幸せを感じる時 〜3年前の要目〜
その日の夜。
要目はぐずりながら緋目の下に来た。
なぜ泣いていたのか分からない。なぜか涙が出てきたのだ。
要目を見た緋目は作業していた手を止め、要目の目線に合うように屈み、肩に手を置く。
「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
緋目の問いに要目は首を横に振る。
「それともどこか痛いの?」
緋目は原因を探そうと質問してくるが、幼い要目には泣いている原因が上手く説明できなかった。
「わああ! 要目!」
いつの間にか部屋に入っていた奏夜が泣いている要目を見つけて抱き付く。
「どうしたの? おとうさん要目が泣いていると悲しいなあ!」
要目が泣くと決まって奏夜も泣きそうになっていた。そんな二人を見た緋目は言う。
「二人とも、ココア飲む?」
緋目は要目がぐずったり泣いたりすると必ずココアを入れてくれた。不思議なことに、ココアを飲むと心が落ち着き、いつの間にか嫌なことも泣いていた理由も忘れられた。
ほっとして要目が笑うと奏夜も緋目も笑顔になる。そんな父と母に囲まれて要目は幸せだった。
*
そして現在。
そこまで話し終わった要目は一旦息をついた。
「今でも、あの時なぜ泣いていたのか分かりません。ですが今思えば、ループスから出ている何か良くないものを本能的に感じ取ったのだと思います。危険な匂いを嗅ぎ取ったというべきでしょうか……」
だが、そんなこととは裏腹に奏夜一家とループス一族とは頻繁に会うようになった。
奏夜と会談をしている間、要目はループスと一緒だった。要目とループスはよく屋敷の庭の池で遊ぶことが多かった。
「交流を深めていくうちに私はループスに魅かれて、しまいには恋に落ちていました」
要目は唇を噛みしめ、次にこう続ける。
「ループスは、私の初恋の相手だったんです」
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