第19話 口は禍の元とはよく言ったものだ

 さて、咲さんとゲームをしてから土日を挟み、今日は週のはじめ。つまり、月曜日になっていた。

 会社員や学生問わず、月曜日の朝はいつも憂鬱である。日曜夜のサ〇エさんを見て、仕事や勉強の現実に引き戻されるのは誰しも変わらないだろう。それでも身体に鞭打って通学路を歩き、ようやく自分の席へとたどり着いた。

 教科書などを机の中にしまい、一息つく。


(ふぅ、結局土日もFPSばっかりやってたな)


 みんなでゲームをしたのは金曜日の夜だけ(舞や奏さんたちに用事があったため)だったのだが、俺は敵を倒す快感を覚えてしまい、土日もガッツリFPSを楽しんでいた。そのかいあってか、初めて遊んだ時よりも幾分かうまくなっている……気がする。これでまたすぐに瞬殺されたら泣いちゃう。……えっ? 俺だけ暇じゃないかって? ちゃんとバイトはしてました(半ギレ)。


 ちなみに、野良でもそこそこ勝てた俺は、ランク帯を一つ上にあげるまでに至っていた。まぁ、舞や咲さんと比べれば、それこそアリとキリギリスなのだが。しかし、序盤でぼこぼこにされていた時に比べれば大きな進歩である。意外と才能もあったのかもしれない。

 とまぁこんな感じに、夜遅くまでゲームをやっていたおかげで、若干寝不足である。それが月曜日の憂鬱な気分に拍車をかけていた。

 授業中に寝ないよう、気を付けないと。


「おっはよー!!」


 そんな俺の耳に届く明るい声。視線を向けると、ちょうど奏さんが舞と一緒に教室内に入ってきたところだった。

 奏さんの挨拶に一気にクラスの雰囲気が明るくなり、一斉にクラスメイトに囲まれる二人。流石、クラスの人気者は違うぜ。

 土日に起こったことの話でもしているのか、笑顔でクラスメイトと会話に花を咲かせている。持ち前の明るい雰囲気もあり、そこの空気だけが明るく感じられる。それこそ、月曜の憂鬱な空気が吹き飛ぶくらいだ。


(だけど、俺ってあの二人と一緒にゲームしたんだよな……)


 思わず顔がにやける。見方によっては、にちゃっとした笑みになっていたかもしれないが……。しかし、顔がにやけてしまうのも許してほしい。

 ほんと、人生って何が起こるか分からないものである。誰かに言うつもりもないけど、話したところで信じてもらえないだろう。

 俺だって最近でこそ、いい意味でも悪い意味でもクラス内で存在感が出てきたが、それでもあの二人と俺を結び付けることはできないと思う。結び付けられるとしたらよっぽど勘のいいやつか、俺たちの事をよく見てる人くらいじゃないかな?

 

 そんな事を考えながらニヤニヤしている俺の隣の席へ、一通りの会話を済ませたらしい奏さんが歩いてくる。


「亮ちんもおはよー!」

「うぐっ!? ……お、おはよう奏さん」


 そして、俺にも変わらず元気に挨拶をしてくる奏さん。朝から元気を貰える、素晴らしい挨拶だ。……ただ、肩を力いっぱい叩くのだけはやめてほしい。肩が外れるかと思ったぞ。

 奏さんって結構力、強いんだよね。ギャルという生き物は、パワーの塊なのだろうか?

 俺がたたかれた部分の痛みを和らげるべく手でさすっていると、


「それにしても、金曜日はありがとね。いっぱい、遊んでもらっちゃって」

「ちょっ!?」

『っ!?』


 肩の痛みなんてどこかへ吹っ飛んでしまった。突然、奏さんの口から放たれた爆弾に、クラスの空気が一変する。

 一番前の席に腰掛けようとした舞も驚きのあまり目を見開いてるし、何より俺が一番驚いていたことだろう。それこそ、腰を抜かすんじゃないかと思ったほどに。

 ざわざわとクラスメイトの声が、漣のようにクラス中に広がっていく。中にはひそひそと何かを話しながら、俺の事を指差すクラスメイトも。


 誤解がないように言っておくけど、奏さんは間違いなく金曜日の夜、俺が舞と一緒に咲さんとをしてくれたことに対してお礼を言ってくれたのだろう。

 しかし、今の言い方は非常にまずい。というか、誤解しか与えない表現になっていた。奏さんとつながりがあるって事だけでもざわざわしそうなのに、輪をかけては余計な言葉である。

 遊んだはどっちの意味でも判断できる分、質が悪い。思春期真っ盛りの高校生にとっては、そっちの意味でしか聞こえないだろう。


「ちょ、ちょっと奏さん。いきなりなんてこと言うんですか!?」


 慌ててツッコミを入れるも、奏さん本人は今一つ事の重大さに気付いていない模様。意味が分からないとばかりに首を傾げている。


「ん? 別に変なこと言ってないでしょ? 亮ちんに、沢山遊んでもらったのは事実だし。それこそ、日付が変わるまで。流石の私もちょっと疲れちゃったよ」

『っ!?!?』


 再び落とされる爆弾級の発言。しかも、日付が変わるまで、沢山遊んだというとんでもワードのおまけつき。

 まずいまずいまずい。これじゃあ俺が、奏さんを日付が変わるまで弄んだヤリチン絶〇野郎ということになってしまう(誰もそこまでいってない)。


「奏さん!!」

「あれ? 亮ちんは疲れてなかったの? いやー、オタクだと思って見くびってたよ。流石、百戦錬磨の男は違うね~」

『っ!?!?!?!?』


 終わった。こんなに色々と飛び出してしまっては、否定のしようがない。いや、全部クラスメイトの勘違いなんだけどさ!

 クラスのあちらこちらから、『奏ちゃんと朝まで……』とか『疲れない……絶〇!?』とか『百戦錬磨!? い、意外と戸賀崎君って……』なんて、ひそひそ話が飛び交っている。

 そして、男子からは怨嗟の視線も……。そういや、奏さんて男子人気も高かったんだ(白目)。

 本当なら舞に助け舟を出してほしいところなのだが、ここで舞まで関わると余計話がこじれてしまう。それが分かっているからこそ、舞も黙って成り行きを見守っているのだろう。


「……っ、……ふふっ」


 ……違う。あいつ、俺の状況をみて笑ってやがる。机に突っ伏して表情は見えないが、身体が小刻みに震えていることから、笑いを堪えているのだけは分かる。

 畜生、自分は蚊帳の外だからって……部室でめっちゃ文句言ってやる。ちなみに、舞の名前が出ていないのは既に奏さんと教室外で話していたからだろう。

 それに舞は、オタクである事をクラスで隠してるからな。皮肉にも、今回はその対応の差が出たって感じだ。


「奏さん、分かった分かったから。取り敢えず、お口チャックで」

「ほえっ? なんで?」

「いいから。感想はまた教えてくれればいいから」

「? まぁいいけど。あっ、それより亮ちん、英語のノート見せてくれない? 今日、宿題あったのすっかり忘れちゃっててさ」

「……はい、どうぞ」

「ごめんね? ありがと!」

「いえいえ」


 普段の俺なら「宿題は自分で」と小言の一つでも言いそうなもんだが、もう静かにしてくれるのなら何でもいいや。

 横で宿題の範囲を映し始める奏さんをしり目に、俺は心の中だけでため息をつく。まだ教室内は先ほどの発言を引きずっているらしく、ざわざわが収まる様子はない。

 取り合えず、先生が来れば収まるだろうし、それまでは大人しくしてよ。はぁ、月曜の朝から何故こんな心労を背負わなきゃいけないのだ。


「おいおい、朝から随分とお疲れ気味じゃねぇか」


 憔悴しきった俺の元に、ニヤニヤと笑顔を浮かべながら近づいてきたのは、親友である輝だった。既に野球部の朝練を終え、教室に来ていたのだろう。

 いじってやる気満々って顔だ。その顔もイケメンで余計に腹が立つ。殴ってもいいかな? 少しくらい殴っても、今の俺に文句を言ってくるやつはいないはずである。


「……お前それ、分かってて言ってるだろ? ぶん殴るぞ」

「おぉ、怖い怖い。だけど、俺がいじりたいと思った気持ちも分かってほしいな。こんなに面白い場面、なかなかないわけだし、いじらなきゃ損かなって」

「くそっ、人ごとだと思って」

「おう、人ごとだからな!」


 めちゃくちゃいい笑顔で親指を立てる輝。今まで見た輝の笑顔の中で、一番輝いているように見えた。ものすごく複雑な気持ちである。


「しかし、これまで浮ついた噂の一つもなかった亮が……なんか俺は、お前が少しだけ遠くに行っちゃった気分になるよ。オタクだってことを堂々と宣言したと思ったら、小鳥遊と一緒に夜まで遊ぶ……だけど、大丈夫だ。俺はお前がどんなに遠くに行ったって友達だからな!」

「勝手に遠くに言った気にならないでくれ。というか、本当に友達だと思ってるんだったら、いじらないで貰えますかね!?」

「それが俺にとっての、友情の裏返しだ」

「歪んだ友情!!」


 俺の信じた友情は全部嘘だったって言うのかよ!?

 俺が仏頂面を浮かべたところで、輝は「悪い悪い」と謝ってくる。


「とまぁ、色々いじったが俺は流石に今の話は半分くらい冗談だと思ってるよ。お前が小鳥遊と遊ぶようなキャラじゃないのは、よく分かってるからな」

「じゃあ、なぜ散々いじった!」

「それは、ある種の使命感からかな?」

「今すぐ捨てちまえ、そんな使命感!」

「どうどう。……ところでよ、小鳥遊と遊んだってのは本当なのか?」


 純粋な疑問とばかりに尋ねてくる輝。多分、最初からこのことだけを聞きたかったのだろう。随分と遠回りしたもんだ。……だとしたら、最初からそう聞いてきてほしかったんだけど。


 しかし、どう説明したもんか。元から喋るような仲であればいくらでも説明のしようがあったのだが、輝から……というか、クラスメイトから見た俺たちの繋がりは、ただのクラスメイト。もしくは、隣通しの席になったって関係だけだ。

 それに、奏さんと遊んだ本当の理由を勝手に話すわけにもいかないしな。しかも、事情が事情だし……。

 取り敢えず、適当に誤魔化すことにしよう。


「……いや、まぁ確かに遊んだんだけどさ。遊んだって言ってもゲームだよ」

「へぇ、ゲームで。……お前って、小鳥遊と一緒にゲームで遊ぶほど仲良かったっけ?」

「…………それには海よりも深く、山よりも高い事情があって」


 輝から疑問の声が上がるのも当然である。というか、全然誤魔化せてなかった。なんだよ、海より深く、山より高い事情って。

 もちろん、いずれはきちんと話そうと思っているのだが、如何せん今はタイミングが悪い。


「事情ねぇ~? まぁいいや。お前の事だから、いずれは親友である俺にもちゃんと話してくれるんだろ?」

「親友って、自分で言うなよ。まぁ、でもちゃんと事情は話すからさ。今は、ちょっと見逃してくれ」

「仕方ない。それじゃあ、話せるときになったらちゃんと頼むぞ」

「任せとけ。ちゃんと話してやるから」


 輝なりに何かを察してくれたのか、あっさりと引き下がる輝。こういう、察しのいいところは本当に助かる。だからこそ、イケメンの顔も相まってモテるんだろうな。

 なんてホッとしたのもつかの間、輝がなぜか俺の耳元に顔を寄せてきたと思ったら、


「それにしても、亮は一ノ瀬から小鳥遊に乗り換える気なのか?」

「んぐっ!?」


 引き下がってくれたかと思ったら、すぐにこれだよ。思わず喉の奥から変な声が漏れる。どんな思考回路で、その考えに至ったか輝の頭の中を覗き込んでみたいものだ。


「オイコラ! 急に変なこと言うんじゃねぇよ!!」

「変なことって、小鳥遊とゲームで遊んだことは事実なわけだろ? つまり、理由はどうであれ、小鳥遊と仲良くなったのは事実なわけじゃん? つまり俺は、一ノ瀬は諦めて小鳥遊に鞍替えしたって考えたわけよ。どうだ、この推理は?」

「全部間違ってるわ!」


 名探偵でも迷探偵と呼ばれる類である。全ての推理が裏目に出るパターンの奴。というか、俺が奏さんと仲良くなったからと言って舞から鞍替えする理由にはならないだろ!

 俺の反応を見た輝は、ちぇっとつまらなそうに舌打ちをする。


「なんだよ、つまんねーな。俺としてはいつまでも進展がなかったから、そうだとばかり」

「そ、そんな簡単に関係が進展するわけないだろ!」


 一緒に部活作って、一緒に遊びに行って、ピンチを助けたくらいしか関係は進展してないわ。あと、抱き締めてもらった。……あれ? 想像以上に進展してない?


「というか、付き合う以前に、全然仲良くなろうって気が感じられないんだよな~。結局、教室内でしゃべってるところなんて一度も見たことないし」


 そりゃ、特殊な事情で隠してますしね~。俺は心の中だけで呟く。輝、すまんな。輝が思っている以上に、俺と舞の関係は進んでいるんだ。ま、まぁ、進んでると思ってるのは俺だけなんだけど(涙目)。


「ま、まぁ、俺には俺の進め方があるんだ」

「そうかよ。亮がそういうなら俺は何も言わないけど……だけど、一ノ瀬は相変わらずの人気だから、誰かに攫われないようにな」

「分かってるよ、それくらい」


 一ノ瀬と話すようになってから、より彼女が人気だって雰囲気をひしひしと感じてるからな。輝に言われなくとも、しっかりとアクションを起こしていかなければ……。


「おーい、お前ら席に着け~。SHR始めるぞ~」


 いつも通り、いまいちやる気を感じられない声とともに担任が教室に入ってくる。しかし、このタイミングは正直助かった。流石のクラスメイトもいくらやる気が感じられないとはいえ、担任の言うことには従わざるを得ないだろう。

 そのままSHRが始まるとのことで、クラスメイトもこちらに視線を向けつつ、しぶしぶ自分の席に戻っていく。

 取り敢えず、雰囲気をうやむやにできたのは大きい。これで少しでもクラスメイトのざわざわが収まればいいんだけど……。


「よしっ、写せた! 亮ちん、さんきゅ!」

「……いえいえ」


 張本人は相変わらず何もわかっていないみたいだった。これ、俺だけが精神をすり減らすパターンじゃ?

 俺はこの後のクラスメイトへの対応を考え、深くため息をつくのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「ひ、酷い目に合った」

「お疲れ様。まぁ、人のうわさも75日って言うし、みんなもすぐに忘れちゃうわよ。ほら、このジュースは私の奢りだから」

「さんきゅな。……って騙されないぞ。お前、俺のこと見て絶対笑ってただろ?」

「…………何のことだか」

「今の間はなんだ、今の間は」


 その日の部室にて。

 様々な人からあらぬ疑いをかけられ疲弊した俺は、部室の机に突っ伏していた。結局、良いタイミングでSHRに入ったおかげでざわざわは収まったのだが、一日中好奇の視線を感じていた気がする。それこそ、奏さんと話している時は特に……。

 中には、『おい、戸賀崎!! さっきの話はなんだ!?』とクラスの男子に詰められることもあったが……。まぁ、つめてきた人たちは一様に涙を流していたので迫力はなく、適当に誤魔化しておいた。

 そんな俺を見た舞も流石に同情してくれたのか、紙パックのジュースを差し入れしてくれた。舞って、意外と優しんだよな。ただし、俺の様子をみて笑ってた事だけは許さん!


「いやー、ごめんね亮ちん。アタシってば全然気づいてなかったよ~」


 そして、もはや初めから部員だったかような態度で頭を掻く奏さん。部室内にいることに違和感がなさ過ぎてびっくりした。

 一応、彼女にも今日の会話のまずさは説明済みだ。ちなみに反応は「えっ!? そうだったの?」とまるで気付いていなかった様子。この人、ギャルにしてはピュアすぎる。

 どうやら奏さんも女子のクラスメイトから質問攻めにあっていたらしいのだが、妹の件もあったので詳しい理由は伏せていたらしい。なんか、絶妙に会話がかみ合ってくれて助かった。これだけは不幸中の幸いである。

 これでまた余計なことを言ってたら、目も当てられなかった。


「ほんと、こっちは寿命が5年くらい縮まったからな。というか、気付いてなかったてのが信じられない話だけど」

「いやいや、流石にあれだけで気付けって無理でしょ? まいまいだってそう思うよね?」

「…………そうね」

「えっ? もしかして、まいまいも分かってた?」

「……ごめん、私も亮と同じ意見」

「まいまいって意外とむっつり?」

「ち、違うから!!」

「その意見だと、クラスメイト全員むっつりになるぞ」


 今回はさっきも言った通り、奏さんがピュアピュアだったってことにしよう。


「だけどさ、遊ぶって言葉だけであそこまで誤解されるって、流石に酷くない!? そりゃ、言葉足らずだったアタシもいけないんだけどさ~。皆、想像力豊かすぎるよね」

「それだけ奏ちゃんが注目を集めてるって証拠なんじゃない? それに、相手がこの前悪目立ちした亮ってのも、余計に悪かったかもしれないけど」

「確かに……なんか、色々な要因が最悪な絡まり方をしたって感じだったな」


 もらったパックのジュースを口にしつつ、俺は舞の言葉に頷く。

 もちろん、奏さんの要因の方が大きいことは確かだが、俺も俺で悪目立ちしてから日が経ってなかったしな。ある意味、学生のゴシップネタとしては最高だったのは想像にたやすい。

 中学生とか高校生って、人の恋愛話大好きだしな。……あっ、それは大人も変わらないか。

 そして、口にはしないけどギャルって遊んでるイメージが付きまとっているからこそ、クラスメイトの大半が誤解したのだと思われる。これは奏さんが悪いというよりは、世間一般的なギャルへのイメージがそうなってしまっている以上、しょうがない。

 後は、奏さんがクラスでのカーストが、高いことも要因としてあげられるはずだ。多分、舞が奏さんの立場でも同じようなざわめきが起こったはずだし。……舞だったら、今日の奏さん以上の衝撃だっただろうな。


 それにしても、人を見た目だけで判断するなんて、本当はおかしな話なんだけどな。しかし、未だに人類は肌の色で差別をしてることから、一度ついてしまったイメージを覆すのはそれだけ大変なのだろう。


「うーん、それでも納得いかないけど……まあいいや! 取り敢えず、教室では発言には気を付けるようにするよ。あんまり考えなしに話すと、亮ちんが可哀想だからね」

「そうしてくれると助かる。俺も無駄に寿命を減らしたくないからな」

「だけど、亮ちんってイジメると言い反応してくれるから、あえてそういった発言しても――」

「絶対にやめて!!」

「あははっ! さすがに冗談だって~。慌てる亮ちん、ほんと面白いなぁ」


 どうやら、またからかわれてしまったらしい。ケラケラと笑う奏さんに俺は恨みがましい視線を送る。

 しかし、全く効果はない模様。逆にパチッと様になるウインクを返された。うーん、悔しい。


「奏ちゃん、あんまり亮の事をからかわないであげて。亮ってば、からかわれるのに慣れてないから」

「ごめんごめん。これからは節度を持ってからかうことにするからさ!」

「からかうのは確定なんかい」


 というか、節度を持ってからかうとは一体?


「ところで、咲ちゃんの様子はどう?」

「あっ、そうそう。それは俺も気になってた」


 こんなバカな話に時間を使っている場合じゃなかった。そもそも、今日部室に集まったのも、咲さんの様子を聞くためだし。


「うーん、楽しかったとは言ってたけど、だからと言って学校に行く動機付けにはなってないみたい」

「まぁ、しょうがないか。この前のはそれが目的ってわけじゃないしな」

「あれで学校へ行く気になったら、そもそも引き籠ってないだろうしね」


 舞の言葉に大きく頷く。咲さんが出てきてくれるには、恐らく彼女の抱えている本音の部分を引き出さないと難しいだろう。


「だけど二人の事はいい人たちだねって、嬉しそうに笑ってたよ!」

「それなら良かったわ。初対面だったし、ちょっと心配してたから」

「俺も、警戒されてないみたいで良かったよ」

「亮ってば、隙あらば女の子を狙う蛇みたいな男だもんね」

「誰が蛇みたいな男だ!」


 めちゃくちゃ印象よくないやつじゃんか。蛇って、絶対狙った獲物を離さない執念深さがあるし……。


「それでさ、二人さえよければなんだけど、また咲ちゃんと一緒にゲームをしてくれないかな?」

「もちろんよ。そもそも、あの一回だけで終わろうなんて思ってなかったから。それに、咲ちゃんとゲームをするの楽しかったしね。亮も、もちろんオッケーでしょ?」

「おう、もちろんだ」


 奏さんのお願いに俺たちはもちろんとばかりに頷く。舞の言う通り、俺も咲さんとゲームをするのは楽しかった。単純にプレイがうまいってのもあるけど、話してみると意外と面白い、普通の女の子だったからな。

 逆に断る理由を探す方が難しい。それに、他の誰でもない奏さんのお願いだからな。


「……ほんと、ありがとね二人とも。めっちゃ嬉しい」

「もう、感動するのは咲ちゃんの問題を解決してからよ。それに、今度は咲ちゃんの足を引っ張らない様に私も、もっと練習しないと」

「俺もだな。それに、FPS以外のゲームをやってもいいかもしれないし」

「あっ、確かにそれはいいかもね! 誰でも出来るゲームなら、奏ちゃんとか亮でももっと楽しめるかもしれないし」


 例えば、任〇堂のゲームとかいいかもな。マリ〇カートとかスマ〇ラとか。他の三人が出来るか分からんけど、モン〇ンなんかもいいかもしれない。


「うん。それじゃあまた二人ともよろしく! 今回はアタシもちゃんと活躍できるように頑張るから!」

「その意気よ奏ちゃん。亮も奏ちゃんのやる気を見習うように!」

「いや、ちゃんと俺もやる気だから」


 とまあ、こんな感じで再び咲さんとゲームをすることが決まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る