6 光悦
トキワは大鉈を右手に持ち換え、噴水の縁の上に立つ。
要目が短刀を取り出した瞬間、トキワは駆け出し、左足を軸に右に回転しながら要目の短刀を大鉈で薙ぎ切った。短刀はパキッと折れ、要目は後ろに跳んで下がる。
「要目!」
斎が立ち上がり右手を伸ばした時、その手がピリッと痺れた。慌てて手を引っ込める。
「あら、ダメよ邪魔しちゃあ」
体が強張った。振り返ると噴水の奥に女性が背中を向けて座っている。
腰まである艶やかな金と紫の髪、縁についた手は花園の風景に負けない彩色豊かな装飾品で飾られている。彼女は首だけで振り返る。
「久しぶり、実に数日ぶりかしら?」
「……ベランカ」
「あらあ」
ベランカは口角を最大まで上げると、回って斎と向かい合う。足を組んだ時、真っ赤なヒールの足が噴水の中に入ったがお構いなしだ。
「アナタに呼び捨てされる筋合いなんてあったかしら?」
斎は両腕を後ろに組む。左手は右手の手袋の人差し指をつまんでいる。
「安心して。今日は殺さないわ。今日はアナタの足止め」
ベランカは両手をあげ、ヒラヒラ振る。
「その証拠にほら、丸腰よ」
斎は一旦、両手の力を抜くが、左手はまだ右手の人差し指をつかんだままだ。
油断できない。ベランカに騙されている可能性がある。
そんな斎の思惑を見抜いたのか、ベランカは人差し指を顎につけ、こう続けた。
「多分ここで貴方を殺せば要目ちゃんは絶対こっちに来るわ。そうしたらトキワが可哀想」
「……可哀想?」
「見て」
見るとトキワが要目めがけて大鉈を左右に薙ぎ、下から地面を抉りながら大きく振り上げた。要目は体をのけぞり後退するのをトキワがすぐさま追撃する。
「トキワの恍惚とした顔、初めて見たわあ、あれはかなり楽しんでいるわね」
何が楽しいか、どう見ても殺し合いだ。トキワは鉈を振り下ろすと体勢を低くし回転しながら鉈を高速で振り回す。刃先が要目の鼻先を掠めた。
「! 要目!」
斎は手を伸ばすが、見えない壁によって押し返された。
「だからあ。ここから先行けないんだって」
「……」
トキワは大鉈を要目の目前に振り下ろす。要目は両手で大鉈を挟んで受け止めた。
要目は大鉈を押し返そうと歯を食いしばる。少しだけ大鉈をトキワの方に押し返した時、トキワが右足で要目の腹を蹴った。ブーツの裏が要目の腹に食い込み、要目は後ろに倒れる。
「っ!」
「あらあら、要目ちゃんが大変」
斎はベランカを睨む。ベランカは足を組んだまま笑みを浮かべていた。
「……あんた」
「あら? 今度はあんた呼ばわり? 別にいいけど」
「あんたら、一体要目に何をしたんだ?」
この質問にベランカは目を見開き、顔から笑みを消した。
「アナタ、要目ちゃんのこと知らないで協力していたの?」
「……ああ」
自分でもなぜこんな質問をしたのか分からない。そもそも要目の復讐なんて興味なかったはずだ、はずなのに。
ベランカはフフフ、と笑う。
「そうねえ、お姐さん優しいから教えようかな? あのね、あの子の」
その時、バタンという音でベランカの言葉が消された。振り返ると、要目が噴水の近くまで突き飛ばされ、倒れているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます