02-04

 すっかり日の暮れた道を、自宅へと向かって歩いている。

 たぶん、自分はいま、ニヤニヤ、にまにま、そんな顔をしていると思う。

 鏡などないから確かではないけれど、おそらく間違いない。

 だって気分が、現在そういう状態なのだから。

 抑えようとして抑えられるものじゃない。きっと顔に出てる。


 疲れた。

 今日は、疲れた。

 でも、本当に楽しかった。


 結局、あそこにあった全部の楽器を弾かせてもらった。


 キーボード。ボタン一つで色々な音に切り替えられて、プログラム機能とかいうのもあって、いじっているだけでも楽しかった。


 ギターも、生まれて始めて触った。

 ぎょいーーんいんいんいん、とうねるような音が出せた時は、気持ちよかったああ。


 ベースも、ぱっと見はギターなのに、出る音がまったく違うんだよな。とにかく低い音で、まるでマッサージ機を当てているかのような、身体がくすぐったくなるくらいの振動がきて。


 弾き語り、とかそんなんじゃないけど、適当にギターをジャガジャガ鳴らしながら、わーーーっと大声をあげたりもしてみた。


 カラオケって一度も行ったことがないんだけど、みんなあんな感じにストレス発散してるんだなあ。


 それより、まだ鼓膜があ。

 きーーーーー、って鳴り続けてるよ。

 ほうっておけばそのうち聞こえなくなるのかな、これ。

 バンドの人たちって、よく毎日あんな大音量の中で平気でいられるよな。

 平気じゃないのかも知れないけど。


 ほんと、今日は楽しかった。

 みんなも、始めて二ヶ月ちょっとということで、わたしよりほんのちょっと上手なくらいで。

 ちょっと恥ずかしかったけど、どうせ下手同士だと開き直って、みんなと演奏を合わせてみたりして。まあ、演奏と呼べるような代物でもないんだけど。

 いやいや、演奏は演奏だ。ただ下手なだけだあ。


 と、そんな楽しげな香奈の顔が、不意に、すっと沈んでいた。

 自宅に到着したのだ。

 つまり、現実に戻ったのだ。


 玄関ドアの前で、元気なく立ち尽くしている香奈。

 でも、

 と、胸に唱え首をぶんぶんと振ると、口角を釣り上げ笑みを作った。


「ただいまーっ!」


 元気の良い声を出し、笑顔で玄関のドアを開けた。

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