第12話 嘘つきアーカードVS脳筋リズ
「お前が奴隷を売らなければこんなことにはならなかったのではないか?」
ああ、そうだ。
確かにそうだ。
オレがクズに奴隷を売らなければこうはならなかった。
そもそも売った理由もかなり不純だ。
連続強姦殺人を犯した奴隷の所有権がオレにあると色々と面倒だから、適当なクズに売りつけたに過ぎない。
そのクズが児童売春を繰り返していたことも知っていたし、そんなやつにロリ奴隷を売ればどうなるかなど、自明の理だろう。
当然、わかってやっている。
クズ。
そうなじられてもおかしくはあるまい。
だが、これでいいのだ。
あらゆる困難と苦痛はオレではなく別のマヌケが背負うべきであり、原因がオレであったとしても、誰かのせいにし、うるさい口を封じるべきだ。
この世の富は有限で、運命はいつだって理不尽だ。
誰もが幸せになる未来が存在しない以上、皆で幸運の椅子を争うことになる。
もちろん争いたくないなら、それでもいい。
ただ、そんなことでは幸運の椅子には座れない。
椅子に座れないと、どこかの誰かに押しつけられたクソみたいな未来を抱えて、苦しみながら生きることになる。
なぜそうなるか、それは押しつけられた奴がマヌケだからだ。
オレはそんな人生はごめんだ。
嘘を吐き、人を騙し、操ってでも。
絶対に幸せになってやる。
「恐れながら申し上げます。現在の帝国は奴隷なくして運営できません。」
国家運営に口出しするという不遜とも取れる態度に、リズが眉根を寄せる。
リズ・ロズマリア。
お前のリズとしての部分は極めつけのクズだ。
「考えてみてください。奴隷がいない世界のことを。上下水道の管理や死体の処理を誰がやるのです。そんな
だが、皇帝直系の血筋。ロズマリアとしてはどうだ。
「あまりこの数字を出したくはないのですが、すでに帝都に住む奴隷の数は全体の35%を占めています。」
聖堂騎士団に動揺が走る。
この数字は嘘だ。
実際は50%を超えているが、リアリティを出す為に敢えて減らして申告した。
奴隷然とした服装をさせる者ばかりではないので目立たないが、過半数の住民が奴隷で構成されているこの帝都はかなり危険なパワーバランスの上に成り立っている。
帝都中の奴隷刻印を把握できるのは奴隷魔法を極めたオレくらいのものだろう。
「これだけの労働力を、それも誰もやりたがらない重労働をしてくれる奴隷を我々奴隷商なくして調達できるでしょうか。」
リズではなく、リズの中のロズマリアの部分がオレを見ていた。
「確かに、無理だな。」
「労働力はそのまま国の力だ。それを補充できなければ、国力は衰えるだろう。」
そうだ。
お前がどれだけ否定しても、お前は皇帝の血を受け継ぐ女。
その責任を放棄して逃れるなど、ロズマリアにできはしない。
「我々は奴隷を売りますが、どう使うかは主人次第です。奴隷商人も人ですから、大切に育てた奴隷を手放すのが惜しいこともあります。」
ここで「ちら」と視線を下げておく。
「特に今回ゼゲルに売ったイリスは……若いエルフ奴隷のイリスは本当にかわいい子で、惜しかったのですが、ゼゲルがどうしてもというので手放しました。」
手で顔を覆い、震えてみせる。
「ああ、イリス。かわいそうなイリス。聞けば、言葉にするにも
よしっ! 迫真の演技だ。
鏡の前で何度も練習した甲斐がある。
これは、意外といけるのではないか?
ククク。皆、愛する奴隷を失ったオレに同情しているのだろう。
沈痛な空気が漂っている。
聖堂騎士団が正義の為になんとなく暴力を行使するのなら、その正義に沿ったストーリーを用意してやればいい。
あのド変態ロリエルフにかける情など一欠片もないが、自分が助かるためなら何度だって愛を叫んで見せる。涙はまったく出ないが、必要ないだろう。
「お、お前が言うか!! お前が売ったド変態ロリ奴隷のせいで俺は!!」
椅子に縛り付けられたゼゲルが叫ぶ。
「危うく犯されるところだった。おお、俺は、俺は……。の、脳を……。」
気持ちはわかる。
気持ちはわかるが、ハメられるとはそういうものだ。
来世では気をつけるんだな。
「リズ・ロズマリア様! あのブタ野郎とオレ、どちらを信じるかお決めください!」
「ふざけるな!! 全部お前が悪い!! このメカクレ鬼畜奴隷商人め!! お前のせいで!! お前のせいで!!」
リズがオレとゼゲルを一瞥する。
入念に準備をし、小綺麗にしたオレVSいきなり拉致られた時着ていた薄汚れた普段着のゼゲル。
「どちらかと言うなら、アーカードだな。」
「そんな!」
当然の帰結だ。
この極めつけのクズ。というか愚かな聖堂騎士団どもは
感性? 感性とはなんだ。
わからん。「なんとなく」とどう違うんだ?
オレには「人を見て「あ、こいつ悪!」とビビッと来たらそれが天啓、殺ってよし。」としか見えない。
ならば話は簡単だ。
自分の見た物しか信じない連中を
服装なんて、着替えれば変わるようなものに惑わされるなど、アホの極み過ぎて笑ってしまいそうだ。
実際の内面がどうだろうと、誠実そうな服を着て、誠実そうな顔で、誠実そうなことを言えば、誠実に見える。あのアホどもはそれをそのまま信じてくれるというわけだ。
ククク、ちょろい。
実にちょろいと言えよう。
「アーカードの言葉は筋が通っているし、奴隷の件も事実その通りだ。言葉遣いも丁寧だし。品がある。」
そうでしょうとも、そうでしょうとも。
もっとも、あの話は数多いる奴隷商人とオレ個人を混同させた詭弁でしかない。
だというのに、バカは話をすり替えられたことにすら気づけない。
問題を切り分けるという、思考整理の初歩すらできない脳筋には口先だけで十分だ。
「だが、アーカード。お前はダメだ。私の感性が「お前は悪だ」と告げている。」
は!?
そんなバカな。何考えてるんだこいつ。
「えっ、つまり。言っている意味はわかるし。その通りだと思うけれど。納得がいかない、と?」
「その通りだ。だから悪だ。即ち異端である。」
「その他に、オレが異端だという理由は?」
「ないが、何か問題でもあるのか?」
きょとんとされてしまった。
や、やばい。
これは非常にやばい。
ここまで意味不明で理屈が通じない極まったクズだとは思わなかった。
「さぁ、とりあえず拷問しよう。複雑な謎を解く必要は無い。全部しゃべってもらえばいいだけだからな。」
おのれ、この脳筋クズめがああ!!
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