第31話 最後の仕上げ

「……どこまで行くの?」


 シュネーに連れられて森を行くこと二日。少し木がまばらに生える湿地帯へとやってきた。もしかして森の切れ目かと期待したけど、向こう側は山になっていて人里がありそうには見えない。

 スノウも鼻をスンスンとさせて首をキョロキョロとさせている。スノウも知らない場所なんだろうか。


 しばらくすると目の前に二体の魔物が現れる。

 水棲トカゲの見た目をした二足歩行の魔物だ。体表は青い鱗で覆われていて、がっしりとした体つきをしている。今まで倒してきた魔物に比べて知性は高そうだ。実際に二体の魔物にゆっくりと近づいていくが、敵意は感じない。


「がう」


 シュネーが一声鳴くと、二体の魔物が頷いて道を開けてくれる。


「今までとぜんぜん違うんだけどなんだろう……」


『今回はリザードマンか。今までの相手はすべて問答無用で襲ってきていたが……』


 どうやらリザードマンという魔物らしい。キースの言う通りこれまでの相手は全部獲物だった。草食動物と思われる魔物まで襲ってきたので、結果的に全部返り討ちにしてたんだけど。

 湿地帯の中を進んで行くと、ちらほらと他のリザードマンが姿を見せるようになっているが、興味深そうにこちらを観察しているだけだ。


 やがてシュネーが立ち止まると、そこには五体のリザードマンが並んでいた。見ただけでもわかる、強者の風格を漂わせている。

 何が始まるんだろうと思っていると、スノウがシュネーに背中を押されて前へと出されていた。それで何かを察したのか、スノウが目の前のリザードマンを見据えて気力を漲らせている。


「今度はスノウなのか」


 ここしばらく私がされていた儀式のようなものだが、目の前の敵を倒せというシュネーからの合図だと思っている。

 自分じゃないと思って安心していたけど、シュネーが後ろに回り込んできて私もリザードマンの前へと出された。


「うえっ!?」


 予想外のシュネーの行動に思わず振り返るけれど、当たり前だけどシュネーは冗談を言ったりはしない。正面に視線を戻せばリザードマンも少しだけ困惑しているように見て取れた。


 だがそれも一瞬だ。


 シュネーが後ろに下がると同時に構えを取り、三体のリザードマンが私たちへと踊りかかってきた。




 槍のような細長い武器を振り回すリザードマンが二体。両手に短い棒を持つリザードマンが一体。あとの二体は素手のようだ。

 足元がぬかるんでいてすごく動きにくい。敵の一体が槍をスノウに突き出すが、ひらりと躱して前足を叩きつける。腕で受けて流されたがそのままお互い戦闘に入っていく。


 私は眼前に迫るリザードマンの足が地面に接地した瞬間、しずくともぐらにお願いして地面を固めてもらう。足が半ばまで埋まったまま抜け出せなくなり転びそうになったところを、地面から石の突起物を隆起させて相手の腹へとぶち当てる。が、微妙に当たり所をずらされて直撃を回避された。このリザードマン、戦闘の勘がすごくいい。


「うひゃぁ!」


 目の前に水の塊が飛んできたので慌てて躱す。どうやら後方のリザードマンは魔術を使えるらしい。高位の魔物になれば魔術を使うものもいるとは聞いていたけど、まさかこんなところにいるなんて。今までの敵とはどうやらレベルが違うらしい。


 後ろにいた短剣もどき二刀流のリザードマンは、そのままスノウと切り結んでいる。後方の二体がちょくちょく魔術で牽制してくるので鬱陶しい。ふうかに頼んで風を後方に起こしてもらうと、魔術が飛んでこなくなった。


 ガツッと音が聞こえたかと思えばリザードマンからの突きを食らっていた。いしまるが石を生成して防いでくれなかったら危なかったところだ。後衛に意識を取られて接近されるとは……。

 だけど予め魔力を渡してお願いしておけば、ある程度自動で精霊がやってくれるのは便利ではある。石壁の防御はいしまるの判断なのだ。


「このっ!」


 掛け声とともに風の塊と土のつぶてをぶつけると、風の勢いに乗ってつぶてが前方へ散らばって飛んでいく。かなり命中したはずだけど、攻撃を受けたリザードマンはすぐに起き上がってまた向かってきた。


「頑丈だな!」


 前に戦った猿の魔物にはそこそこ効いたんだけどな!

 心の中で悪態をつきながら目の前に土の壁を生成する。その時に視界の隅で短剣を持ったリザードマンがターゲットをスノウからこちらに変えて近づいてくるのを認識する。


「――ッ!?」


 予想外の相手の行動の変化に、迎撃手段が一瞬真っ白になって思い浮かばなくなる。

 が、そこにスノウが槍の相手を振り切って体当たりをぶちかます。助かったと思ったが槍がスノウめがけて繰り出された。


「スノウ!」


 咄嗟に出たのがひかるによる目くらましの光だった。相手の眼前に生み出された光によってタイムラグが生まれ、突き出された槍をスノウが躱す。だからと言って安心するわけにはいかない。まだ戦闘中なのだ。

 またもやガツッといしまるが攻撃を防いでくれる音がしたかと思うと、目の前には後方で魔術を放っていたはずのリザードマンがいた。


「えっ!?」


 振りかぶられた拳が握り締められると勢いよく振り下ろされる。側頭部への攻撃はいしまるがまた防いでくれたが、反対側の握りこぶしは間に合わなかったようだ。

 攻撃を食らった私はそこで意識を失った。

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