3 静寂、そして……

   *


 要目は塔屋の裏で機関銃の銃弾をかわしながら応戦していたが、突然音が止んだ。  

 要目は警戒しながら塔屋の裏を出る。すでに屋上にベランカはいなかった。

 また逃げられた。これで三回目である。

 要目は屋上を一周する。

 屋上には要目が射殺した死体で散乱している。貯水槽の傍では見たことのない大男が目を見開いて死んでいた。要目は貯水槽の奥に進む。確か貯水槽の裏に斎が身を隠していたはずだ。まだそこにいればいいのだが、と思ったが、斎はそこにいなかった。

 貯水槽に近い手摺壁の一部に血が飛んでいる。その下に血だまりもできていた。

 血だまりを指でなぞると、指に血が付着する。

 この血の主は、夥しい出血なのに姿を消さなければいけない事情があり、貯水槽の近くにいた者だ。この条件にベランカは該当しない。

 ベランカは自分の周りに強力な防御の壁を張ることができる。一度貼ればどんな攻撃も通らず彼女の前で全て弾かれてしまう。そんな彼女が大怪我をするわけがない。

 あの大男に傷はなかった。あれは明らかに毒殺だ。おそらく斎だろう。その斎は姿を消している。

 血の乾き具合から怪我をしたばかりだが、その量からしてかなり体に大きな損傷を受けている可能性が高い。

 要目は手摺壁から身を乗り出す。まだ乾いていない血痕が壁を越えて続いていた。

 落ちたとしても遠くにいる可能性は低い。それだとすればまだこの建物の付近にいてもおかしくない。

 要目は貯水槽の傍に落ちていた片手だけの白手袋を拾うと、急いで階段を降りた。

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