第46話 テイマーギルド

 探索者ギルドを出てちょうど大通りを挟んだ反対側にテイマーギルドはあった。四本足の獣に首輪がつけられたマークの建物だ。入り口は広く扉などは取り付けられていないため、誰でも出入りができるようになっている。

 私は先頭に立って建物に入っていくと、後ろにスノウとフォレストテイルのメンバーという順番で続いていく。


「うわっ、すごいのが来たな……。あんたらが手懐けたのかい?」


 こちらから声を掛けることなく、カウンターの向こう側にいた職員が先に声を掛けてきた。大通りを横切るだけでも目立ったし、やっぱりスノウはすぐ目につくよね。

 にしても職員と目が合わないのはなんでだろうか。職員の目線を追って後ろを振り向けば、スノウとフォレストテイルのメンバーがいた。


「ちげーよ。そこの子どもだよ。俺たちはただの付き添いだ」


「は?」


 左右へと視線を飛ばす職員だったが、ようやくその視線が下方へと移動して私と目が合った。


「え? 子ども?」


「どうも。この子の登録に来ました」


 スノウが私の後ろから顔を出してきて頬を寄せてきたのでそのままもふもふしてあげる。


「あ、はい」


 呆然としながらもきちんと仕事はしてくれるようで、書類をカウンターに広げてくれる。あれにたぶん何かを記入するんだろうと思ってカウンターに近づいたけど、身長が足りずにその頂を視界に収めることができなかった。


『ぶっ』


 一瞬笑い声が聞こえた気がして周囲を見回すけど、キースらしき姿はどこにも見当たらない。

 ……気のせいかな?


「あれ?」


 私を見失った職員だったけれど、カウンターの上から覗き込まれて無事発見される。


「あちらに行きましょう」


 と近くのテーブルを指定されたのでそちらの椅子によじ登って座った。

 職員が書類を持ってきてテーブルの上に広げると、まずは一枚の紙を私の前に置いた。従魔の登録用紙みたいだ。

 上から順番に読んでいくと、名前や年齢、性別など自分の情報を記載する欄があり、その下に従魔の種族や名前と特徴を書く欄があった。

 ペンを手に取って上から順番に空欄を埋めていく。


「おいおい、マジかよ」


「アイリスちゃんすごいわね」


 クレイブとマリンの感心した声が聞こえるけど何のことだろうか?


「その歳で字が書けるとはな……。俺たちいらなかったな」


「あはは! クレイブの汚い字で書かれなくてよかったわね」


「……うるせぇな。お前だってあんまり変わんねぇだろうが」


 マリンの揶揄いにクレイブが不貞腐れている。

 でも確かにおかしいよね……。無能で捨てられたって説明したのに矛盾しまくってるよね。でも嘘じゃないしなぁ。


「ってアイリスちゃんって男だったのかよ!?」


「ええええっ!?」


 クレイブだけでなく、あんまりしゃべらなかったトールまで声を上げて驚いている。


「は? 四歳?」


 職員は年齢のところで驚いているけどスルーしてどんどん書き進める。


「ホワイトキングタイガー……?」


 魔物の種族名のところで首を傾げているみただけど、私もキースから聞いただけなので詳しくは知らない。当の本人は私の足元で腹ばいになっていて、床に足が付かずにぶらぶらしている私の足をぺしぺし叩いて遊んでいる。


「終焉の森の魔物らしいわよ」


 驚かなかったマリンがスノウの生まれを補足してくれる。そういえば女性陣の二人には裸を見られた気がするな。うん、幼児だからまったく気にならないけど悲しんでいいのかわからない。気になってないなら気にする必要はないかもだけど。


「え? ……またまたぁ。いくらフォレストテイルのみなさんでも冗談が過ぎますよ」


 若干引きつった笑いの職員が、書き終えた登録用紙を確認してくれる。


「……はい、問題ないですね。ついでと言ってはなんですが、テイマーギルドにも登録していきますか?」


「えっ? ギルドに登録ってできるんですか?」


 探索者に憧れを持っていた私は探索者ギルドに入ってみたいとは思っていた。だけどギルドに入れるのは確か十歳からのはずで、他のギルドもてっきり同じだと思っていた。


「原則が十歳からなだけですよ。ギルドによっては見習いとして十歳以下から入れるところもありますし。テイマーギルドとしてはすでに従魔がいるなら資格は十分かと」


「ほうほう」


 私ではなくクレイブが感心しながら職員の話を聞いている。


「それに他のテイム可能な魔物の生息地の情報がもらえたり、従魔にできる新種の魔物が見つかれば報奨金が出たりします」


「へぇ。じゃあスノウは報奨金がもらえたりするかもしれないわね」


 マリンの言葉にまたもや職員が引きつった表情になる。なんとなく終焉の森の魔物であって欲しくない印象を受けるけど、深くはツッコむまい。


「……はは、でも申請書類書くのは面倒ですよ?」


 新種の魔物というところに興味はあったけど、職員の言葉に面倒くさく思う気持ちが膨らんでくる。


「じゃあテイマーギルドへの登録だけでいいです」


「なんだ、やらねぇのか。面白そうだったのによ」


 クレイブが残念そうにしているが、ただ面倒なだけなのだ。当面の目標は生活の安定なのだから、余計なことをやっている暇はない。


「申請書類書いたり面倒なことやってくれるならいいですよ?」


「……ぶはははは! そうきたか! いいだろう、俺が申請書類書いてやるよ」


 振り返って半眼で答えると、クレイブ以外が変な顔になる。


「アタシらは手伝わないからね」


 マリンの声に残りの二人も肯定すると、クレイブの顔がちょっとだけ引きつる。


「あ、当たり前じゃねぇか……」


 若干語尾が震えてる気がするけど、自業自得なのでがんばってもらおう。

 こうして私は若干四歳にしてテイマーギルドの一員となった。

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