第6話 お客様トラブルについて(1)
一言に「お客様トラブル」と言っても、様々なケースが起こります。
ここではこれについて、刑法や民法などの法的な観点と、いわゆる「CS」的な観点、つまり、一般的な本部の方針の双方の観点から述べていこうと思います。
まずなによりも第一の前提として、「お客様トラブル」は起きないことが一番望ましいといえます。
対応にかかる時間、他のお客様に与える影響、警察やその他の公務員の方々にかける苦労、対象のお客様へ対するご迷惑など、「トラブル」が起きていいことなど何一つとしてないと言えます。
であれば、何ごとにも丁重に対応し、「ことなかれ」に処理することが本当に望ましいのでしょうか?
たしかに、少ない時間で解決でき、その場をやり過ごすことだけを重要と考えるのならば、それもいいのかもしれません。
ですが、残念ながら、いわゆる「困ったお客様」というのは、一度で来なくなってくれればいいのですが、現代社会においてはむしろ、その逆で、なにかと粘着するきらいがあります。どうしてか?
考えてみれば簡単なことです。何しても文句やトラブルにならないお店であれば勝手気ままに振舞っても、自分に不利益が降りかからないと味をしめてしまうからです。
であれば、逆にきちんと警察などの公権力を頼って対応する方がよいのでしょうか?
本来であれば、これが一番望ましいのですが、残念ながら、これもいい結果を生むとは限りません。
たとえ店内で居座りなどの迷惑行為を受けたと主張しても、警察はきっちりと刑事事件として扱ってくれないのが実情です。
どうしてこのような状況になっているのか、私も不思議に感じているのですが、理由ははっきり言って「不明」です。
一つ例をあげましょう。
AとBの二人が、店内に入ってきました。店員Cはお客様だと認知し、「いらっしゃいませ」と声を掛けます。AとBはそのまま本売り場で立ち読みを始めました。
5分以上経っても変わらず週刊誌を読み続けていたため、店員Cは、AとBにたいして「立ち読みはご遠慮ください」と告げました。AとBは店員Cの言葉を無視して一向に立ち去る気配を見せません。
さらに5分が経過したため、店員Cは再度「立ち読みは他のお客様にもご迷惑になりますのでおやめください」と注意をしたところ、「うるさい!あっちいけ!俺は客だ!客に文句言うのかこの店は!」とAが大声で叫び始めました。
Bは本をおいて店内をうろうろと徘徊し始めます。この状況を見ていた店員Dは、仕方なく警報を発しました。警報ランプが回っているにもかかわらず、Aはあいかわらず店員Cに向かって、「おい警察よべ!」などと叫ぶのをやめません。
Bはそのうち店内の商品をとってレジにやってきて、商品を投げつけ、「レジ打てよ!」と店員Dに大声で強制します。
店員Dは「お連れ様が当店店員とトラブルを起こしておられますので、申し訳ございませんがお会計をさせていただくことはできかねます」と断ったところ、Bは逆上してレジのテーブルの上を乗り越えてこようとしました。
さすがに身の危険を感じたDはBを押しとどめたところ、Bは「お前殴ったな!」といって収拾がつきません。そうこうしているうちに、警備員が到着します。
さすがに警備員の前で店員に殴りかかるようなことまではしませんでしたが、店員CとDは再三に渡って、「店から出てください」と要求したのですが、AとBはレジ前に陣取ったまま動こうとしません。そしてようやくパトカーに乗った警官が二人到着しました。
少し長い例になりましたが、ふつうに起こりえる範疇の事案です。
さて、この事案において、問題点や争点をゆっくり整理していきましょう。
まず第一に、犯罪行為にあたるものがあったかどうか。
刑法において犯罪行為とされるのは、「構成要件・故意・違法性」の3つが満たされた行為とされています。
ここでは、「構成要件」についてのみ考察しつつ、抜き出していこうと思います。
つまり、「犯罪となる恐れのある行為」ということになります。警察への通報はこの時点でも問題なく行ってよいので、ここを基準として考えていこうと思います。
一つ目は「立ち読み」ですね。これについては非常に難しいのですが、店員側もここについては、注意を促した程度ですので、「犯罪行為」として認識しているわけではありません。あくまでも、「迷惑行為」にあたりますから「やめてください」と言ったにすぎません。厳密にいえば「威力業務妨害罪」の構成要件を満たしているので、「犯罪となる恐れのある行為」であることは間違いない事実です。
二つ目はAが店員Cの2回目の注意に対して大声で言い返したことですが、これは「強要罪」もしくは「脅迫罪」にあたる可能性があります。脅しや高圧的な態度などで対象の人の意図しないことをさせようとする行為であり、これも犯罪行為となる恐れがあります。
三つ目は、Bの徘徊、これは「威力業務妨害罪」にあたる可能性があります。
四つ目は、Bが「レジ打てよ!」と言ったくだりですが、商品を放り投げているので「器物損壊罪」、また会計をする意図のないDに会計を強要しているので「強要」または「脅迫」。
五つ目、Bがレジカウンターを乗り越えようとしたこと、「威力業務妨害」および「建造物侵入罪」、「脅迫」、「暴行」の可能性があります。
六つ目、BがDに「お前殴ったな!」といったところ、「詐欺」または「脅迫」、あるいは「名誉棄損」。
七つ目、AとBに店外へ出てくださいという店員らの要求を無視し居座り続けたところ、「不退去罪」、および「威力業務妨害罪」。
以上、「構成要件」的に該当するものだけでもこれだけの犯罪行為がおこなわれた可能性があるということです。
どれをとっても、店側に非がないように思えるのは私だけでしょうか?
ですが、警察の処理は、すべてスルーして、法的な処理は一切されません。せいぜい、「もういい加減にしてかえりなさい」とか言う程度です。まことに信じがたいのですが、これが現代においての事案処理の実情です。
AとBの名前や身元の確認すら行われないことも99パーセント以上という高確率です。
そうして、店側が、
「また来たらどうしたらいいですか?」と警察に問うと、
「来たらまた呼んでください」という返答が返ってきます。
到着に10分ほどもかかる警察をまた呼んで、到着前に何かが起きても、「不運」と言って片づけるわけです。
残念ですが、警察は役に立ちません。これが現実です。
通常コンビニにおいて、警察が事件として処理する事案というのは、「窃盗」つまり万引き犯を「捕まえたとき」(万引きされたと判明した時ではない)、店内で誰かが「怪我」をしたとき(たとえ殴られても怪我をしていなければスルーされる場合もあり得ます)、ものが壊された時(壊れていなければスルー)、「強盗」ぐらいのものでしょうか。
私の経験上、居座りの「不退去罪」や店員の業務の邪魔をする「威力業務妨害罪」で事件として処理された記憶は10数年間で一度もありませんでした。
つまり、コンビニにおいて、刑法が機能することはほぼ期待できないということです。
次回は民法的に見てみましょう。
教訓その6――コンビニにおいて刑法犯罪というのはほぼ起こりえない。厳密に言うと、事件として扱われない。もし起こったときは酷い損害が生じている場合で、取り返しがつかない場合もあるだろう
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