高塚魅来の章

生きるなんて、本当にくだらない。

 闇があるのか、

 光がないのか、


 俗な言葉で単純に表現するならば、そこは、暗闇。

 なにもない、暗闇、

 つまりは、無。

 虚空。


 音も、無。

 光も、無。

 物質すらも、無。

 空間すらも、無。

 時間すらも、無、と思われるほどの闇であったが、


 変化は、不意に訪れた。

 いや、既に訪れていた。


 その、闇の中に、

 虚空の、中に、

 誰かが、立っていたのである。


 少女。

 そう、それは、真っ黒のワンピースを着た、長い黒髪の少女であった。

 服だけが闇に溶けて、病的に白い顔や腕足が宙に浮いるように見える。


 じっと、その血の気の薄い顔をうつむかせていたが、

 やがて、

 ゆっくりと、目を開き、

 ゆっくりと、気だるそうに、顔を上げた。

 空虚に満ちた、その顔を。


 ゆっくりと、口を開いた。

 すべてを嘲り笑うように、うっすら歪めた、その口を。



 なんで、人は生きるんだろうね?

 くだらないと思わない?

 意味がないと思わない?

 価値がないと思わない?

 生きるなんてさ。


 あたし? あたしはただ、生まれてしまったから生きているだけだ。

 クズで、情けなくて、死ぬ勇気もないから、生きているだけ。寝てても肉体が勝手に呼吸しているから、死んでないだけ。

 まあ、死んでいるのも一緒だけどね。


 しかしまあ、どうしてみんな生に執着して、毎日どうでもいいことに笑って生きているんだろうね。

 バカみたい。

 ほんとバカみたいだ。

 この世の中に、いいことなんか一つもないのに、何を信じているんだ。

 何を、一生懸命になってんだ。

 何かを作り、残して、それでそれがなんになる?

 無意味でしょ。

 間違いなく無意味でしょ。

 どうせいつか誰もが暗闇の中に飲み込まれていくというのに。


 だというのに、

 嘘まみれの、

 クズだらけの、

 苦しいことしかない、

 そんな世の中でへらへら笑っているなんて、どんだけの自己欺瞞の達人だよ。


 ほんと頭くる。

 イライラする。

 くだらない。

 生きるなんて、本当にくだらない。


 くだらない。

 くだらない。

 くだらない。

 くだらない!



 語気が、荒くなってきていた。

 いつしか叫び声に変わっていた。


 胸に溜まるなんとも不快な感情を絞り出すように、

 真っ黒い服装の、長い黒髪の少女は、


 叫び続けていた。

 吠え続けていた。


 光のまるで届かない、暗闇の中で。

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