第二幕 〜3年前の要目〜

 頭部を吹き飛ばされた奏夜の体が血をまき散らして床に倒れる。

 要目は立ち尽くしていた。さっきまで明るく要目と一緒にいた奏夜は見るに堪えない姿に変わってしまった。

 緋目はその場に座り込んで動かない。ただ呆然と前を見つめている。

 奏夜が作った血溜りの中をループスは歩く。ループスは緋目の近くに果物ナイフを置き、要目を横切った。


「ループス?」


 要目の声にループスが応えることはなかった。

 緋目が突然、立ち上がる。


「要目?」


 緋目はふらつく足取りで前に進んだ。


「要目? どこ? お母さんここにいるから……」

「おかあさん! ここに!」


 駆け出そうとした途端、服の襟をつかまれ、後ろに引っ張られて尻餅をついた。

 その直後、緋目が近くの果物ナイフを手に取り、奏夜の死体を切り刻む。


「やめろ! 私の娘に手を出すな、手を出すな―――――――――!」 


 緋目が奏夜の死体を切り刻む。肉片はあちこちに飛び、緋目は顔に大量の血を浴び続けた。

 要目は緋目の狂行に言葉を失い、固まった。





 しばらくして緋目の動きが止まった。奏夜の死体はもはや原形さえもとどめていなかった。緋目はそれを呆然と見つめている。


「愛する人を切り刻む気分ってどんな感じなんですかー? お母さん?」


 そう言ったのは赤いヒールを履いた、緋目と要目をこの部屋に戻した女だった。

 腰まで靡く金と紫の髪に首には真っ赤な宝石のアクセサリー、手首には何重にもある宝石のブレスレットがキラキラと輝いていた。

 緋目は激しく息を吐くと、女めがけて走り出し、ナイフを振り下ろした。

 振り落としたナイフは見えない壁によって弾かれるが、緋目はひるまず見えない壁に拳をぶつけ続ける。


「娘に手を出すな! 娘に手を出すな! かなめえええええええええええええ!」


 緋目は髪を振り乱し、血まみれになった顔で要目の名前を叫び続ける。


「お母さんがあなたを守る!あなたはお母さんが守るわ。だから大丈夫、大丈夫」


 ふと緋目の後ろにしゃがんでいた青年が立ち上がる。いつからここにいたのか分からない。濃い緑色のマントにベレー帽をかぶった青年だった。その右手には血が滴る大鉈があった。

 青年は大鉈を引きずりながら緋目に近づく。そして近くまで来ると大鉈を下から振り上げた。

 緋目の背中が裂ける。緋目が振り返った途端、青年は手首をくるりと回して緋目の胸に大鉈を突き刺した。

 喧騒が静寂に変わる。


「おかあ、さん?」


 かすれた声で緋目を呼んだが答える声はなかった。


 この後もずっと。





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