第21話 そうだ、ギャルの家に行こう

「奏ちゃんの家って、どんな感じなのかしらね?」

「どんな感じって、別に普通の家なんじゃ? 少なくとも奏さんはお嬢様じゃないわけだし」

「もう、想像力が足りないわね。能ある鷹は爪を隠すってことわざがある通り、奏ちゃんも実はお嬢様ってことを隠してるかもしれないじゃない。それに、奏ちゃんってクオーターでしょ? クオーターってことは、海外の血が流れてるって事になるわよね?」

「そうだな」

「海外の血が流れてるってことは、漫画やラノベ的な展開で考えればお金持ちである確率が高いのよ」

「確かに、ラノベとかではよくある展開だな」

「つまり、小鳥遊家もその法則に漏れずお金持ちってことになるのよ!!」

「うん、オタクの俺なら分からんでもないけど、それでも現実と2次元を一緒にしないでね」


 とある日曜日。俺は休日にも関わらず舞と一緒に、とある場所へ向かうための道を歩いている最中だった。まあどこへ向かうかは最初の会話で全てわかってしまったと思うけど。

 そう、俺たちは現在小鳥遊家への道のりを歩いているところだった。


「それにしても、遂に奏ちゃんの家に行くことになるなんてね」

「そうそう。部室でいきなり頭を下げられた時は何事かと思ったけど」


 俺と舞は部室での出来事を思い返す――。




「二人とも、今度の日曜日。アタシの家に遊びに来てくれない?」

『家に?』


 奏さんからのお願いに、俺たちは思わず顔を見合わせる。家に行くということ自体はもちろん構わない。問題は小鳥遊家に行くということは、奏さんだけでなく引き籠っている咲さんとも顔を合わせる可能性が高いということだ。


「えっと、もちろん私たちは大丈夫だけど、その……咲ちゃんは大丈夫なの?」


 舞の心配は最もである。俺だって同じことを考えたし。今でこそ普通にゲームを楽しんでくれている咲さんだが、画面越しに会話をするのと実際に会うのとではストレスもかなり違うはずだ。

 もちろん、舞も俺も咲さんに対して酷いようなことをする人間ではないし、素性の知らない人間と話すよりはよっぽどましだとは思うけど……。それでも、やっぱり心配になってしまう。


「俺も少し心配だな。いきなり俺たちが遊びに行って、咲さんのメンタルが不安定にならないかなって」

「それは大丈夫。もう、咲ちゃんからは了解を貰ってるから。咲ちゃんも不安だってことは言ってたけど、それよりも二人に会いたい気持ちが強いみたい。それに咲ちゃんは二人がとってもいい人だって、ゲーム越しだけどちゃんとわかってる。だから、気を遣わなくて大丈夫だよ」

『…………』


 そういって笑顔を浮かべる奏さん。反対に俺たちが何も言わなかったのは、僅かならが彼女の笑顔には心配の色が混ざり込んでいたからだ。


「もちろん、これまで気を遣って咲ちゃんに付き合ってくれたのは感謝してるけどね。だけど、アタシはそれだといつまで経っても状況は変わらないって思ってる。やっぱり、どこかで一歩踏み出すきっかけを咲ちゃんには掴んでほしいんだ。アタシはそのきっかけを2人と遊ぶことで掴んでほしいって思ってる。……ごめん、アタシってば二人の気持ちも聞かずに我が儘ばっかり」

「ううん、全然大丈夫。奏ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってきたから。我が儘なんかじゃないよ!」


 舞が奏さんの瞳をしっかりと見つめ、自分の言葉を伝える。ストレートに言葉を伝えられた奏さんの瞳が大きく見開かれた。


 先ほどのみた、心配の色はこれだったのか。


 妹の為に、俺たちを巻き込んでしまっているという罪悪感。そして、俺たちが義務で咲さんに付き合っているのではないかという不安。二つの気持ちが隠しきれなくなって、僅かに奏さんの中から漏れだしてしまった。推理としてはこんな所だろう。

 にも拘わらず、咲さんと一緒に遊んでほしいと頼んできた。その心は、罪悪感以上に奏さんが咲さんの事を助けてあげたい、俺たちと遊びたいと言った咲さんの気持ちを信じてあげたいと思っているからなのだろう。


 俺は引き籠った経験がないので、咲さんの気持ちを全てわかるわけではない。しかし、外の世界にいる人間と繋がりたいということは、少なくとも咲さん自身が今の状況を何とか打破したいということを意味しているのではないだろうか?

 でなければ、わざわざ俺たちと向かい合って会う必要はないし、会話をしたいだけならこれまでと同様、画面越しで十分なはずだ。俺たちの事をいい人だって言っていた通り、咲さんにとってもあの空間は居心地のよいものになっていたはずだろうし。


 その居心地のよい空間を捨ててまで俺たちと会いたいということは、先ほども言った通り現状の打破以外に他ならない……と思っている。

 後は、これ以上奏さんをはじめとした家族に心配をかけたくないと思っているからではないだろうか? まあ、結局は本人の話を聞いたわけじゃないので、妄想にすぎないって言われたらそれまでなんだけど。


「今の奏ちゃんのお願い、我が儘のうちに全然入らないから。逆に、我が儘じゃないかなって心配させちゃった、そっちの方が私としては悔しい」


 いらない心配をさせてしまったと、悲し気に眉を顰める舞。

 舞にとって奏さんは大切な親友でもある。だからこそ、舞は奏さんに無駄な心配をかけてしまったことが悔しいのだろう。表情からその気持ちがよく伝わってくる。

 ……ほんと、優しすぎるくらい優しいやつだよ。ちょっとだけ惚れ直した。

 

「舞の言う通りだ。確かに俺たちは最初こそ、奏さんの頼まれて咲さんに付き合ってたかもしれないけど、今は違う。ちゃんと咲さんを友達だと思ってるから、一緒に遊んでるんだ。もちろん、奏さんが我が儘だって思ったことは一度もない」

「奏ちゃんも分かってると思うけど、義務感だけであそこまで付き合えないでしょ? 私たちは奏ちゃんの事も、咲ちゃんの事も好きだから一緒に遊んでるの」

「……ふたりとも、ちょっとお人好し過ぎない?」


 茶化したつもりなのだろうが、奏さんの声は少しだけ震えていた。


「別にお人好しで結構だよ。これで奏さんと咲さんが実は悪い人でしたってなったら困るけど、絶対にありえないしな」

「ふふっ、私も亮と同意見よ。これで騙されてたら、私たちが間抜けだったってこと。だからね奏ちゃん……是非、奏ちゃんの家に遊びに行かせてください」

「俺からも頼むよ」

「ちょっと、さっきからずるいってば……」


 奏さんの声は分かりやすく震え、俺たちを見つめる瞳が潤む。

 潤んだ瞳を俺たちに隠すようにごしごしと右手でこする。そして、俺たちに向かって頭を下げると、


「うん! こちらこそ、よろしくお願いします」


 顔を上げた時にはいつもの明るい奏さんが戻っていた。にっこりと笑顔を浮かべる奏さんに、先ほどみた心配の色はどこにも感じられなかった。 


「ちなみに、遊びに行く日はいつにするんだ?」

「えっとね、今度の日曜日はうちにアタシと咲ちゃんしかいないから、そこがいいんだけど二人はどう?」

「私は大丈夫よ。今度の日曜日は特に予定は入っていないから」

「亮ちんは?」

「俺はバイトが入ってるけど……今、休む連絡を入れた」

「えっ! 早っ!!」

「いつの間に……隣にいるのに全然気づかなかった」


 驚く奏さん。少しだけ引いているような表情を浮かべる舞。ちなみに俺は、奏さんが日曜日と言った瞬間に電話で連絡を入れていました。編集長はいきなりの連絡にびっくりしていたが、快く休みを許してくれた。

 本来、休みの連絡はもっと早くするべきなのだが、今回ばかりは仕方ないと自分に言い聞かせる。奏さん自身のお願いを無下に断るわけにもいかないし、少しでも咲さんの助けになるのであれば、俺は喜んでバイトを休むことを選択する。


 それに、日曜日に働けなかった分は別の日に埋め合わせをすればいいしな。凜さんには怒られるかもしれないが、小鳥遊姉妹の事情は大まかに話しているので、説明をすれば納得してくれるだろう。

 ちなみに、快く休みをくれたとは言ったが、後日馬車馬の如く埋め合わせをする羽目になるのはまた別のお話。




―――とまあ、こんな紆余曲折があった上で現在に至るというわけだ。


「せっかく、咲ちゃんが私たちと一緒に遊びたいって言ってくれたんだから、まずは緊張させないように接してあげないとね」

「まあ、基本的にはいつもの感じで接してあげれば大丈夫だと思うけどな。変に意識すると、こっちまで緊張しちゃいそうだし」

「亮はコミュ障だし、しょうがないわよね。咲ちゃんに変な緊張を移しちゃ駄目よ?」

「コミュ障言うな。それに、緊張も移さないから……というか、舞の鞄。中身めっちゃ入ってるみたいだけど、何持ってきたの?」


 俺の指摘通り、舞はリュックを背負っていたのだが、そのリュックが異様に膨れている。お茶菓子くらいはお互い持ってくるだろうと思っていたけど、あの膨らみは絶対にお菓子以外のモノが入っているはずだ。というか、お菓子が入っているであろう紙袋は右手に持ってるし。

 反対に俺が持ってきたものは、ゲームのコントローラーと、渡す用のお菓子くらいである。だから、俺の鞄はほとんどスカスカに近い状態だ。

 ……まさか、アニメのBDとか入ってないよね?


「ん? これ? ふふ~、これはね……奏ちゃんと咲ちゃんに紹介するためのアニメのBDが入ってるのよ!」

「…………はぁ」

「なんでため息をつくのよ!!」


 まさか適当に予想したことが当たるだなんて。こんなことがあって果たしていいのだろうか?

 ため息をつく俺に、舞が怒ったようにツッコミを入れる。いや、ため息をつきたくなる気持ちもわかってくれ。


「だって、まさかアニメのBDを持ってくるだなんて思わないじゃん」

「いやいや、初対面の相手の緊張を解くには一緒にアニメ鑑賞をするって、昔から相場は決まってるのよ!」

「そんな相場、聞いたことないって」


 あってたまるか、そんな相場。


「亮には分からないかもしれないけど、アニメって意外と話が広がる優秀なコンテンツなのよ? もちろん、相手はちゃんと選ばなきゃいけないけど、咲ちゃんならきっと大丈夫なはず。だって、私が会話の随所にちりばめたアニメ用語に少しだけ反応してたの、ヘッドフォン越しでもわかったから」

「お前、楽しく話してる裏でそんなことしてたのかよ」

「会話はちゃんと楽しんでたから、何の問題もないわ!」


 確かにそうかもしれないけど、まあ器用なことを……。

 実を言うと俺は、舞がやけに咲さんとの会話の中でアニメの有名なセリフをちりばめているということには気づいていた。

 その時は『やけにアニメのセリフ離してるな』くらいにしか思っていなかったが、まさかその理由が咲さんの反応を確認するためだったなんて。確かに、アニメ好きかどうかをあぶりだすにはいい方法かもしれないけどさ。


 それにしても、舞の言っていることが正しければ、咲さんも実はアニメ好きということになる。

 奏さんからは咲さんがアニメ好きだとは聞いていないが、姉には隠しているだけかもしれない。まあ、ゲームが好きな人って高確率でアニメや漫画も好きだからおかしなことではないだろう。


「でもさ、もしかすると奏さんには隠していることかもしれないから、あまりツッコまないほうがいいんじゃね?」

「そこも安心してちょうだい! 今回のアニメ鑑賞は、私がどうしても見たいからって事するつもりだから。私はアニメが好きって奏ちゃんにもバレてるし、問題ないでしょ?」


 なるほど、悪くない作戦である。舞がアニメを見たいって言うのはオタクである以上そこまで不自然なことではないし、なによりアニメを見ている時の咲さんの反応も同時に見ることができる。

 もしかすると、咲さんの方からアニメについて話してきてくれるかもしれないからな。より、心を開いてもらうにはいいかもしれない。


 しかし、俺には一つ心配事がある。


「ちなみに、今回持っていたアニメは……健全な奴だろうな?」

「ちょっと! その言い方だと、私がまるで普段は不健全なアニメを見てるみたいじゃない!」

「エロゲや、エッチな漫画の好きなやつが持ってくるアニメだぞ? そんなの、信用できるわけないじゃん」


 最近はテレビ放送では見れない過激なシーンを、BDで惜しげもなく解禁って作品も増えてるからな。そんな作品を持ってきた日には空気が終わること間違いなし。


「いや、確かにそう言われるとぐうの音も出ないけど……で、でも、今回持ってきたアニメは健全なアニメだから安心して! ……エッチなのを持ってこようか、ちょっと悩んだけど」

「最後のセリフが不穏すぎる」


 よくぞ踏みとどまってくれた。これでエッチなアニメを持ってきていたら、千年の恋も醒めるところだったよ。

 ちなみに、舞が持ってきたアニメは本当に普通のアニメでした。なんなら、非オタである奏さんでも楽しめるような、感動系のアニメである。

 俺ももちろん履修済みだが、これなら何の文句も出ない、非常によいチョイスであった。


「ところで服装って、こんな感じで大丈夫だったかな?」

「服? 別に問題ないと思うわよ。良くも悪くも、無難って感じ。そもそも、その服って前にアニメのコラボカフェに行った時の服とほぼ同じよね? Tシャツが多少違うけど」


 舞の言う通り、俺の服装はこの前一緒に出掛けた時と大差ない格好に落ち着いていた。結構悩んだんだけど、やっぱり無難な服に落ち着いちゃうよね。センスがないと余計に。

 舞は遊びに行った時のデニムではなく、クリーム色のオープンショルダーのブラウスに、下は黒色のスカートという夏を一足先取りしたような恰好だった。今日は駅で待ち合わせしていたのだが、彼女の格好を見た瞬間色々な感情が込み上げてきたのは記憶に新しい。

 もちろん、似合っていないわけがなく、彼女のスタイルの良さを惜しげもなくアピールするには十分だった。


「そもそも、今日はどこかへ出かけるわけじゃなくて、ずっと家にいるわけだから、よっぽど変な格好じゃない限り問題ないわよ。それに、亮は背伸びして服を選んでも変になるだけなんだから、今の格好が一番似合ってると思うわよ」

「そっか? まあ、舞がそういうなら大丈夫なんだろうけど」

「うん。間違いないから、安心して。それで、私の格好はどう?」


 舞が俺の視界を遮るように、自身の格好をこれでもかとアピールしてくる。

 さっきも言った通り、もちろんよく似合っているのだが、改めて口に出そうとするとなかなかに恥ずかしいな……。


「いや、まあ……似合ってるよ。うん」

「えぇ~、それだけ?」

「…………可愛いです」

「ふふっ、素直でよろしい!」


 満足げに頬笑みを浮かべる舞。一方の俺は恥ずかしさを隠すように彼女から視線を逸らす。

 多分、『可愛い』と言わせるための行動だったのだろう。くそ、まんまと舞の術中にはまってしまった。


「と、ところで、あとどれくらいなんだ?」


 恥ずかしさを誤魔化すために俺は話題を逸らす。


「えっとね、地図アプリ的にはもう直ぐの所までは来てるよ。あと2~3分歩けば到着できるんじゃない?」


 舞のスマホを見せてもらうと、確かに現在地から奏さんの家はさほど離れていなかった。これなら舞の言う通り、すぐに到着できるだろう。

 そして、そのまま歩くこと5分程度。


「えっと、この家ね!」


 俺たちは無事、小鳥遊家に到着していた。時間も指定された通り、10時ピッタリ。

 表札らしきものにもちゃんと『Takanashi』と書かれているので間違いないだろう。


「綺麗な家ね。最近建てたのかしら?」

「確かに。もしかしたらリフォームしたのかも。それに、他の家よりも大きいよな?」


 これは誇張でも何でもなく、確実に周りの家よりは大きかった。

 犬が走り回っても問題ないくらいの庭もあるし、車庫もあるし、何より少しだけ見ただけでも色々こだわって建てたんだろうなってのがよく伝わってくる。


「やっぱり、奏ちゃんの家はお金持ちだったって事よ。これで私のクオーターの子、お金持ち説が証明されたわね!」

「いや、確かにそうかもしれないけど、あまりにサンプル数が少なすぎるんじゃ?」

「細かいことはいいのよ!」


 理系に怒られそうなガバガバ理論を披露したところで、舞はインターホンへ手を伸ばす。


「じゃあインターホン、押しちゃうわね」

「お願いします」


 舞がインターホンのボタンを押す。すると、扉の向こうからバタバタと足音が聞こえてきて、


「二人ともいらっしゃい!!」


 勢いよく玄関の扉が開かれ、奏さんがとんでもない勢いで顔を出した。あらかじめ、後ろに下がっておいてよかった。下がってなかったら扉か、奏さんのどちらかにぶつかっていたのだろう。


「ちょっ!? 奏ちゃん、勢いよく出てき過ぎ」

「えへへ~、二人が来るのが待ちきれなくて」

「も、もう……」


 うん、可愛い。今の笑顔で全てを許してあげられるほどに。舞も余りの可愛さに、文句を言いたげにしながらも奏さんの頭を撫でていた。

 ひとしきり百合百合した後、俺たちはリビングへ案内される。リビングも広く開放的で、俺の家とは違い無駄なものもほとんど置かれていなかった。


「奏ちゃんの家、すごく綺麗ね!」

「ありがと! パパが建築士でね。色々こだわってるらしいんだ。まあ、アタシにはよく分かんないんだけどね~」


 どうやら奏さんのお父さんは建築士らしい。どうりで外観から内観まで様々なこだわりが感じられるわけだ。置かれているソファやテーブルなど、普通の家では見たことないようなブランドのモノが置かれているし。

 それが娘に伝わっていないようで、少しだけ悲しくなるけど。


「あっ、奏ちゃんこれ。ケーキ、持ってきたから」

「俺も。ケーキじゃないけど、多分有名なクッキーだと思う」

「わぁっ! 二人ともありがと! 後で食べるときにまた持ってくるね」


 ケーキを冷蔵庫にしまい、奏さんは再びリビングへ戻ってくる。


「今日はこの前も言った通り、パパもママもいないからリラックスしてくれて構わないからね」


 奏さん曰く、お父さんは仕事でお母さんは買い物やらなんやらで夕方まで帰ってこないらしい。お父さんは休日まで仕事だなんて大変だな。


「ありがと。それで……咲ちゃんは?」

「うん、二人が来ていることには気づいてるはずだから、もう直ぐ降りてくるとは思うけど」


 すると、階段とトントンと降りてくる音が僅かではあるが聞こえてきた。恐らく、奏さんの言う通り咲さんが自分の部屋からリビングへと降りてきているのだろう。

 俺と舞は少しだけ居住まいを正す。さっきまで緊張を与えない様にとか言っていたが、やはり初めて会うということで俺はもちろん、舞も緊張しているようだった。


「ちょっと、二人とも緊張しすぎだよ! 別にアタシの両親に会うわけじゃないんだからリラックス、リラックス」


 見かねた奏さんからリラックスという言葉がかかり、俺と舞の緊張が若干解れたところで、リビングの扉がゆっくりと開き、今日の主役がリビングに顔を出した。


「……は、初めまして。た、小鳥遊……咲です」

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