06-05

 泣き腫らして真っ赤な目で、部屋の真ん中に立っている。


 妹の部屋。

 鉛筆削りと卓上時計だけの、簡素な机の上。

 その上にある棚には教科書と参考書。

 床に置かれたカラーボックスには雑誌や、一番上にはトトロのぬいぐるみが置かれている。

 壁のコルクボードには、色々な写真が貼られている。


 これらのほとんどは、いつかは整理されて無くなってしまうのだろう。


 その、壁のコルクボードへと近付いて、貼られている写真を見る。

 笑顔の香奈が、そこにはたくさんいる。

 ここ一年ほどの、

 が起きてからの、香奈ばっかりだ。


 どれも、笑顔。

 本当に楽しそうなのもあれば、無理矢理に作っているようなしらじらしい笑顔もある。


 楽しい思い出の写真だけを貼っておきたいなら、探すまでもなく子供の時のなどいくらでもあるだろうに。


 わざとなのだろう。

 たとえなにがどうなろうとも、それでも世の中は楽しいんだよ、と。

 あたしとの写真が一枚もないのは、ここ一年のものばかりなのだから当然だが、それだけではないのだろう。


 これも、決意表明なんだ。

 いつか、笑顔のあいつと、笑顔のあたしで、写真を撮るんだという。


 バカバカしい。

 例え生きていようとも、そんな日など永遠に来るはずがなかったのに。

 無駄な努力ばかりして。

 ほんとバカだ、あいつは。

 だから死ぬんだ。

 だからくだらない死に方をするんだ。


 ふう、

 ため息を吐くと、学習机の椅子にどっかり腰を落とした。


 手にしているICカードレコーダーの、SDカードを差し替える。

 音声日記をつけ始めた頃のは聞いていて心にキツイので、最近の日付が書かれたカードにした。

 再生ボタンを押す。



 ぎょわわわわわああああん、

 ギターの、うねるような音だ。

 他にも、

 ベース、

 ドラム、

 それと、シンセサイザーみたいな楽器。

 なにやら曲を演奏しているようだ。

 ようだ、と思ってしまうのはそれがあまりに下手だから。

 全員が全員、町中で聞かせたら石を投げられそうなほどに演奏が下手だから。


 でも、これは曲なのだろう。

 おそらくこれは、商店街の老人たちとの演奏。

 シャドウオリオン、とかいう老人バンドを作ったらしいが、その演奏なのだろう。


 曲らしいのが終わると、続いて、バリザリッと割れまくる妹の声で、



「……以上!

 高塚香奈の音声日記、特別編。

 本日は、現場からの中継放送でお送り致しましたあ!

 ゴーゴー! シャドーーーオリオ……えーっ、なんでみんな声を合わせてくれないんですかあ?」

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