第一幕 〜3年前の要目〜

 それから要目は緋目にずっと抱きかかえられながら食卓の部屋に戻った。

 そこで要目は奏夜の悲鳴を耳にした。

 緋目が要目をぎゅっと抱きしめているせいで奏夜がどんな目に合っているのか分からなかったが、何か良くないことをされていることは要目にだって分かった。


「大丈夫、要目。要目、お母さんがここにいるから」


 緋目は要目の耳元でずっと同じ言葉を繰り返している。だが、いつも要目を安心させる言葉はどこか不安と恐怖で満ちていた。


「緋目さあああん!要目ええええ!」


 奏夜は断末魔の叫びのごとく緋目と要目の名前を呼んでいる。

 依然として要目には緋目の体がはだかって見えない。

 ふと、奏夜の叫び声が途絶える。

 緋目は抱きしめていた両手の力を緩め、首だけで振り返った。

 その直後、その場にあるはずのない声を聞いた。



「武器を手にとれ」



 聞き間違えるわけがない。今日の昼にまたチョコレートケーキを食べようと約束を果たしたあの声。


「ループス?」

 どうしてループスがここにいるの?

 一体何をしているの?

 疑問が溢れたが、次に聞いた奏夜の言葉が疑問を打ち消した。


「緋目さん、要目。お父さんが絶対守るから。お父さんが守るから……」

「待って! 奏夜さん! それを引かないで―――――――――!」


 緋目がその場に崩れ落ちたせいで要目は見てしまった。

 首にまいた爆弾の紐を自らの手で引き、爆弾で頭部が吹き飛んで死んだ奏夜の姿を。

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