第20話 人間関係は誰しも苦労するものである
「――ということがあったんですよ」
その日のバイト先にて。たまたま俺は休憩が一緒になった凜さんに、咲さんとの出来事を話していた。
忘れてしまった人の為にもう一度説明しておくと、本名は八重洲凜。俺のバイト先の先輩であり、母さんの担当でもある敏腕編集者だ。そして、美人。スタイルも抜群という非の打ちどころがない人でもある。ただし、男運だけがないとは本人の談。
ただ、そうはいっても学生とは違い、大人として何か参考にできる話の一つや二つ、あるはずだろう。人生経験も俺たちよりも豊富だからな。
ちなみに、ゲームをやる日の日程については、再び金曜日になることが濃厚だった。金曜日の方が夜遅くまでゲームができるし、次の日が休みということもあってメンタル面でも都合がいいからな。
プレイするゲームについては、取り敢えずはFPSということになっている。それで別のモノでもって話になったら、切り替える予定だ。
今は昔のようにいちいちパッケージ版を購入しなくても、ダウンロード版を購入すればすぐにプレイできるので便利である。
俺の話を黙って聞いていた凜さんだったが、
「亮君はいつからラノベ主人公になったんですか?」
「話聞いてました?」
俺の話は何にも伝わっていなかったらしい。可愛らしくこてんっ、と首を傾げる凜さんに呆れてツッコミを入れる。
今の話をどう解釈したら、俺がラノベ主人公だって結論になるんだよ? ラノベ主人公と呼べる部分は何一つなかったはずだ。
「いや、だって女子三人と日付が変わるまで一緒にゲームを楽しむって、ハーレム主人公以外の何物でもないじゃないですか。というか、今のラノベだってそこまであからさまなことしませんよ。そんな事するのは、なろう系の主人公だけです。なろう系ハーレム主人公です」
なろう系主人公に対する熱い風評被害。俺は断固として抗議したい。
「ハーレム系主人公って……その三人は誰も俺に好意を持ってないですって。そもそも、その一人は顔だって見たことないわけですから」
「だけど、美人ギャルの妹さんなわけですよね? それなら美人に決まってます。美人姉妹の妹もまた美人なんですよ!」
「いや、確かにその可能性は極めて高いと思いますけど。それにしたって、なろう系ラノベ主人公はやめてください」
「うるさいですよ。鈍感なろう系ラノベハーレム主人公」
「また一つ増えた……」
しかも増えてほしくない項目。聞きようによっては最低の主人公である。昨今のアニメファンの嫌いな主人公補正をこれでもかと詰め込んだ形だ。
いらない称号が二つ三つ、押し付けられたところで、凜さんはようやく真面目な表情になる。
「だけど、その子はどうして引き籠ってしまったんでしょうね? 話を聞いている限り、コミュニケーションにも全く問題がなさそうですけど」
「やっぱり凜さんもそう思いますか? 俺もそこが一番引っかかってる部分なんですよね。この前ゲームをした時もコミュニケーションに難があるどころか、むしろうまく気をまわしてくれるような子でもありましたし」
ゲームだけで何が分かると思われてしまうかもしれないが、ゲーム内での俺や奏さんのフォロー、舞との連携のうまさ。それだけでも、咲さんのコミュニケーション能力の高さがよく分かる。
むしろ、俺よりも高いと思ったくらいだし……俺も頑張ろ。
「まぁ、悩みは人それぞれですからね。下手に首を突っ込むと、余計外に出にくくなっちゃうかもしれないですし」
「そうですよね~。現状、取り敢えずは、これまで通りゲームを楽しむことにしますよ。気晴らし程度になってくれれば嬉しいって感じです」
「私もその程度の気持ちでいいと思いますよ。とにかく、気を遣うことなく普通にしてもらえる方が、本人も嬉しいと思いますから」
それもそうなんだよな。中には気を遣われることの方が、逆にしんどくなる人もいるわけだし。その辺は奏さんとうまく連携しながら、付き合っていけるといいんだけど。
「だけど、話を聞いた限り、優しいお姉ちゃんに亮君ともう一人女の子が付いているんですよね? 少なくとも、私はそれで大丈夫だと思いますよ。それだけ味方がいるってことですから」
「そんなもんですかね?」
「はい。いくら大丈夫と口では言っても、一人でいる寂しさは相当だと思いますからね。むしろ、本当の事を言うタイミングを図っているかもしれないですし、いずれ亮君たちにも事情を話してくれますよ」
「それじゃあ、凜さんの言うことを信じてみることにします」
俺たちの存在が咲さんにとって、プラスになっているかは分からないけど、今は凜さんの言葉を信じてみることにしよう。
そうしたほうが、俺たちの気持ちも楽になるし、ゲームも純粋な気持ちで楽しめるだろうからな。
「ちなみに、凜さんは学生時代に人間関係で苦労した事とかってあるんですか?」
「私ですか? そりゃ、ありますよ。なんせ、こんなに可愛くて美人で尚且つスタイルもいいんですから。よく、女子たちにやっかまれたものです」
「自分で可愛いとか美人とか言いますか……まあ、否定はできないですけど」
学生時代も可愛かったんだろうなってのは容易に想像ができる。そして、色々な男子からモテて、女子からはやっかまれて……もしかすると、この前の舞の状況と似ていることを体験しているのかもな。
「ふふっ、亮君は私の事を可愛くて美人だと思ってくれているんですか?」
「……凜さんの事を可愛くないという人の方が珍しいですよ」
「照れなくてもいいですよ。むっつり亮君」
「むっつりは余計です!!」
くっ、この人は母さんが絡まないと、美人でからかい上手のお姉さんになるから困る。
「え、えっと、その時はどうしたんですか? やっぱり泣き寝入りですか?」
「そんな事するわけないじゃないですか。真っ向から向き合って、返り討ちにしてやりましたよ。やられっぱなしは性に合わないですからね。ボコボコにしたうえで、和解しました」
「そ、そうなんですか……」
多分、相手をとことん追い詰めたんだろうな……。ある意味、この人らしいっちゃこの人らしい。てか和解とか言ってるけど、絶対無理やり従わせたんだろうな。それか、相手が尊敬して舎弟のような立場になったか。
いずれにせよ、俺は凜さんに逆らわない様にしよう。別に、逆らう場面もないんだけどさ。
「そんなに怖がらないで下さい。今となっては少しやり過ぎたなって反省してるんですから」
「少しなんですね……でも、学生時代それだけモテてたんですよね? なのに、どうして今は彼氏がいないんですか?」
「……亮君もボコボコにされたいですか?」
「……いいえ。今は口が滑りました」
おっと、思わず口がすべってしまった。ニッコリと笑顔に見えない笑顔を浮かべる凜さんに頭を下げる。
「口が滑ったのならしょうがないですね。まったく、亮君であっても言っていいことと悪いことがありますよ?」
「これからは気を付けます。だけど、本当にいい人はいないんですか?」
「……うーん、もちろん顔がいい人は沢山いましたよ。でも、そういう人たちは私の顔とか身体しか見てなかったですから」
はぁ、とため息をつく凛さん。その表情はどこか虚ろ気で、諦めに近い雰囲気も感じる。想像でしかないけど、中身を見てくれる男の人が本当に少なかったのだろう。
「もったいないですね。凜さんは中身も合わせて魅力的なのに」
コーヒーを飲みつつ何気なく呟く。そんな俺の言葉に凜さんの瞳が大きく見開かれ、
「……それなら、亮君が私を貰ってくれてもいいんですよ?」
思わず飲んでいたコーヒーを噴き出しかけた。
「ちょっ!? が、学生をからかわないで下さい」
「……本気だって言ったらどうしますか?」
「へっ!?」
驚く俺を他所に、凜さんの右手が俺の頬に伸びる。俺を見つめる凜さんの瞳はとろんと潤み、魅惑的な唇が近づいてくる。
避けないといけないのに、俺の身体は金縛りにあったかのように動かない。その間にも、凜さんの顔はどんどんと迫ってくる。
(や、やばい……)
俺はキュッと目を瞑る。そして次に来る柔らかい感触に備え――。
「……ふふっ、本気にしちゃいました?」
目を開けると、いらずらっぽく舌を出す凜さんの姿が。その姿からは先ほどの魅惑的な雰囲気は微塵も感じない。も、もしかして、今のはからかわれてただけだった!?
勘違いを自覚すると、急に身体中が熱くなってくる。
「ちょ!? だ、だから、初心な学生をからかうなって言ったじゃないですか!!」
「ごめんなさい。真っ赤になる亮君があまりに可愛くて。というか、社会人の私が亮君に手を出したら犯罪になっちゃいますよ」
至極まっとうな意見だった。しかし、それでも恋愛経験の少ない(好きな人のいる)高校生をからかわないでほしい。
「それでもですよ! 全く!!」
「すみません。ジュースを奢ってあげますから、許してください」
そういって休憩室にある自販機でジュースを買い、俺に手渡してくる凜さん。今日は何かと、お詫びとしてジュースを貰うことが多い日だな。良くも悪くも俺がからかわれてるだけなんだけど。
凜さんからペットボトルを受け取り、一息で半分程度飲み干す。喉が渇いていたから丁度良かった(小並感)。
「でも、亮君が二十歳まで誰とも付き合ってなかったら、貰ってくれて大丈夫ですからね?」
「……もうその手には乗りませんから」
ニコニコと微笑む凜さんを冷たくあしらう。何回も騙されていては俺の心臓が持たないからな。
というか、この人を俺が20歳になるまで放っておく男はきっといないだろう。そのうち、サクッと結婚してそうな感じはする。
「だけど、話を聞いてくれてありがとうございました。色々、参考になってよかったです」
「いえいえ、進展があったら連絡してくださいね?」
「分かってますよ。ちゃんと良い報告ができるように頑張りますから」
「はい。二つの意味で期待してますよ」
「二つ? どういう意味ですか?」
「いえ、それはこちらの話ですから。亮君は気にしないで大丈夫です」
最後によく分からないことを言われたけど、とにかく咲さんの為に頑張ろう。話しているうちに休憩時間も終わったので、俺と凛さんは仕事へと戻っていくのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よしっ! 早速今日も始めましょうか」
そして、あっという間に金曜日の夜となり、俺たちはこの前と同じようにチャットルームに集合していた。
「うん、よろしくね!」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
元気に挨拶する奏さんと礼儀正しい咲さん。前回と比較し、咲さんの緊張も少し解れているようだった。
「三人とも気合十分ね。これなら、ランク帯もどんどん上がっていきそうね」
「ふっふっふ、アタシは咲ちゃんの指導の元、プレイスキルがどんどん上達してるからね。今回は自信あるよ」
「……まぁ、素人に毛が生えた程度の成長ですが」
「ちょっと咲ちゃん、酷い!!」
どうやら、奏さんも前回のままではまずいと思ったのかそれなりに練習して来ているらしい。咲さんの意見が中々に辛辣だが、照れ隠しの意味もあるだろう。
咲さんは状況に応じた指示も的確なので、きっと奏さんのプレイスキルはかなり向上しているはずだ。俺もソロプレイやうまい人の動画を見たりしてうまくなったつもりなのだが、置いて行かれないように気を付けないと。
「ふふっ、奏ちゃんにも期待してるわ。亮も練習しているみたいだし、二人のお手並み拝見ってところね」
「任せなさい! じゃんじゃん相手をキルしちゃうからね!」
「俺も前回よりはうまくなってるから、援護は任せといてくれ」
「そういって亮は速攻で死にそうよね~。情けない悲鳴を上げながら」
「いや、流石に今回は大丈夫だよ。というか、情けない悲鳴は余計だ」
確かに前回は情けない悲鳴を上げて死んだかもしれないが、今回の俺は違う。フラグかもしれないが、違うったら違う。
「……ふふっ。情けない悲鳴……」
「あー! 咲ちゃんが笑ってる。亮ちん、これはガツンと言ってやらないとダメだよ!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!!」
どうやら俺の情けない悲鳴を想像した咲さんが、思わず笑ってしまったらしい。普通に泣きそう。いや、それだけ心を開いてくれたと考えるべきか?
「と、戸賀崎先輩、今のはお姉ちゃんが勝手に言ってるだけですから!」
「うん、大丈夫。今回は咲さんが想像した、情けない悲鳴を上げない様に頑張るから」
「ちょっと、お姉ちゃんが変なこと言ったせいで、戸賀崎先輩が自虐しちゃってるじゃん!」
「えー、でも笑ってたのは本当でしょ?」
「そ、そうかもしれないけど、あれはしょうがないというか……」
やっぱり、笑ってたのは真実らしい。悲しいなぁ。先輩としての面目が丸つぶれである。
「まあ笑っちゃうのも仕方ないわよ。亮は気にしてないから、面白かったらもっと笑っていいからね?」
「おい、俺は別に笑われてもいいんだけど、どうして舞が勝手に許可してるんだよ?」
「笑われてもいいなら、誰が許可してもいいじゃない」
「そりゃそうかもしれないけど……まあいいや。咲さん、別に笑ったことは気にしてないから。むしろ、もっと笑ってくれて大丈夫だから」
「もっと笑っていいって、亮ちんってM気質なの?」
「いや、今のは言葉の綾だから」
「そうなの。亮って、イジメればイジメるほど喜ぶドMなのよ」
「ふざけんな! 俺はMじゃねぇ! 普通だ普通」
「……ふふっ」
「あー、咲ちゃんが亮ちんがドMだからって、また笑ってる!」
「ち、ちがいます。今のは……ふふっ」
咲さんのツボに入ってしまったらしい。笑い声がヘッドフォン越しにガッツリ聞こえてくる。これはもう、俺はいじられキャラの先輩として咲さんと接していくしかないかもな。
「咲ちゃんの緊張もほどよく解れたところで、1戦目を始めていきましょうか!」
舞の号令と共に、俺は改めてゲーム画面に向きなおる。ここまで来たらプレイで見返すしかないな。
待機画面から画面が切り替わり俺たちは各々が戦闘態勢になる。そして、俺や奏さんの練習の成果はいかに――。
「うーん! 結構いい感じに戦えたわね!」
「そうですね。舞先輩はもちろんですけど、戸賀崎先輩がかなりうまくなっていて驚きました」
「ほんとだよね! 亮ちんの事だから、もっとボコボコかと思ったよ」
「ボコボコって、流石にそんなことにはならないから」
「というか、一番やられてたのお姉ちゃんじゃん」
「……ひゅーひゅー」
咲さんに指摘され、奏さんはそれから逃れるように口笛を吹く。しかし、音は出ていない模様。ただ舞の言う通り、俺たちは結構いい感じに戦えていた。
もちろん、プロチームのような圧倒的な強さではないが、その辺の野良チームであれば十分に渡り合えるほど。
それも偏に、俺と奏さんがある程度プレイできるようになったことが大きいだろう。先週までは咲さんと舞におんぶにだっこだったのが、立ち回りや武器の使い方などを覚え、十分戦力として見えるほどになっていた。
「だけど、奏ちゃんも亮も本当にうまくなっててびっくりしたわ」
「まあ、なんだかんだ咲さんと舞のサポートあってこそだけどな」
「それにしてもって事よ。特に、亮なんてほぼ独学であれだけ戦えてるわけだし。私としては、情けない悲鳴をきけなかったことだけが残念だけどね」
「まだ言うか……」
舞としては慌てふためく俺の姿が見たかったのだろうが、こればっかりは俺にも意地がある。……内心は思った以上にうまく動けてホッとしてるんだけど。
「戸賀崎先輩は戦場の状況に応じてちゃんと考えて行動できてるのがいいですよね。お姉ちゃんはその場のノリで動いでやられる場面が多かったですから」
「べ、別にいいじゃん! アタシはどうしても脊髄反射で動いちゃうんだから」
「場合によっては脊髄反射的に動くといい場面も多いんだけどね。ほら、急に敵が現れる時もあるわけだから」
むくれる奏さんに舞がフォローを入れる。脊髄反射で動いてしまうのは奏さんの性格通りで悪いとは思わないし、舞の言う通り考えなしで動いたほうがいい場面もあるからな。
逆に俺は考えすぎてやられた場面もあったし。
「まいまいの優しさが身に染みるよ~。咲ちゃんにも見習ってほしいくらい!」
「実の姉に優しくするメリットなんてあんまりないでしょ」
「あるよ~! 例えば、優しくするとこうして咲ちゃんの事を抱き締めてあげられるとか!!」
「ちょっ!? 急に抱き付いてこないで!」
ヘッドフォン越しに聞こえる小鳥遊姉妹のやり取りに思わず頬が緩む。きっと舞も微笑まし気な表情を浮かべていることだろう。
「本当に姉妹仲がいいんだな」
「へへ~、いいでしょ!」
「べ、別に私はそこまで仲良くなんか……」
咲さんは否定しているが、気恥ずかしいだけだろう。
「ところで、二人は兄妹とかいないの?」
「私は大学生のお姉ちゃんがいるわよ」
「おっ、まいまいって妹だったんだ!」
「意外ですね。お姉ちゃんより、よっぽどしっかりしていたので」
「咲ちゃん、さっきから酷いよ!!」
舞に姉がいるということは知っている。そして、若干シスコン気味だということも。
今、こうして友達と仲良くゲームをしている姿をみて複雑な気持ちを抱いているかもしれない。
「ふふっ、だけど私から見たら奏ちゃんの方がうちのお姉ちゃんより、よっぽどお姉ちゃんしてると思うけどね」
「そうなんですか? 舞先輩のお姉さんなので、すごくしっかりした方を想像してたんですけど」
「世間体はばっちりなんだけどね。家だと……まぁ、ぐーたらしてることが多いかな」
「そうなんだ。だけど、まいまいと同じで美人なお姉さんなんだろうな」
小鳥遊姉妹を見てて思うけど、確実に舞のお姉さんも美人であることが想像できる。是非、ご尊顔を拝見したいものだが……シスコン気味である以上、男の俺が会うのは危険だ。下手したら〇されかねないかも。
「亮ちんは? 兄妹っているの?」
「俺? ……俺も姉がいるよ」
「へ~、そうなんだ。初めて聞いたわね」
「確かに、言ってなかったからな。年齢は俺の一個上だよ。高校三年生」
姉がいると言った俺の言葉に、舞は少し驚いているようだった。
初めて聞いたという彼女の言葉の通り、これまでの会話の中で姉の存在は一度も口にしたことはなかったからな。ちょっと、意外に感じたのかもしれない。
「ちょっと意外かも。悪い意味じゃないんだけど、亮ちんって勝手に一人っ子かなって思ってたから」
「昔からそうやって言われるんだよな。そんなに俺って一人っ子に見える?」
「うーん……雰囲気?」
「ふ、雰囲気ですか……」
「だけど、奏ちゃんの言う通り私も一人っ子だろうなって思ってたからね。ほら、亮って意外と周りの意見に流されない一面があるでしょ? 私の中の一人っ子がそういうイメージだから」
一人っ子は周りに流されないというよりは、自分の事しか考えてないだけだと思うけど……。それに舞は流されないと言っているが、俺は割と周りの意見に流されていると思っている。
だけど、周りの人がそう言っているのなら、俺は意外と自我がしっかりしているのかも。
「お姉さんはどんな感じの人なんですか?」
「……うーん、真面目な人?」
「どうして自分の姉の事なのに、疑問形で返すのよ」
「いや、なかなか例えるのが難しくて」
呆れる舞に、例えが難しいと返答しておく。咲さんには申し訳ないけど、真面目な人って言ったのは多分間違えじゃないからな。
「……そうなんですね。だけど、戸賀崎先輩も真面目なのできっとよく似た感じの人なんでしょうね」
「亮って真面目だったっけ?」
「少なくとも、授業中に舟を漕いでるやつよりは真面目だと思ってるよ」
「あ、あれは、しょうがないのよ! 深夜アニメが面白過ぎて……」
アニメが面白いのは理由にならないぞ。というか、そろそろ期末試験も近いのだから、真面目に授業を受けないとまた赤点の危機になるんじゃ……。
「舞先輩、そろそろ対戦を再開してもいいんじゃないですか?」
「あっ、確かに話し過ぎちゃったわね」
時間を見ると、最後の戦闘からは20分程度が経過していた。学校の授業中は1分進むのがものすごく遅いのに、友達と話してると時間の過ぎるのが早いこと早いこと。
「よし、じゃあ早速始めようぜ。今ならさっきよりも活躍できる気がするんだ」
「そういってすぐに離脱しないでよね?」
「大丈夫です。いざとなったら私がフォローしますから」
「おっ、咲ちゃんってばノリノリだね! それならアタシも本気出しちゃおうかな~」
「お姉ちゃんは本気を出しても大してうまくないんだから、むしろ目立たない様にして」
「妹の姉に対する扱いが酷すぎる件について」
「なんだかそれ、ラノベのタイトルみたいね!」
「タイトル? どゆこと?」
「奏さん、今は気にしなくていいから」
オタクにしか分からないようなボケから奏さんの意識を引き戻しつつ、再び対戦が再開されるのだった。
そして、この日の対戦も無事に終わり、そこから2週間ほど経過した日の部室にて。
「二人とも、今度の日曜日。アタシの家に遊びに来てくれない?」
奏さんから家に来てほしいとお願いされたのだった。
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