絶対に外さないの。」
サクラがそう言った瞬間に、またパシュッと音がして、誰かの悲鳴が聞こえる。
「とにかく、緑チームのリーダーを押さえないと、私たちは全滅するわ。」
「分かってる。君の強みと、僕の強みをうまく活かす方法を考えれば、きっと勝てる方法が見つかるよ。サクラが得意なことって何かある?」
「そうね…。私は、他の人より、プレイヤーについて良く知ってると思うわ。私、このステージ2に来て、もう1か月が経つの。始めは、このビルの屋上にいる敵を倒せば、賞金がもらえる簡単なゲームだったのに、2週間前から、プレイヤーが一気に増えて、3つのチームができて、「階層(レイヤー)バトル」が始まったのよ。私は最初のメンバーだったんだけど、今の緑チームのリーダーが来てから、だんだん、お金稼ぎのゲームに変わっていったの。」
「君が、最初のメンバー?もしかして、緑チームのリーダーのこともよく知ってる?」
「ええ、知っているわ。彼の名前は、崎本秀。相当強いサッカー選手だったらしいけど、何かの理由で辞めなきゃいけなくなって、この世界に来たの。」
「崎本秀、君だって?」
僕の背中に衝撃が走る 。まさか、「最強の緑チームリーダー」が秀君だったなんて。サッカーも勉強も真面目だった秀君が、このゲームに入って、お金稼ぎばかりするようになったなんて、信じられない。
「秀君は、2週間前に行方不明になった、僕の学校の生徒なんだ。今、僕の小学校では、どんどん生徒がいなくなる事件が起きている。だから僕はみんなを救い出すために、この「エスケープ・ワールド」にやってきた。今日は、このステージ2にいる全員を、「
「救い出す…。そんなこと、できるの?」
僕の話を聞いて、サクラの表情が、パッと明るくなった。
「
僕は思い出した。このゲームに連れ込まれる時、僕たちは、「自分が欲しい物のためには、決して人間の世界(ぼくら せかい)に戻ってこれなくてもいい」と答えなきゃいけなかったことを。だから、このゲームに入った生徒たちは、もう帰ることを諦めていたんだと思う。だけど、みんな心のどこかで、帰りたいって、思ってるんだ。僕は、「人間の世界(ぼくら せかい)」の協力者の力を借りて、みんなを帰す計画を、サクラに説明した。だけど、このステージで、それを成功させるためには、条件がある。
「みんなが帰る、そのためには、このステージにいる全員が、自分の意志で「帰りたい」と思うことで、「
「そのことなら、真琴君と、崎本君が同時に最終バトルに行く必要があるわ。「階層(レイヤー)バトル」中は、二人で話すことは無理よ。彼は、強いプレイヤーしか認めないの。」
「うん、僕も最初からそのつもりだった。僕の強みは…。みんなと、サポーター達と話せることだから。うまくみんなの協力をもらって、みんなで僕たちの世界へ帰るんだ!」
「階層(レイヤー)バトル」が開始してから、30分が経過した。
各チームのメンバーはそれぞれ、
青チームは、リーダーのサクラが2回、僕が1回。
緑チームは、リーダーの秀君が0回、みつばが2回。
赤チームは、リーダーで兄の「サン」が2回、弟の「ツキ」が2回。
ずつ、ダメージを受けていた。
僕は、サクラとの連係プレーで、各チームのプレイヤーに確実に何回もダメージを与えた。
僕たちプレイヤーが5階で戦っている一方、2階にいたチームのサポーター達は、4階まで移動した。ゲーム時間は、残り30分。最上階の10階に到達するまでに、でこのゲームの決着をつけなきゃいけない。僕もサクラも2回もダメージを受けているから、僕たちは守りに力を入れて、緑チームの女の子、みつばと赤チームを狙う。もしサクラが先にやられてしまったら僕の勝利は極めて難しい。
だけど、どのチームも弱点がある。それは、必ずシューターを補充しなきゃいけないこと。シューターのペイントは10回分だけ入ってる。それに、サポーターは僕たちのお金を守ってるから、他のチームのプレイヤーが常に狙ってる。だから、プレイヤーは、必ず4階へ向かう必要がある。そこで、僕の出番だ。僕は、緑と赤チームのサポーターを味方につけて、秀君の攻撃を止める。この作戦をサクラに伝えた僕は、サポーター達が待機している4階に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます