第44話 ギルドでの話し合い

「うーん。まずは俺から話そうか」


 そう言ってクレイブさんが私を見つけた時の状況を詳しく語ってくれる。


「なるほど。それでアイリスちゃんと、その虎のスノウが終焉の森から来たんじゃないかと?」


「ああ、そうだ」


「……終焉の森? もしかして、あそこの森の名前ですか?」


「そうだが、聞いたことはないか?」


 キースからは神霊の森って聞いてたけど、一気に物騒な名前になったじゃないか。でも終焉の森か……、そういえば聞いたことがあるような。ラルターク皇国の東側に広がっている森だった気がする。そうするとここは森を越えたどこか?


「そういえば聞いたことがあります。魔物が多い危険な森だって……」


「うむ。キミはその危険な森からやってきたんだ」


 そうだったのか……。通りで強い魔物しかいなかったわけだ。でも待てよ? 私はその森でしばらく生活していたし、川の氾濫がなければ普通に森を移動できてたよね。

 まぁそれは置いておこう。今はなんで私があの森にいたかだね。


「あたしは……、無能だって、才能がないからって、捨てられました」


「え?」


「「「「は?」」」」


 ギルドマスターを含めた全員の目が点になる。


「気が付いたら森にいて、スノウたちに拾われて、半年くらい森で生活していました。最近ようやく、スノウのお母さんに見守られて森から出てきたところなんです」


「……こんな子どもを無能だと捨てるなんて信じられんな」


「どこをどう見たらアイリスちゃんが無能に見えるのかしら……」


 無能だったのはオッサンの時ですから……。などと言えるはずもなく。


「どこの出身とかわかるか?」


「……わかりません。というか、この街のこともよく知らないです」


 ラルターク皇国と答えてもよかったかもしれないが、少しでもサイラス・アレイン・ラルタークと結び付けられたくはなかった。


「そうか。さすがにそれはしょうがないな」


 ガシガシと頭を掻いてため息をつくギルドマスター。


「ここはレイセル王国の西の端にある、始まりの街アンファンだ。終焉の砦とも呼ばれるがな」


 レイセル王国と言えば、終焉の森を挟んでラルターク皇国のちょうど反対側にある国だ。森も結構な広さがあったはずで、そうすると思ったより遠くまで来たんだな。ラルターク皇国と国交はなかったはずだし、ここなら故郷のことを考えずに過ごせるかもしれない。


「終焉の森から現れる魔物を食い止める役割を持っているのがこの街だ。そうそう森から魔物が出てくることはないが……、万が一の時は危険になる街でもある。……クレイブ」


 そこでいったん話を切ると、ギルドマスターがクレイブに向かって鋭い視線を投げかける。


「はい」


「保護したのはこの子だろうが、これからどうするんだ?」


「あー、うーん……。順当にいけば街の孤児院なんでしょうけど……」


「そうだなぁ……」


 何やら考え込んでいる二人。孤児院っていうと孤児がいる施設だよね。うーん……、子どもがいっぱいいるんだろうなぁ。私自身は子どもと接したことはないけど、どうにも元三十一歳の私とは話が合う気がしない。


 そこでちらりと視線が向けられたのはスノウだったけど、まさか孤児院でスノウの面倒まで見てもらえるとも思っていない。


「宿があればそこで生活しますけど……」


 思わず声に出すと、部屋にいる五人全員の注目を浴びる。子どもが何言ってんだという視線も含まれているが、子どもじゃないので。


「お金はあるのか?」


 至極まっとうなことを聞かれたけど、お金に換えられそうなものはたくさん持っている。あ、そういえば昔、お金の入った袋も拾ったっけか。探索者のタグも拾ったから渡しておかないと。


「いくらか森で拾ったものがあります」


 背負ったままだった鞄を前に持ってくると、口を開いてお金の入った革袋と探索者のタグ、短剣三本、小盾に時空の鞄を取り出す。盾はなんとか鞄より小さいので不審には思われてないと思う。

 目の前のテーブルには手が届かなかったので、一度ソファを降りてからテーブルに出してソファへと戻ってきた。こういうところは小さいと不便だなぁ。


「うん? 森で拾った? これは……! ダレス・ネイワードだと!?」


「「なんだって!?」」

「「えっ!」」


 あれ? そんなに驚くところなのかな? そこまで有名な人だったり?


「こ、これはどこで!?」


 はてなを飛ばしているとクレイブがソファから立ち上がって詰め寄ってきた。


「え、あの……」


「あ、こら! クレイブ! アイリスちゃんが驚いてるじゃないの!」


 思わず引いているとマリンから叱責が飛んでくる。


「あ、すまん……」


 素直に引き下がったクレイブがソファに座りなおすと、改めて真面目な顔で問いかけてきた。


「それでその、ダレス・ネイワードのタグはどこで見つけたのか教えてくれないか?」


「あ、はい。……拾ったのは半年くらい前で、私たちがスノウとしばらく過ごした小さい川沿いなんだけど、場所までは詳しくはわからないです」


 キースがいれば正確な場所はわかったかもしれないけど、この場にいないのでどうしようもない。肝心な時に役に立たないやつである。


「そうか……。行方不明になった時期とは一致してるが」


「あ、でも」


 何日かけて森を抜けてきたか思い出そうとしたところで、正確に数えていたわけでもないことに気付いてしまう。


「川に流されるまではひと月くらいは歩いたから、ここからひと月くらい歩いた場所かも?」


 なんとかうろ覚えの記憶をほじくり出すが、子どもの足での一か月だ。あんまりあてになるとも思えない。


「ふむ。ひと月か……。その虎に乗って移動したと考えると、それなりの距離になりそうだな……」


「あ、いえ、森の中はずっと、自分で歩いてました」


 なんか変に勘違いして遠い距離になりそうなので訂正したら、みんなに目を丸くされた。

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