06-06

 たかつからいはベッドに横になり、天井を見上げている。

 自室のベッドで、もう三時間近くも、こうしているだろうか。


 引きこもりの身分、なにをするでもなく、ただぼーっと天井を見上げている。

 家の前を通る小学生の声に、もうそんな時間か、と思ったが、それでなにをするわけでもなく、なおもベッドに横になっている。天井を見上げている。


 ふとまた、いつだったかの妹の言葉が脳裏をよぎる。



「わたし、お姉ちゃんの苦しみは理解出来ないかも知れない」



 もう、何度目だろうか。

 その都度、魅来は胸に呟くのだ。



「そりゃあ、理解出来ないかも知れないよ」



 と。天井を見上げながら、

 精気のない、うつろな目で、焦点の定まらない目で、天井を見上げながら、同じように胸に呟くのだ。


 もう死んでしまったから、というだけではない。

 理解が出来ないだろうというのは。


 そのままぼーっと見上げていた魅来であったが、

 どれくらい、時間が経っただろうか。

 くっ、と辛そうに顔を歪めると、

 胸の中、先ほどの言葉を続けた。



 あんたの方が、よっぽど酷い目にあっているんだから。



 と。

 その思いに、いつしか無意識に唇が震えていた。


「あたしの……せいで」


 ささやくようにぼそっというと、魅来は、ぎゅうっと両の拳を握っていた。


「あたしのせいで!」


 右の手のひらを広げて、顔を隠した。


 息が荒くなっていた。

 胸が苦しい。


 思い出したくない、記憶。

 脳のその部分を切り取って忘れられるのなら、切り取って捨ててしまいたい、忌まわしい記憶。


 嫌だ、

 嫌だっ、

 思い出したくないのに、忘れたいことなのに、映像が頭に浮かぶ。


 嫌だ!

 嫌だ!

 両手を顔に当て、いやいやをするように首を振った。


 記憶は、残酷、

 意識は、残酷、

 映像、脳裏、過去、現実、忘却、不可、地獄、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る