揺らぐ気持ち
―――――はっず!!
本を抱えたまま、実はその場にしゃがみ込んだ。
(うわー……何してんの、俺…?)
自信を持って言える。
今同じことをしろと言われても無理だ。
「実、どうしたの? 耳まで真っ赤っか。」
「放っておいて。昔の自分が信じられないだけだから。」
精霊に言われ、実は顔を本に伏せた。
それを見たシャールルが、面白そうに笑う。
「ははぁー? もしかして、アレを思い出した?」
シャールルに人間のような表情があるなら、きっとにやにやとしていることだろう。
「イルシュエーレ様が大事にする花が関わることって、あのことしかないもんね。あの時の実ったらさぁ……」
「言うな! 何も言うなーっ!!」
「あーっ! あの時の俺はおかしかったんだよ! きっとそうだ。そうじゃなきゃ、あんなこと……恥ずかしくて死ぬ。」
否定したところで、過去は変わらない。
これが言い訳でしかないことも十分に承知している。
だが、昔の行動だからとは笑えなかった。
顔が
穴があったら入りたい気持ちになって身を縮こまらせると、折った体の間で花が微かな音を立てた。
「あ、やばっ……花が…っ」
慌てて本を体から離した。
その時、ふと花が挟んであったページの文章が目に入った。
―――嬉しい。
読むつもりなど微塵もなかったのに、その一文をきっかけに、つい中身を読み進めてしまった。
あの子がくれた。
人から贈り物をもらったのは初めて。
それも、大好きな子からもらった。
とても嬉しかった。
ずっと、宝物にする。
とても嬉しかったから。
「まったく……」
実は本を閉じた。
「こんなもの……取っておかないでよ……」
たった一輪だけの花だ。
しかもこの辺りにありふれている、なんの特徴もない花。
それを自分からもらったという、ただそれだけの理由で、こんなに大事にしまい込むなんて……
「どうすればいいか……分からなくなるじゃん……」
記憶と一緒に流れ込んだ映像が、脳裏にひらめく。
暗い部屋で手元の明かりだけを光源にして、本に文字を
側には、一輪挿しの花瓶に飾られた花。
それを見る度に、イルシュエーレの表情が嬉しそうにほころぶのだ。
その姿は本当に、本当に幸せそうで―――
「………」
気持ちが揺らぐ。
自分は、ここにいていいのだろうか。
幸せという感情に、何もかもを奪われていきそうだ。
深く息を吐き出す実は微笑みながらも、その目は苦しげで複雑に揺れて、どこか影を帯びていた。
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