03-03

「お姉ちゃん。

 あのね、

 今日はね、練習の後に、バンド名を決めたんだ。

 結成してもう二ヶ月になるというのに、なんと、まだ名前を考えてなかったんだって。


 この前、あれえバンド名なかったなあって話になってたから、もうとっくに付けてるかなと思っていたら、相変わらずなんだもの。びっくりしちゃうよ。

 名乗る気満々でドラムをダカダカダカダカ、ダン! あれえ、そういや考えてないねえ、とかいってんだもん。

 焦る必要のあるものじゃないとはいえ、のんきすぎるよねえ。

 そのこと自体の方がよっぽどドラムロールでうったえたいことだよ。


 でね、名付けのことだけどね、『どんな名前にしたい?』って、わたしが尋ねたんだ。いい加減にしろー、って思ってたし。

 そしたらね、マッキー、つまり本屋の秀夫さんがね、

 なんだったかな、そうだ、


『エレクトリックアップタウンバンド』


 とかいってんだよお。

 いまどき、そんな名前を付ける人たちなんて、いないよ。名前の最後に『バンド』なんて付けるバンドなんてないよ。あえて古臭さを出すのならいいけど、それがハイカラなセンスと思ってたら大間違いだぞ。


 って、いったらね、『古臭いのは嫌だ』『ハイカラなのがいい』なんて、なぜかみんなでバタバタ慌ててるんだ。いま思い出しても笑っちゃう。

 わたしも、ハイカラな名付けのセンスなんかないから、とりあえず、みんなに好きな言葉をいわせてみたんだ。

 そしたらさあ、なんかおっかしいのばっかり。


 にんにく。

 玉ねぎ。

 弁当。

 梅干し。

 浅草六区。

 花やしき。

 木造ジェットコースター。


 とか、そんなのばっかりなんだもん。単なる連想ゲームじゃん。

 でもね、そのうちにね、かっこいいのが出たんだ。


 かげろう。


 ってね。

 そこからわたし、意味は違うけど音の響きから、『影』を思いついて、

 で、さっき出た玉ねぎから、オニオン、そこからオリオン、って思いついて、


『シャドウオリオン、ってどう?』


 って聞いてみたら、


『それだっ!』

『それを待っていたっ!』


 って、みんな物凄い大声で、くわっとまなじり開いた表情で食いついてきて。

 驚いて、壁に後頭部ごちって打ったよ、わたし。たんこぶになったよ。

 まあとにかくそんなわけで、バンド名は『シャドウオリオン』に決定しました。

 かっこよくない? 音の響きが。たんこぶ作った甲斐があるというか。


 下手だけどね。

 まだまだ。

 演奏が。

 とてつもなく。


 素人おじいちゃんの集まりという、完全な名前負けバンドだけど、でもいいんだ。名前負けでもさ。

 勝たなきゃいけないものでもない。


 というわけで、これから頑張るぞおおお!

 おーっ!

 のんびりゆっくりマイペースだけど、高みを目指していくぞおおおお!

 おーっ!


 ……って、

 ん?

 え、

 あれえ、

 いま気付いたんだけど、

 このボイス日記を吹き込んでいて、いま気付いたんだけど、

 なんか、なんか、わたし、

 いつの間にか、すっかりメンバーになっちゃってるよおお。

 なんてこった。

 ……でも、

 ま、いいか」

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