その花火は青春色

目爛コリー

その花火は青春色

 そこはほとんど真っ暗な部屋だった。エアコンがよく効いた部屋で、酒を飲みながらパソコンを眺めていると、唐突に幾重にも重なる破裂音が聞こえた。

 目線を窓の外に向ける。


 それは花火だった。

 あぁ、そうか。今日は夏祭りだったな、と思い出す。

 夜空に咲き乱れる幾つもの花たちを見て、僕はただただ綺麗だな、と思う。目を奪われた。

 けれど遠くで花火を見ているのは、少し寂しいような気もする。


 いいや、間違いない。

 気がするのではなくて、実際にその通りなのだろう。


 今頃、大学時代の友人のAは大学のマドンナと一緒に花火でも見ているのだろうな。

 高校時代の知り合いのBも、結婚相手と一緒に酒でも飲みながら花火を眺めていることだろう。

 幼馴染のCはみんなでパーティーをするのが好きだから、川沿いでバーベキューをしているか、あるいは自分の部屋からみんなで花火を眺めているだろう。


 記憶にある友人だったやつらは総じて幸せそうな想像ができる。

 けれど自分は?


 こんな電気もつけない部屋で光るパソコンに向かって、ただネットサーフィンやゲームをして、かつての友人の影は一つもない。


 一体どこでなにを間違えたというのだろう。

 もし何も間違えていないというのなら、それはそれで心にくるものだ。

 こんなはずじゃなかったのに。


 マンションから一人で眺める花火ほど、惨めなものはない。


 過去を思い出してしまい、彼らを妬んでしまう花火を見たくなくて、僕はカーテンを閉じた。

 そして酒を口に運ぶ。


 カーテンの隙間から、大トリの巨大な花火が見えた。

 僕は顔を伏せて、それを見ないふりをした。

 

 青春の色はとうの昔に色褪せたのだ。

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その花火は青春色 目爛コリー @saikinene

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