第30話 シュネー先生のブートキャンプ
はぐれ狼が力をなくして地面へと倒れたあと、私も荒い息をついて地面へとへたり込んだ。いつの間にか息が荒くなっている。神の声が聞こえた気がしたけどなんだったんだろうか。
『レベルが7になったな』
「えっ? ホントに?」
『嘘を言ってどうする。自分でステータスを見ればいいだろう』
確かにそうだ。
=====
ステータス:
名前:アイリス
種族:人族
年齢:3
性別:男
状態:正常
レベル:7
HP:39/49
SP:135/385
MP:375/625
=====
「確かに、レベルが7になってる……。うわっ、SPとMPがめちゃくちゃ増えてる……」
『成長系や強化系の因子をこれでもかとぶち込んだからな』
「ぶち込むって……、それって大丈夫なの?」
キースの不穏な言葉に眉をひそめていると。
『それはこれからわかる』
あまり安心できそうにない言葉が返ってきた。
「え……」
つまりこのまま時間が経過しないと大丈夫かどうかわからないわけで、現時点で大丈夫かどうかわからないということ?
「なにしてくれてんのさ!」
『あのまま放置していたら死んでいたのだ。問題あるまい』
「そこは感謝してるけど問題だらけだよ!」
『大丈夫だ。想定しうる事態についてはすべて私だけで対処が可能だ』
「ぜんぜん安心できないんだけど!」
対処が可能だとしても、何かが起こる可能性があるってだけで安心できるわけがない。具体的に何が起こるか気になるけど、聞いてみて後悔したくないし、怖くて聞けそうにもない。
『とりあえずしばらくは大丈夫だから安心しろ』
だからそれができないんだってば……。
はぁ……、なんかもう疲れてきた……。どっちにしろもう戻れないし、なるようにしかならないのだ。
「わかったよ……。それにしても一気にレベル7まで上がるなんて、このはぐれ狼がそこそこ強かったってことだよね」
不安が
私が初めてゴブリンを倒したのは10歳の時だっただろうか。当時はレベル1だったけど、ゴブリン一匹ではもちろんレベルアップはしなかった。
『それはそうだろうな。強力な魔物が多かったからこそ、当時神霊の森は未開地のままだったのだ』
「あのはぐれ狼は強い方?」
『群れから外れるくらいだからな。強かったらボスになっているだろう』
なるほど。少なくとも狼の中じゃ弱い方ってわけね……。
『当時と魔物の分布が同じなら、あの狼は単体なら弱い部類だ。群れないと生きていけないからな』
「じゃあシュネーたちは?」
『もちろん強者だ。今まで他の魔物に襲われることは少なかっただろう? 本来この森は魔物で溢れかえっている場所なのだ』
そういえば似たような話を前にも聞いたような気がする。
しょんぼりしつつも魔物を自分一人で倒せたことには違いない。ちょっとくらい誇ってもいいはずだ。うん、落ち込んでいても仕方がないし、前向きにいこう。
となればちゃんと戦利品は持って帰らないとな。
「シュネー!」
私は後ろを振り返ると、見守ってくれていたシュネーたちを呼ぶ。
背中の鞄を地面に下ろすと口を開け。
「あの狼を持ち上げて、この鞄の中に入れて欲しいんだ」
さすがに二メートルを超える狼は私には持ち上げられない。なのでシュネーにお願いしてみたんだけど、快く手伝ってくれた。
べろべろと顔じゅうを舐められたんだけど、きっと褒めてくれているんだろう。
「じゃあ帰ろうか」
こうして私たちは拠点へと引き返したのだった。
一か月ほど私のスパルタ訓練が続いた。
ここを出る決意をした途端に、シュネーから訓練が課せられるとは思いもしなかった。しかも毎回苦戦してばかりで、自分が強くなっていってるのか実感が湧いてこない。ステータスを見れば上がっているのはわかるんだけどね……。
レベルは17になったけど、各スキルのレベルは上がっていない。HPは66、SPは887、MPに至ってはなんと1322になった。相変わらず体力はないけど、MPだけで見るなら凄腕の魔術士だ。きっと。……たぶん。
よく姿を見せる精霊たちとも契約しており、今ではかえでを含めて10体の大所帯となっている。相変わらず話ができるのはかえでだけなのは変わりないけれど。
まずは水の下位精霊の「しずく」。水色の半透明なスライムみたいなやつだ。ぷにぷにしてひんやりしていて触ると気持ちいい。
風の下位精霊の「ふうか」。透明な羽の生えた妖精さんだ。おめめが大きくて頭から触覚が生えている。
石の下位精霊の「いしまる」。どこからどうみても直径5センチくらいの石ころにしか見えないが、れっきとした精霊だ。
火の下位精霊の「かれん」。いつも赤く揺らめいていて、火の玉が浮いているように見える。
光の下位精霊の「ひかる」。2センチくらいの羽の生えた昆虫の姿で、お尻がすごく眩しく光る。
土の下位精霊の「もぐら」。地面を掘る爪が発達している土竜の姿をしている。
雷の下位精霊の「らいら」。見た目は鳥だけど、その移動速度は目で追えない。
霧の下位精霊の「きりと」。いつも霧状に空気中に広がっていて、目で見えていてもそこにいると気づかないことも。
これだけ精霊が増えたのに、いつもシュネーに連れられて戦う魔物とは苦戦するのだ。ステータスは確実に上がってるはずなのに、全然あてにならない。ちょっとMPが四桁になって喜んでたけど、そのあとに戦ったでっかい熊にはあまり精霊魔術が通じなかったしね……。
「はぁ……」
自分のステータスを確認しながらも、大きなため息が漏れる。
『順調に育っているようで何よりだ』
「がうがう」
満足そうにキースが呟いていると、シュネーに最後の仕上げに行くぞと言われた気がした。どうやらこのスパルタ訓練はもうすぐ終わるらしい。
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