第43話 始まりの街アンファン
スノウが獲ってきた猪はそのままフォレストテイルに進呈し、翌朝出発すること数時間。昼前になってようやくアンファンの街に到着した。
街の壁は五メートルほどにも達し、厳重に監視が置かれていた。魔物がたくさん生息する森があれだけ近くにあれば、物々しくもなるのだろう。
マリンが先行して連絡を入れていたおかげか、門に着いてもスノウを見てもそこまで驚いた様子は見られなかった。
「クレイブか。マリンから連絡を受けたときは驚いたが……、それが例の……」
「ああ。アイリスとスノウだ」
普段こちら側の門は閉まっているらしいが、今日は門番が二人待ち構えていて門を開けて待っていてくれていた。
クレイブに紹介されて軽く頭を下げると、なんとも複雑な表情が返ってきた。
「さすがに街の中じゃその虎は目立つな……。あー、アイリスちゃんだったかな」
「はい」
スノウが目立つのはしょうがない。だからといって入り口で待たせておくという選択肢は取るつもりはない。
「できればテイマーギルドに行って、その虎を登録してきてくれるかな。そうすれば街の中でも堂々と連れて歩けるから」
「あ……、そうなんですね。ありがとうございます」
少々警戒していたけど、門番さんは解決方法を教えてくれた。そういえばテイマーにもギルドがあったっけ。テイマーだけじゃなく、いろいろギルドがあったなぁ。商人ギルドとか、鍛冶ギルドにメイドギルドとか、数えきれないくらいあった気がする。
「じゃあとりあえず探索者ギルドへ行こうか」
「あ、はい」
クレイブに促されて街の中へと入っていく。ずっとスノウの背に乗ったままだけどまぁいっか。子どもが乗ってるほうが警戒心が下がるかもしれない。
街の門をくぐると、そこは広場になっていた。いつも閉まっている門の前だからか、それほど賑わっているというほどでもない。だけど人はいる。人間が道を歩いている。
まっすぐ続く大通りには石畳が敷かれており、土で固められた家がそこかしこに建っている。
ようやく人里に来れたのだ。感動に打ち震えていると、いつもならこのあたりでキースの余計なツッコミが入るところだ。だけど昨日から姿が見えないのでとても快適である。
意気揚々とクレイブたちのあとをついていくと、すぐに探索者ギルドに着いた。六芒星のマークが使われているのはどの国の探索者ギルドでも同じようだ。
……そういえばここってどこの国なんだろう? あとで聞けばわかるかな。
フォレストテイルのあとに続いてギルドへと入っていくと、驚いた顔の人たちから注目を浴びた。ガタガタと椅子から転げ落ちた人もいる。
「あー、大丈夫だからみんな落ち着け」
クレイブが宣言すると幾分か動揺が収まる。
街に来たことでようやく周りのことに関心が出てきた気がする。そういえばフォレストテイルのみんなのランクも知らないけど、ベテラン感は出てる気がするな。
「なんだなんだ、そのでっかい魔物はなんなんだ?」
「子どもが乗ってるぞ?」
「クレイブ、いったい何があったんだ?」
次々と質問が飛んでくるけど、クレイブは全部無視してカウンターへと歩み寄る。
「ギルドマスターはいるか?」
「あ、はい。フォレストテイルの皆さんが来たら、執務室へ来るようにと伺っております」
「わかった。そこまで準備していてもらって助かる」
行くぞと声を掛けるとメンバーのみんながついて行く。スノウが狩った獲物を担いでいたトールは、カウンターに寄って獲物を下ろしている。さすがにあのまま持っていくことはないみたいだ。
「アイリスちゃんも行くわよ」
最後尾にいたティリィに声を掛けられて、私もついて行くことになった。
「向こうだって」
スノウへと声を掛けて奥の通路へと入っていき、みんなの後ろをついて一番奥の部屋へと到着した。
「……話には聞いていたが、でかいな」
部屋に入ると奥にいた人物から驚いた声が聞こえる。
「マリンからの話がなければ、街全体で緊急の迎撃態勢が取られたかもしれん」
「ええぇぇ……」
思わず跨っているスノウを見るけど、そんなに怖そうに見えないよ?
だってこんなに可愛いし、もふもふしてるのに……。
首元に顔を埋めて大きく息を吸い込むと、スノウから降りる。改めて奥にいる人物に目を向けると、そこにはいかつい髭面の黒髪をした男がいた。
「最初に会ったときは生きた心地がしなかったぞ……」
クレイブの言葉に他の三人も頷いている。
「ランク5のお前たちでもか」
「ええ。何もさせてもらえずに死ぬ想像しかできなかったです」
そんな大げさなと思いつつもスノウを振り返ると、すました顔をしているだけだ。そのまま腹ばいになって寝転がると、大きなあくびをひとつ。それにしてもフォレストテイルのみんなはランク5か。ベテランの探索者だね。
「ああ、すまんな。自己紹介が遅れたが、わしがここの探索者ギルドのギルドマスターをしておるガルガロス・シューティーだ」
「アイリスです」
「かけてくれたまえ」
勧められるままにソファの前まで行くと、両手をついてよじ登る。幼児化してから初めて椅子っぽいものに座るけど、これはこれで新鮮だ。
「さっそくで悪いんだが、話を聞かせてくれないかい?」
「ああ、俺も詳しくは聞いてないからな。……辛いかもしれないが、話してくれないだろうか。アイリスちゃんの身に何があったのかを」
そう真剣な様子でお願いをされた私は、居住まいを正してみんなに向き直った。
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