第31話 好きな子の水着姿ほど、心にくるものはない

「舞ちゃん、それに亮君。今日は来てくれてありがとう」

「いえいえ、それは私たちのセリフですよ。BBQに誘ってくれてありがとうございました」

「むしろ大丈夫ですかね? 家族水入らずの場所に俺たちが入っちゃって」

「それについては全く問題ないよ。奏も咲も、君たちの事をとても気に入ってくれているからね。……何より、私たちがこうして一緒に出掛けられるのも君たちのお陰と、妻からは聞いているから」

「いえいえ~。そんなわけないですよ~」

「それにしては、やけに顔がにやけているような?」

「う、うるさいわね!」


 夏休みも7月から8月に突入し、夏の日差しがより一層存在感を放っている、そんなある日。

 俺と舞は現在、小鳥遊家の父親であるけんさん運転の元、とある場所に向かっている最中だった。


「それにしても、別荘自体行くの久しぶりだな~。3年ぶりくらい?」

「それくらいだと思うわよ。ちゃんと掃除はしてあるから安心して」

「流石お母さん!」


 とある場所というのは、夏休み前に少しだけ話した、小鳥遊家の別荘である。


 咲さんが引き籠る前にはよく家族で訪れていたという小鳥遊家の別荘。その別荘に俺と舞が招待されたのは、夏休みに入る前の話。そして、今日がその日というわけだった。

 というか、ゲームの最中に別荘に誘ってくるって、ある意味絶妙なタイミングだったよな(まあ、悪い意味でなんだけど)。

 俺も舞も驚き過ぎて、頭が真っ白になったのは記憶に新しい(棒立ちの俺たちは、相手プレイヤーに無残にもヘッドショットを決められました)。


 だって、普通の生活してたら別荘なんて言葉、漫画とかラノベでしか聞くことのない言葉だからな。仮にラノベとか漫画だったとしても、お金持ちのキャラが出てこないと聞かない言葉ではあるから、レアリティはかなり高い方だと思う。

 だからこそ、今日実際に別荘に遊びに行けるということで、俺も舞もワクワクしていた。


 ところで、前も話したけど、厳密にいえば持ち主は奏さんたちの祖父母ということになっているのだが、現在管理は両親である謙さんたちが行っている。

 つまり、実質的な所有者は謙さんたちという状況なのだ。だからこそ、今回のように比較的自由に使えるわけであって……。


 そもそも、奏さんたちの祖父母から『どうせ私たちだけでは持て余してしまうから、それなら皆で使って』と、むしろ促されているくらいらしい。

 確かに、別荘のような施設って年齢を重ねるほどに使わなくなっていきそうだからな。

 というわけで、別荘は自分たちの好きなタイミングで、好きなように使っても全く問題ないとのこと。


 ちなみに、少しだけ別荘の写真を見せてもらったけど、普通にでかくてビビった。いや、だって普通の一軒家っていっても過言じゃないくらいの大きさだったんだもの。

 外装はいわゆるログハウスっぽくて、いかにもって感じの見た目だった。

 広い庭があることも確認できたので、小鳥遊家+俺たちがBBQを行っても十分にお釣りがくるくらい。少なくとも10人程度でパーティを開いても問題ないレベルだった。


「というわけで、まいまいも亮ちんも、何にも気にせず楽しんでもらって大丈夫だからね!」

「全く、どうしてお姉ちゃんが一番得意げなの?」

「まぁまぁ。大丈夫よ咲ちゃん。私も亮も全然気にしてないから」

「むしろ、いつも通りって感じだよな。というか、得意げじゃない奏さんってあんまり見たことないし」

「ふふーん! それがアタシの取り柄ですから!」

「ふふっ、奏は学校の外でも家にいる時と変わらないのね」


 得意げに胸を張る奏さんに、助手席に座る奏さんの母親、唯さんが頬笑みを浮かべる。特に娘を咎める様子はない。奏さんがある程度自由に育てられたことがうかがえるシーンだ。

 恐らく、家では咲さんが締めるところを締めているのだろう。謙さんも、基本的には放任っぽい気がするし(自営業だし、仕事が忙しいってのもあるかもしれないが)。


 ところで、小鳥遊家の両親を見るのは今日が初めてだったりするのだが、父親である謙さんは渋い雰囲気を漂わせつつ、大人の色気というものも兼ね備えている(いわゆる、イケオジってやつか?。

 母親である唯さんは、二児の母親であることを感じさせない美貌、そしてスタイルの持ち主だった。多分、20代って言っても十分通じるほど。

 要するに容姿の高さを感じさせる小鳥遊家だった(二人を言い表すには自信の語彙力が足りない)。

 この二人から、奏さんと咲さんが生まれてきたのも納得である。

 ちなみに、二人は母親似。多分、唯さんの若い頃は今よりも更に若々しく、それはそれはモテたことだろう。


「それよりも!」


 そこで唯さんが助手席から後ろに座る舞に向かって、グイッと身体を乗り出す。

 至近距離に唯さんの顔が現れた舞は、反射的に身体を後ろに引く。隣に座っている俺もギョッとしたほどの早さだったので、舞の驚き具合は計り知れない。その証拠に、めっちゃビクッて震えてたし。

 一方、そんな舞の驚きを気にした様子のない唯さんは、目をキラキラさせながら舞に話しかける。


「舞ちゃんって、奏からは聞いてたけど、本当に可愛い子ね!! お目目パッチリだし、髪もサラサラだし! 見れば見るほど可愛いし、目に入れても痛くないほどの可愛さだわ!」

「あ、あはは……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

「お世辞だなんてそんな! 私は心からあなたのこと、可愛いって思ってるのに」

「そ、それなら……」


 少しだけ顔を赤くした舞が、助けてとばかりに奏さんへ振り返る。しかし、奏さんはニヤニヤとその視線を受け止めるばかり。


「こうなったらお母さん、止まらないから。それに~、まいまいが可愛いのも本当だしね」

「ちょ、ちょっと奏ちゃんまで!」

「舞先輩、諦めて受け入れるしかないです。私たちの友達も家に遊びに来た時には、よく犠牲になってましたから」

「犠牲という言葉を使うのはどうなんだろうか?」


 冷静に話す咲さんや俺のツッコミも聞こえていないようで、そのままハイテンションで舞に声を変えている唯さん。

 正直、傍から見ている分にはあわあわと慌てている可愛い舞の姿を見られるので、個人的には大満足だ。

 そんなわけで、俺もによによと二人のやり取りを眺めていると、


「ねっ、亮君もそう思うわよね?」

「えっ? 何がですか?」

「舞ちゃんのこと、可愛いって思うわよね!?」


 思わぬ流れ弾が飛んできた。完全に油断していた俺は思わず言葉に詰まる。

 いや、もちろん舞は可愛いんだけど……この状況で可愛いって言うの、結構恥ずかしくね?

 二人きりならともかく、小鳥遊家が全員見ているわけだし。

 しかし、そんなことで止まってくれる唯さんではなかった。グイグイと俺に言質を取るべく、迫ってくる。


「ねっ、亮君も舞ちゃんの事、可愛いって思ってるわよね」

「え、えぇ、そりゃもちろん……」

「あれあれ~? 亮ちんってば誤魔化してないで、はっきり言ってあげなきゃ駄目だよ?」


 そして、後ろから入る援護射撃。なお、俺に対する援護ではない模様。

 思わず後ろを振り返って奏さんと睨みつけるも余裕で受け止められるどころか、『早く言えっ☆』と言わんばかりにウインクを決められてしまった。

 こうなったら咲さんに……と思ったけど、どういうわけか期待の瞳で俺たちの事を見つめている。うん、この場に俺の味方は一人もいないらしい(涙目)。


「…………」


 しかも、当事者である舞もどういうわけか、そわそわと不安げな瞳を俺に向ける。

 ……そんな瞳を向けられたら、誤魔化すに誤魔化せなくなっちゃうじゃんか。

 俺はがりがりと頭を掻いたのち、舞に向かって一言だけ告げる。


「可愛いよ」

「っ!!」


 可愛いと告げると舞の頬が少しだけ赤く染まる。しかし、まんざらではないのか口元が微妙に緩んでいた。


「ひゅ~ひゅ~、亮ちんってばやるぅ~」


 一方、小学生みたいな野次を飛ばしているのはもちろん奏さん。ここが小鳥遊家の車でなかったら多分、頭を叩いていた。


「い、いや、今のは唯さんに頼まれたからであって――」

「……ふぅ、ごちそう様です」

「それは一体、なんに対して!?」


 訳の分からない咲さんの『ご馳走様』に困惑を隠せない。この場で唯一のまともキャラだと思ってたのに! 

 この子、たまにおかしくなるから困る。


「ふふっ、亮君も隅に置いておけないくらいのカッコよさを持ってるわね! 私が若かったらほっとかないくらい!」

「あ、あはは……光栄です」

「全く……皆、これ以上亮君たちを困らせない。ほら、もう直ぐ別荘に到着するよ」


 謙さんに窘められつつ、俺たちは目的の別荘へと到着したのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





『…………』

「とうちゃーく!」

「久しぶりに来たけど、あんまり変わってないね」

「もちろん。また何時でも来れるように、お母さんたちがちゃんと手入れしてたんだから!」

「みんな。まずは荷物を運んでくれるかな? 食材は冷蔵庫へ。それ以外は取り敢えずリビングで大丈夫だから」

「はーい」「うん」


 別荘が初めてではない小鳥遊家の面々は慣れた様子で、持ってきていた荷物を別荘の中へ運んでいく。

 一方、別荘を初めて見た俺と舞は、そびえたつ建物のあまりの迫力に声を失っていた。


「……しゃ、写真では見せてもらってたけど、想像以上ね」

「あぁ、すごいな。……すごいな」

「亮ってば、語彙力が終わってるわよ?」

「いや、一般人が別荘を目の前にすれば誰でも語彙力は終わるって。いや、この別荘が凄すぎるだけか?」

「確かにそうかもしれないわね……ほんと、すごいもの」

「二人とも~。驚くのはそれくらいにして、荷物運ぶの手伝って~」



 舞にも『すごい』という言葉が移ったところで、荷物を運んでいた奏さんから声がかかる。おっと、あまりに驚き過ぎてしまっていたみたいだ。

 俺たちは急いで自分たちの荷物を取りに車へと戻る。

 そして、残っていた荷物をあらかた運び終えたところで、奏さん案内の元今日泊まる部屋へ。


「まいまいはこっちで、亮ちんはこっちの部屋ね」

「了解」

「残念ね、亮。私たちと同じ部屋じゃなくて」

「べ、別に、同じ部屋じゃないからって、ガッカリしてねぇし!」


 隣通しに並んだ部屋ではあるのだが、舞の言う通り男女で部屋は別。流石に、小鳥遊家の両親のいる前で、男女が同じ部屋に寝泊まりするわけにはいかないという配慮からだ。

 ……さっき指摘されたけど、別に舞たちと同じ部屋だからって、残念がってないけどね。ほんとだよ?

 舞と奏さんから感じる生温かしい視線が、少しだけこそばゆい。


 ちなみに、舞の泊まる部屋は舞だけでなく、奏さんと咲さんも一緒となっていた。

 部屋も十分広いし、ベッドも人数分完備。それに、女子三人同じ部屋であれば、気兼ねなくおしゃべりなどもできるだろう。


 俺の部屋については、舞たちの部屋よりも少し狭いが一人で眠るのにはこれまた十分すぎる広さだった。普通に、家の自室よりの2倍くらいの広さだし。


 まあ、なんだかんだと説明したが、きっとどちらの部屋に集まってトランプなどをするから、部屋割りなんかは正直関係ないのかもしれない。

 遊んでいる最中に寝落ちしたとしても、そのくらいなら謙さんたちも見逃してくれるだろう。


「じゃあ、お部屋の紹介も済んだところで……早速準備しよっか!」

「準備?」

「もう、亮ちんってば、準備といえば決まってるでしょ?」


 奏さんの言葉に首を傾げていると、


「水着に着替えて、海に行くんだよ!」

「……あぁ、準備ってその準備ね」

「そうだよ亮ちん! 今回、海で遊べるのは、今日のBBQまでと明日の午前中くらい。それなら今すぐに着替えて、遊びつくさないと!」


 準備とは、そういう意味だったのか。準備と言われたから、まだ何かあるとばかり……。

 やる気満々で目を輝かせる奏さんに、俺は少しだけ苦笑いを浮かべて答える。

 確かに、海に来られる機会なんて一年に一度くらいだし、張り切る気持ちはよく分かる。

 しかし、今回については時間も十分だし、何より別荘の目の前に海が広がっている環境なのだ。

 いい忘れてたけど、この別荘は海からほど近い立地に建てられており、歩いて向かう事が出来る距離。しかも、所謂観光地化されているビーチではないため、泳いでいる人もほとんどいないという好条件のおまけつき。

 ほんと、小鳥遊家の祖父母は前世にどんな徳を積んだら、こんな場所に別荘を建てることができたのだろうか?


 という訳で、遊ぶにはこれ以上に条件のない場所だと理解することができたと思う。

 だからこそ、奏さんほどに気合を入れなくても十分遊びつくせるというわけだ。多分、全力で遊びつくしてたら日が暮れる前に体力がなくなってグロッキーになること間違いなしである。

 

「そうと決まれば、サクッと水着に着がえちゃおー! じゃあ、亮ちん。水着に着替えたらビーチに集合ね! 荷物は下のリビングにまとめてあるから、パラソルの設置は任せた!」

 

 とはいっても、気合の入りまくった奏さんにはそんなこと関係ないらしい。そして、俺はパラソル設置係という大役まで仰せつかってしまった。


「もう、お姉ちゃんってば少し落ち着てって。戸賀崎先輩もすみません。姉が勝手にパラソル係に任命しちゃって」

「いや、それについては大丈夫だよ。重いものを運ぶのは男の仕事だし、何より着がえも圧倒的に俺の方が早いと思うからな」


 姉に苦言を呈する咲さんを「まあまあ」と制する。どのみち、準備などは俺がしようかなと思っていたので丁度いい。


「それじゃ、アタシ達は飲み物とかを持っていくから、役割分担はそんな感じで!」

「了解した」

「……あと、楽しみにしててね?」

「ん? 何を?」

「アタシ達の水着姿!」


 パチッと様になるウインクを決める奏さん。彼女たちの水着姿ということで、一瞬頭の中に色々な妄想が浮かんできたが、慌ててその妄想を打ち消す。

 どうせ、海に行けば本物が見れるのだから、それまで我慢だ。


「……ま、まぁ、それなりには楽しみにしてます」

「ふふっ、亮ちんってば照れちゃって~。アタシ達のエッチな水着姿でも想像したな、このこの~」

「や、やめっ、想像してないから、わき腹つつかないで……あの、舞さんはどうしてそんな目を?」

「……亮のえっち」

「濡れ衣だって!」


 いらない濡れ衣を着せられつつ、俺たちは水着に着替える為、各自の部屋に分かれたのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「ふぅ、取り敢えずこんなもんかな?」


 浜辺に辿り着いた俺は、パラソルとレジャーシートの準備を終え、ふぅと息を吐く。

 パラソルの設置なんて生まれてこの方初めてだったが、こんなものだろう。取り敢えず途中でパラソルが勝手に閉じたり、風で飛んでいったりしなければ問題ないはずだ。


「それにしても、暑い」


 レジャーシートに腰掛けつつ、俺は改めて空を見上げる。

 太陽はほぼ真上に上り、容赦ない真夏の日差しが、砂浜と海に降り注がれていた。特に砂浜などは素足だと火傷をしてしまうほど。

 最近は温暖化の進行が著しいが、今年の夏は特に暑いと感じる。こりゃ、いくら海で遊ぶとはいえ、こまめに水分補給をしないと熱中症になっちまうな。


「……さて。後は舞たちを待つだけだけど」


 俺は少しだけそわそわしていた。その理由はもちろん、舞の(あと奏さんと咲さん)の水着姿を見ることができるということに他ならないからである。


「ま、まあ、水着なんてただの布。だから、何も緊張なんてする必要はないんだ!」


 そんな言葉を発する時点で、緊張しているのがまる分かりなのだが……。しかし、女の子の水着姿に期待してしまうというのは、ある種男の性。むしろ、興奮しないほうがおかしいのである(暴論)。

 

(しかし、初めて見る女子の水着姿が、まさか舞たちなんて……)


 もちろん、女性の水着姿なんてこれまで一度も見たこともなかったし(テレビのニュースくらい)、ましてやこんな形で好きな女の子の水着姿を見ることになるなんて思いもしなかった。

 俺は、今地球上の男性の中で一番恵まれているのではないだろうか?

 まあ、授業でのスクール水着姿だったら遠目で見たことくらいはあるんだけど(別に舞の事を狙って見ていたわけではない)。


「あっ、亮ちん!」

「っ!!」


 背後からの声に、俺はビクッと身体を震わせる。変な妄想をしているうちに、舞たちが着がえを終えて浜辺に到着したらしい。

 俺は努めて冷静なふりをしながら、後ろを振り返り、


「どうよどうよ? アタシたちの水着姿は?」

「っ!?」


 とても冷静になんてなれなかった。目の前の光景(楽園)に、思わず吐血するところだったぜ。

 込み上げてくる熱い思いと格闘しつつ、改めて三人の方へ向き直る。


「ほとんど誰もいない浜辺だし、結構大胆なものを選んじゃったけど、亮ちんはどう思う?」


 そう話す奏さんの水着は、確かに大胆なものだった。

 いわゆる、ビキニタイプの水着であり色は白と、比較的シンプルなものだったが、それが余計に奏さんのスタイルの良さを強調させていた。

 シンプルイズザベストとは、この事を言うのだろう(絶対違う)。

 特にビキニタイプって、肌の露出も多いし、スタイルが良くないと着こなせないからな。だからこそ、奏さんのビキニはとてもよく似合っていた。

 明るい彼女の性格をよく表している水着ともいえるだろう。


「いや、その……良いと思います」

「えぇ~それだけ?」

「お姉ちゃん、戸賀崎先輩が困ってるから」


 助け舟を出してくれた咲さんが着ていたのは、所謂ワンピースタイプの水着。

 露出が多くないタイプではあるのだが、落ち着いた雰囲気を持つ咲さんにはぴったりだろう。各所に花柄の模様があしらわれており、それもまた咲さんの魅力を引き出す要素になっていた。


「でもでも、結構悩んで選んだからには、やっぱりちゃんとした感想が欲しいわけで!」

「わ、わかった、分かったから。その、二人ともよく似合ってるよ」


 微妙に目を逸らしつつ、何とか感想を述べると、奏さんは満足げに頷く。


「言葉は少ないけど、まあいいでしょう! 合格だよ、亮ちん」

「よ、よかった……」

「合格って、何目線なのよお姉ちゃん。まあいいや。戸賀崎先輩も、褒めてくれてありがとうございます」


 咲さんは呆れているが、奏さんが合格点を与えてくれたので何よりだ。しかし、あんなありふれた感想でよかったのだろうか?


「……さて、最後はまいまいだよ。ほら、いつまでもアタシの後ろに隠れてないで! ほら、ファスナーもおろす!」

「ひゃっ!?」


 短い悲鳴と共に、今まで奏さんの後ろに隠れていた舞が俺の目の前に。更に、着ていたパーカーのファスナーを奏さんの手によって降ろされたため、舞の水着姿が眼前に現れたわけで――。


「…………」

「ちょ、ちょっとまだ心の準備が……」


 舞はいきなり露わになった水着姿に、恥ずかし気に身体をよじっていたが、俺はそれどころではなかった。ほんとに、よく気を失わずに済んだというほど。

 それほどまでに、好きな女の子の水着姿というものは、年頃の男子高校生にとって強烈なインパクトを与えたのだ。


 彼女が着ていたのはキャミソールタイプの水着だった。色は紺色で、水玉のような模様が全体に描かれている。

 露出は奏さんより控えめだが、それでも彼女のおへそ部分は見えてるし、胸の部分にフリルがあしらわれているとはいえ、その自己主張を完全に隠すことはできていない。


 ……いや、ほんとにすごいな。夏服越しでもその存在感は分かっていたつもりだったけど、こうして水着になるとその破壊力が何倍にも膨れ上がっている気がする。

 遠目で見たスク水姿とはまた違う。これこそが、彼女の持つ真の実力だというのか!? もちろん、この魅力は舞という素材があってこそである。


「…………」

「……えっと、その、流石に何の反応もないと、私も傷つくんだけど?」


 あまりに長い事フリーズしていたので、舞が不安げに俺の瞳を覗き込んでくる。単純に、舞の持つ魅力にあてられていただけなのだが、彼女はそう捉えなかったらしい。

 ……しかし、この覗き込む様な姿勢。舞の双丘から作られる谷間がより強調されるようになって。

 そして、まさに今、彼女の首元から流れた汗がその谷間の中に……って、違う違う! エロいことばっかり考えてないで、舞に水着の感想を伝えないと。


「わ、悪い……見惚れててつい。その、よく似合ってるから」

「そ、そうなの。……あ、ありがと」


 俺が素直に感想を告げると、舞はお礼を言いつつ頬を赤く染める。胸が大きいとか以前に、水着は舞によく似合っていたので、伝えられてよかった。

 舞は頬を染めたのち、右腕を反対の腕で抱くように俺から視線を逸らすも、その反応から嫌がっているようには感じない。

 今回ばかりは素直に思ったことをぶつけて正解だったようだ(まあ、他に気の利いた言葉が出てこなかっただけだけど)。


「ぶーぶー! 亮ちん、アタシ達の時とは全然反応違うんですけどー」

「そ、そんなに違ってないから!」

「いーや、絶対に違ったね。……まあ、本人たちが満足してるからいいんだけど。ほら、まいまいもいつまでもにやけてないの」

「に、ににに、にやけてないから!?」

「全く、すぐに二人の世界に入っちゃうから困ったもんだよ。ねっ、咲ちゃん?」

「まあ、お二人が気にしてないのなら、私はとやかく言うつもりはないですけど……あと、私的には尊い光景が見れたので満足です」

『入ってない(わよ)!!』


 こうして俺たちは、小鳥遊姉妹にいじられるだけいじられたのだった。

 海に入る前から滅茶苦茶疲れたんだけど……(主に精神面が)。

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