第5章 伝えたいから。この気持ち、伝えたいから

05-01

 また、あの犬だ。

 秋田犬くらいの大きさの、日本犬。くらいもなにも本当に秋田犬かも知れないけど。


 子犬ではない。

 成犬。

 だけど、見ていて子犬よりも頼りない。


 ふらふらと、いまにも倒れそうなくらい頼りなく歩いている。

 なんとか右足を出して、足元や身体のバランスを確かめるように、なんとか左足を出して。

 それだけのことに、どれだけの力を込めているのか、ぷるぷると全身をふるわせながら、歩いている。


 冷たい十二月の空気のせいなのか分からないけど、見ていて寒々しい、なんとも憐れみを誘う光景だ。


 そんな視線を受けているとも知らず、また知ったところで是非もなく、犬は、よろよろと、歩き続けている。

 一歩、また一歩。


 どこへ向かうつもりなのか。

 向かう先に、なにがあるのか。

 確かめるように、踏ん張るように、一歩、また一歩。


 うなだれて、鼻先が地面についてしまいそう。

 いっそ杖替わりにならないか、試してみようとしているのだろうか。


 いや、

 もしかしたら、

 目がよく見えていないのかも。

 歩き方や仕草から、なんだかそう思えてきた。


 かわいそうだな。

 そうだとしたら、かわいそうだな。そうじゃなくてもだけど余計に。


 捨て犬、なのかな。

 毛並みがボロボロで酷いけど、それは単に飼い主の元から離れているために手入れをされていないということだろう。


 じゃあ、どうして捨てられたのかな。

 目が見えなくなったから、だから、捨てられたのかな。


 いやいや、そんな酷い飼い主がこの世にいるはずないだろう。いるのかも知れないけど、信じたくない。信じない。


 飼い犬時代の生活がどうだったのかは知らないけど、とにかく現在は野良ながらもこうして生きてはいるんだ。

 生活は、なんとかなっているのだろう。


 うちに連れ帰って飼ってあげる、とかも出来ないし。

 どうしようもない。

 大変だろうけど、頑張って生きてこう。


 と、強引に自分を納得させた。

 背を向けて、ギターケースを背負い直すと、静かにその場を立ち去った。

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