その5


「さあ、行くぞ。」


僕たちの様子を見ていたレイブンは、ゲーム機のところへ向かって、僕にスイッチを入れるように言った。ひび割れていた画面のはずなのに、電源がついて、また「エスケープ・ワールド」が立ち上がった。


「いいか、お前がする必要があるのは、一つだけだ。」


「僕がすること?」


「今から聞く質問の答えを、よく考えることだ。お前が、今一番欲しいものは何だ?」


レイブンが、いきなり僕に質問を投げかけてきた。欲しいもの…。僕が欲しいのは、新しいスマートフォン…。じゃなくて、好きな漫画の新刊、でもなくて…。僕は、僕は…。たくさんの…。


「遅いぞ。早くしろ。」


「と、友達っ!僕が欲しいのは、友達。」


「友達…。ふん、そう来るとは思わなかったぞ。」


それを聞くと、レイブンは僕に、ゲームの中にある「サブクエストモード」に進むように言った。これは、みんなが遊んでいる「ストーリーモード」とは違って、質問に答えて進むミニゲームのような機能らしい。レイブンは、これをゲームに入るための「裏ワザ」と呼んだ。


僕は、「サブクエストモード」の中に、「好き度診断メーカー ~あなたが欲しいものへの愛情は、どれくらい?~」というゲームを見つけた。それは、「10個の質問に答え」ることで、欲しいものへの本気度を測るゲームらしい。これが、マサトが言っていた「はい」と「いいえ」の質問?僕は思わず身震いした。早速、ゲームから入力画面が立ち上がる。


「あなたが好きなものを□□□に入力してください。」


ゲームは、僕にそう聞いてくる。


「えっと、友達、です。」

僕は、「友達」と入力する。


「おい、真琴、もうわかってるな。この質問には、全部、「はい」と答えるんだぞ。」


「わかってるよ。」


「一問目:あなたは、友達が好きですか。」

「はい」

「二問目:あなたは、友達が欲しいですか。」

「はい」

「三問目:あなたは、友達があなたの好きな食べ物よりも欲しいですか。」

「はい」

「四問目:あなたは、友達がほかのどんなあなたの持ち物よりも欲しいですか。」

「はい」


ここまで来て、僕は質問がどんどん、「友達」以外のものを排除していく質問になっていることに気づいた。


「五問目:あなたは、友達の為なら、敵と戦う勇気がありますか」

「はい」


六、七、八問目、は全て「友達の為に」自分の何かを諦めさせるような質問だった。そして、九問目。


「九問目:あなたは、友達の為なら、ゲームの世界に行ってもよいですか。」

「はい」


ついに、ゲームは、僕たちをゲームの世界に導きはじめた。きっと、この質問をされた生徒が、本当に欲しい物を聞かれた時に、よくわからないまま、「はい」と答えてしまうんだろう。


僕たちはついに十問目にたどり着く。


「十問目:あなたは、友達の為なら、ゲームの世界に入って、決して戻ってこれなくてもよいですか。」


「な、何この質問!こんなの聞いてないよ!」


僕は、そこでいったん手を止めた。決して戻ってこれない、って?そんな、それなら、どうやってみんなを救って戻ってくるんだろう?もう、こっちの世界のみんなと、会えなくなるの?僕はパニックになりそうで、レイブンとルークを交互に見る。


「真琴。落ち着け。これは、ただのゲームなんだ。絶対に戻ってこれるさ。特に、俺が目を付けたお前なんだ。」


『ご主人様、ご心配なさらないでください。確かに、大切なご主人様をこんな恐ろしいゲームに送るのは気が引けますが、私はご主人様を信じております!』


レイブンとルークが口々に僕を励ました。二人の力強い眼差しと声で、ぼくは少しだけ自信が湧いてきた気がした。


「二人とも、ありがとう。僕、行くって決めたんだもんね。行かなきゃ。」


僕は心を落ち着けて、「はい」と入力した。次の瞬間だった。ゲームから、「パッパラ―!」と明るいトランペットの音が流れる。


「おめでとうございます!診断の結果、「友達」への愛情が100%と判断されました。今からガイダンスに従って、あなたを「エスケープ・ワールド」の世界へと招待します。」


「これって、成功ってこと…!?」


僕がそう言った途端に、アナウンスの後に、さっき橘さんが吸い込まれた時に見たような、眩い光がゲーム機から漏れだした。なぜか、レイブンが少し意外そうな顔をする。

「あっさりと門が開いたぜ…お前って、本当に友達が欲しいのか?これ、少しでも嘘をつくと、さっきのお前みたいに、はじかれる仕組みなんだぞ。」


なんだ、そういう仕組みだったのか。だから、「欲しい物」が橘さんと違った僕は、さっきはじかれたんだ。レイブンがいなかったら、この謎は解けなかったに違いない。でも、どうしてレイブンはこの前も、今回も仕組みにはじかれないんだろう?僕が考えている間にも、光は強さを増していき、僕は、意識が少しずつ薄れていくような感覚に襲われた。レイブンも、本当に来れるのだろうか?ルークは、僕がいなくて平気だろうか?


『ご主人様。お帰りを待っています!いつでも私達が味方です!』


意識は消えかかっていくのに、ルークの声がしっかりと届いた。


「ありがとう!僕、行ってくるから!マサトに…!


そこまで言うと、僕の記憶が途絶えた。

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