05-02
どっ、どっ、どっ、どっ、
2ビートのリズムによる重低音が、まるで心臓の鼓動のように、この狭い空間に響いている。
壁にがんがんがんがん反響、拡散して、鼓膜や身体を、激しく震わせている。
ここは、いつもの練習場である、酒屋の倉庫。
楽器の音を合わせているのは、いつものメンバー。
キーボード、フラワー。
リードギター、マッキー。
サイドギター、カナ。
ベース、ジミー。
ドラム、キッズ。
ロックバンド、「シャドウオリオン」の五人である。
正直、演奏技術のレベルは低い。
小学低学年の鼓笛隊が「メダカの学校」や「おてて繋いで」「さんぽ」を演奏しているかのような、完全にバンド名が名前負けしている程度の実力だ。
しかしながら、ちぐはぐさが以前よりは格段に薄まっており、集団としての、バンドとしての、まとまりというものが出てきていた。
まだまだではあるのだろう。
誰にいわれるまでもない。
まだまだだけれども、でも、いい感じだ。
全員、少しずつではあるが着実に技術がついてきている。
このメンバーでなにかを成し遂げるんだ、という仲間意識が生じていることも、まとまってきている理由の一つだろう。
技術が向上していく過程々々の達成感に、年寄りだってやれるのだ、と、やる気が出ているのだ。
そんな年寄りたちの気持ちを、年齢若い香奈や野田謙斗がサポートする。
単純に技術だって向上するし、チームワークでなにかをすることが楽しくもなる。
だから、練習したくなる。
練習するから楽しくなる。
現在バンド内に、そんな好循環が生まれているのだろう。
と、そんな雑談を演奏の合間合間にしている中、フラワーが、
「中でも、一番上達したのはカナだよなあ。年齢を考えればまあ当然なのかも知れないけど、差っ引いても本当に上手になった」
香奈の実力向上を認め褒め、優しく笑った。悪魔陛下のような白塗り顔が、なんであるが。
超高齢の老人たちと、楽器を手にしたのが数カ月しか変わらないことを考えれば当然かも知れないが、確かに香奈は先輩であるマッキーのギター演奏技術を既に抜いていた。
街ゆく人々の前でソロ演奏して、まばらながらも拍手をもらえるだろう腕前だ。相変わらずタブ譜は読めないが、それは置いといて。
「いやあ、そんなあ」
香奈は、頭を掻いて謙遜する。
ノリノリになって前へ出て、チョイーンとチョーキングして一人で調子に乗って暴走することも多いが、いまは控え目な香奈である。
「いやいや、本当に上手くなったよ」
「それほどでも……ありますけどおおおお!」
ギターの弦を持ち上げながらタラリラタラリラ、タッピングそしてトリル。前言撤回。調子に乗っている香奈である。
「よおし、メインギター担当をおれと交代しようぜ」
マッキーが、冗談とも本気ともつかぬことを、目に星マークの白塗り真顔でさらり。
「だっ、だめですよう! わたし、マッキーの背中に隠れてないと、恥ずかしくて弾けないっ!」
急転直下、謙遜女子。
「ここでだったら、まだ普通に演奏も出来るんですけどお。……外で演奏する自分とか、まったく想像出来ないなあ。多分無理だ。いや絶対」
ますます謙虚謙遜女子。
「裏を返せば、自信か度胸さえつけば、おれに代わってメインギターの座を奪ってやるぜ、と」
「え、え、そんなこと……」
「ならば、このおれにいい案がある」
「だから、そんなこと誰もいってなあい!というか、『ならば』ってなに? その言葉なにに掛かってるんですかあ?」
「未来有望な、若いギターリストのためにっ!」
ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃあああああん
腕を大きくぶんぶん回転させるマッキー。歳もわきまえず、疲労骨折しそうなくらいに。
もう一回ギターを、
ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃああああああん
「なんか嫌な予感しかしないんですけどお。……って、そのやらしい笑みはなんだあああ!」
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