第4話 ド変態ロリエルフの強姦殺人
重厚な本が並ぶ書斎で、質のよい革張りの椅子にもたれかかる。
書斎机に向かうオレ、アーカードが手が止めると、両目を隠すように伸ばされた長髪が微かに揺れた。
「ここに呼ばれた理由がわかるか? イリス。」
オレの前に立つエルフの少女が「な、なんのことかのう」とシラを切る。
身分は奴隷。
シルクのような長い銀髪に、赤の瞳。
その可憐さは粗末なチュニックを纏っても色あせない。
かわいらしく目線を逸して口笛を吹く様を見ていると、何でも許してやりたくなるが、その姿は見かけに過ぎない。このエルフは既に600歳を超えている。
「そうか。じゃあ、この前オレが買った奴隷のグルンドを知っているか?」
「グルンド! グルンドか! おお、知っておるぞ! あの肉付きのいい。筋肉質で浅黒くて、オス臭さのたまらん、×××のでかい奴隷じゃな!」
嬉しそうに目を輝かせている。
実に純真そうだ。外見だけは。
「そのグルンドが今朝、干からびた状態で発見された。とても幸せそうな、恍惚とした表情をしていたそうだ。何か知らないか?」
イリスがばつの悪そうな顔をする。
視線が左右に揺らしながら、言葉を探して、こう言った。
「そ、そうなのか。それはかわいそうにのう。誰ぞに襲われたのかもしれん。この世には恐ろしいことをするやつがいるものじゃな!」
ぴゅーぴゅー鳴っていた口笛が、焦りでふすーふすーと掠れた音を立てている。
オレは続ける。
「そういえば、最近。夜中に部屋を抜け出しているようだな。」
「ま、まぁ。そうじゃな。でも、脱走せずにちゃんと帰ってきとるぞ!」
イリスが額にだらだらと汗をかいている。
「これも最近の話なんだが、宿屋で同じように干からびた状態で発見された奴らいてな。」「そのうちの2人は死んだらしい。」
イリスは仰天して言った。
「え、あいつら死んだのか!? そんな、たった27回しか。」
引っかかった。
「てめえ、イリス! 勝手に客を取るなと言っただろうが!! 何遍言えばわかるんだ!!」
「そ、そんな言い方をするな! 自由恋愛!! 自由恋愛じゃ!! 金ももらっておらんし!」
「週に12人とっかえひっかえするのが自由恋愛か? お前の自由は随分と進んでいるようだな! ああ!?」
「事故! あれは行為中の事故じゃ! 悲しい事故だったんじゃあ!!」
「ていうか、先週は12人もしとらん。10人くらいじゃ。冤罪じゃあああ!!」
可憐な少女が涙を流している。
事情を知らない人間が見たら、思わず全てを許してしまいたくなるだろう。
だが、
こうも夜な夜な死人を出していたら、いずれは殺人鬼として聖堂騎士団に討伐される。
となれば、主人であるオレもタダでは済むまい。
飼っていた虎が夜な夜な逃げ出して人を食ったからといって、すべてを虎のせいにできるわけもないだろう。
「いいか、お前とまともにやれる人類種は存在しない。やるなら生命力の強い竜種か、全長3メートル以上の健康な大型獣類にしろ。死人が出る。」
というか、もうすでに死人が出ている。
「そんな、わしだって人ともまぐわえるわい! それに、竜種はなかなか出会えんし、大型獣類はガサツじゃ。大抵、入れて出せばそれでいいと思っておる。そんなのは真の×××では……。」
力説していたイリスがふと、押し黙る。
前髪で隠されたオレの瞳は見えなくとも、溢れる怒気には気づくらしい。
このド変態ロリエルフはいつ強姦殺人の罪で訴えられてもおかしくない。
聖堂騎士団も動き出している頃だろう。
すでに捜査が進み、連続殺人事件として扱われているかもしれない。
奴隷商人は儲かるが、たまにこうしたことが起こる。
問題が起こることは想定していたが、想定以上だった。
ま、既に手は打ってあるが。
「もうお前にはうんざりだ。売り払う。」
イリスが硬直する。
「そ、そんな。アーカード。悪い冗談じゃろ?」
「わたしとお前の絆はそんなもんじゃないはずじゃ! イライラしとるのか? 合体、合体するか? お前が望むなら、×××だって。」
奴隷の待遇は主人によって大きく変わる。
オレのように奴隷に一定の自由や権限を与える主人もいれば、家畜のように扱う主人もいるし、虐待され衰弱死する奴隷もいる。
帝国法において奴隷は器物として扱われているため、主人が奴隷を殺しても特に問題にならない。馬や牛を殺したからといって殺人罪に問われないのと同じ理屈だ。
ちなみに他人の奴隷を殺害した場合は器物破損扱いになる。
この世界において、あくまで奴隷は物でしかない。
「せ、せめて売り払うなら優しい主人にしてくれ。い、いいじゃろ?」
「ダメだ。最近、ゼゲルとかいう人間のクズをみつけたからそいつに売り払う。というか、もう売ると決まっているし、ゼゲルはすぐにここに来る。」
「ま、お前の価値はそんなものだ。」
「あんまりじゃあああああ!!」
奴隷商人のオレが奴隷を売って何が悪い。
イリスはしばらく、泣きじゃくりながら抗議していたが、どう足掻いても売り払われるということがわかると、死んだような目で茫然とする。
新しい主人にいつものノリで接すれば、待っているのは教育という名の拷問だ。
しおらしくしていた方が無駄に苦しまずに済むとわかっているのだろう。
こうしているといじらしく見えるのが不思議だった。
傷ついた横顔は薄幸の少女そのもので、哀愁すら漂わせている。
グッド、いい流れだ。
これでこの重罪ド変態クソガキエルフを高値で売りつけることができるだろう。
オレが鼻歌を歌いながら契約書を準備していると、ドアをノックする音がした。
イリスの新しいご主人様がやってきたらしい。
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