8 満足

 トキワが仰向けに倒れている。要目はトキワの傍でそれを見下ろしていた。

 トキワの喉には要目が投擲した短刀の破片が刺さったままになっている。


「あは、あはははははは。負けたかあ……でも、楽しかったなあ」

「そのようですね。あの時だって、貴方はあんなに楽しそうな顔を浮かべることはありませんでした。ですが、」


 要目はその場にしゃがむ。


「何が楽しい、ですか。私の殺しには信念がある、目的がある。貴方とは違う。貴方のせいで楽しいことも全部奪われた。ふざけるな」

「……そうだねえ」


 トキワの反応が予想以外だったのか、要目は一瞬きょとんとした。


「君は正しい、かもしれない」


 トキワは要目をまっすぐ見つめ、こう続けた。


「君に殺されるなら本望だ。そして満足だ」


 トキワは目を閉じる。

 要目は両手でトキワの首に刺さった短刀の破片をつかみ、引き抜いた。近づかずとも分かる夥しい量の血が空中に散る。

 要目は短刀の破片を握り締め、地面に拳を打ちつける。肩がわなわなと震えていた。


「要目?」


 斎は見たことのない要目の姿に戸惑う。


「満足を……吸い取られました……」


 要目は立ち上がるがよろける。斎は左腕で要目を受けとめた。


「憎くて憎くて仕方なかったはずなのに、憎い相手を殺して満足するはずなのに……なんで、満たされないの?」

「……」


 かける言葉が見つからない。斎は顔を伏せるが要目は顔を上げ地面に踵をつけた。しっかりした足取りでトキワの亡骸に背を向けて歩き出す。


「行きましょう、斎。私、疲れたみたいです」

「……」


 結局、斎は要目に何も言葉をかけられなかった。


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 おまけ②

表題の「丁丁発止」とは「刀などで激しく音を立てて打ち合うさま」と

いう意味だそうです


 おまけ③

ショコララテをよりによって、トキワくんにあげた斎くんはこの後、要目ち

ゃんにこっぴどく怒られました。


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