06-02

 仏壇の前に立ち、遺影を見下ろしている。

 笑顔の、香奈の写真を、ずっと睨み付けている。


 ぎゅ、と拳を握った。

 ぎり、と歯を軋させると、ぼそり小さく口を開いた。


「バカじゃないのか」


 本当に、バカじゃないのか。

 生命は大切とか、世の中は楽しいとか、お姉ちゃんにも分かって欲しいとか、何様だか知らないけどいつも上から目線で、あんだけえらそうなこといっておいて。


 事故死?

 おそらく即死?


 必死に抗うこともせず、生きることへの執着もせず、なにあっさり自分だけ楽になってんだよ。


 おぼれかけた犬を助けようとしたらしいけど、

 その犬が助かって長生きするとかなら、まだ救いがあるよ。まだ、ね。

 結局、その犬も死骸があがったってことじゃないか。


 まったくの、無駄死に。

 笑っちゃう。

 ぶん殴りたくなるくらいだ。


 ほんと、バカすぎる。

 前々から思っていたけど、ほんと頭おかしいんじゃないのか。脳にウジが湧いてたんじゃないのか。


 だから死ぬんだよ。そんな、簡単に。

 そんな、無責任に。


 十二月の凍るような雨の中、橋を渡ってきた信号無視の車にはねられて、

 電柱に叩き付けられて、

 車はそのまま逃げてしまって、

 通報者もおらず翌日の昼近くまで、そのままだったらしいじゃないか。

 あそこ、目立たない場所でもないのに。

 車も頻繁に通るところなのに。


「死んでると思わなかった」とか、

「頭が血みどろで気持ち悪かったから逃げた」とか、


 警察がなんとか探し出した目撃者は、のうのうとそんなこといってたらしいじゃないか。

 世の中、自分のことしか考えられないクズばかり。

 あたしを含め、世の中はクズばかりなんだ。


 価値ないよ。

 こんな世界。

 なくなっちまえ。

 こんな、クズばかりの世界。

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