第45話 実は三年後でした
「まさか、アイリスちゃんが拾ってるとは思わなかったよ……」
実はフォレストテイルがダレス・ネイワードの捜索依頼を受けていたと教えてくれた。
「それであんなに驚いてたんですね」
「ああ。まさか子どもに先を越されるとは思わなかったけどな……」
「見つけたのはスノウの母親ですけどね。それに、探そうと思ってたわけじゃないですよ」
「それはわかってるんだがな……」
クレイブは頬を掻きながら苦笑している。
「あと遺品は遺族がいるなら返そうと思ってるんですけど、わかります?」
私が言葉を続けると、またもや五人が驚いた顔でこっちを凝視する。
「律義だな。普通は回収にかかった費用を請求するもんだが。まぁどちらにしろダレスは独り者で家族はいない。その遺品もお嬢ちゃんの物で問題ないよ。自分で使うもよし、不要なのであれば売り払えばいい」
「そうなんですね。あとこの鞄なんですけど」
時空の鞄とは言わずに口が閉まっていて開かないとだけ伝える。
「なんだアイツ……わざわざ鍵でもかけてやがったのか。どっちにしろその鞄もお嬢ちゃんのもんだ。ナイフで切るなりして中身を取り出せばいいんじゃないか?」
「あ、そうですか」
どうやら鞄の正体は知らないらしい。ならばもらえるのであればもらっておこう。それにしても家族がいないんなら、どこから捜索依頼が出たんだろうな?
あとさっきから「お嬢ちゃん」と連発されてるけどもしかして……。
「とはいえだ、あいつの短剣と盾は
「え?」
「そこら辺の店じゃ高すぎて買い取ってもらえない可能性があるが……。まぁどちらにしろ、フォレストテイルのお前らは、お嬢ちゃんが高価なものを持ってるなんて言いふらすんじゃねぇぞ」
「当たり前じゃねぇか」
ギルドマスターからの思わぬ情報に、テーブルの上の遺品を見つめる。さすが一流の探索者ともなれば、
「さて……、だいたい聞きたいことは聞けたか」
「お嬢ちゃんから何か聞きたいことはあるかな?」
クレイブが腕を組みながらうなずいていると、ギルドマスターから逆に尋ねられた。やっぱりお嬢ちゃんっていうのは私のことだったらしい。というか私は男なんだけど、まぁ名前がアイリスだしなぁ……。
自分の服装を見下ろせば、そういえばマリンに着せられたシャツを着たままだった。足首まですっぽりと覆われたそれは、ワンピースを着ているようにも見える。そういえば服も欲しい。
「えっと、スノウをテイマーギルドで登録するように言われたんですけど」
「ああ、それなら探索者ギルドの向かいにある」
「ありがとうございます。行ってみますね。あとはちょっと買い物をしたいのと、宿を紹介してもらえると助かります」
「はは、思ったよりしっかりしているな。子どもとは思えん。そういえばいくつなんだ?」
ええ、中身は三十一歳ですから。でもステータス上は。
「えーっと、あ……、四歳になってる」
念のためにステータスを確認すると一つ歳をとっていた。ということは誕生日を迎えたってことで……。というか今日が何日なのかもよく知らないことに気が付く。
「は? 四歳?」
「嘘だろ? ホントに見た目通りなのか……」
「そういえば、今って何月何日なんですか?」
とりあえず気になったので驚いているみんなに聞いてみる。
「あー、今日は新聖歴1768年の六月二十日だが……」
「えっ!? 1768年!?」
記憶が確かならば、私が幼児化する原因になった遺跡の見回りに出た日は1764年の十月だったはずだ。その日からもう三年八か月も経っているらしい。
思わず自分の両手を見つめるが、確かに年相応の体の大きさをしているように思う。半年以上かけて森から出たことを考えると、私はあの遺跡で生まれたばかりのゼロ歳児くらいに戻されたってことに……。
「おい、お嬢ちゃん、大丈夫か?」
「え? あ、はい……、大丈夫です」
たぶん、大丈夫。すごくキースに文句を言いたくなったけどこの場にいないし、今更か……。死なずに済んだことには感謝してるので、強く言うつもりはないけど。
「とりあえずだ。他にもやらないといけないことがあるみたいだし、俺たちがいろいろと街を案内してやるよ」
「そうね。アイリスちゃんをこのまま街に放り出すなんてアタシにはできないわ」
クレイブに続いてマリンが同意すると、残りの二人もうんうんと頷いている。
「じゃあ決まりだな。フォレストテイルに任せた」
「ああ、任せてくれ」
ギルドマスターがそう宣言すると、この場は一旦解散となる。
「まずはテイマーギルドだな」
「うん」
ソファから降りるとテーブルに出したタグ以外を回収する。死亡した探索者のタグは、探索者ギルドへ返却することがルールになっているのだ。
「クレイブ」
ギルドマスターがタグを掴んで立ち上がると声を掛け。
「ん?」
「依頼主に説明するのに必要だろ。持っていけ」
それだけ告げるとタグをクレイブへと投げてよこした。
「ああ、悪ぃな。終わったら返しに来るよ」
「おう」
そういえば捜索依頼が出ていたんだっけか。家族じゃないけど、依頼主がちゃんといたんだね。
「あの、まだお仕事が残ってるなら、わざわざついてきてくれなくても大丈夫ですよ?」
「何言ってるのよ。アイリスちゃんのサポートより大事なものなんてあるわけないじゃない」
フォレストテイルのみんなの仕事の邪魔はしたくなかったんだけど、マリンが強い口調で宣言する。
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまったけど、他の三人も同じだったらしく。
「子どもがそんな気を使わなくていいんだよ」
「そうね。いろいろ教えてあげるから、安心してね」
口をそろえて気にするなというみんなが、順番に私の頭を撫でてから執務室を出て行く。その様子を微笑ましく見ていたギルドマスターも、私の頭にポンと手を置いて。
「ははっ、あいつらはガキには甘いからな」
と言いながら執務室を出て行った。
ポカンとその様子を眺めていると、隅で座っていたスノウに「行かないの?」と顔を摺り寄せられて、慌ててみんなを追いかけていった。
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