2章 要塞不落

1 階段の先に


 遊戯場の事件から一晩がたった。あのオーナーの事件は一時騒がれたが、結局迷宮入りになった。

 静まり返った深夜、要目かなめいつきは都市で一番高い建物の屋上を目指して階段を上がっていた。

 骨組みのような階段は建物からはみ出るように設置されている。螺旋状になっている階段は上がる度にコツコツと音が鳴る。


「街に奴がいるなら必ず、大勢の部下を連れて今夜この街を出るでしょう。ですから、一番高い建物の屋上で奴を探します。あの女が私達を見つける前に見つけ出さなければいけません」


 要目が「奴」というのはベランカのことであろう。遊戯場の事件で出てきた名前だ。

 斎には分からないが、ベランカは要目にとって因縁の相手であることはうすうす察していた。

 昨日、要目はオーナーからベランカがこの街にいることを聞き出し、ベランカが今夜街を出ることを予測した。現在、斎はそんな要目に同行して一緒に探している。


「前は、深夜に出ると思ったら裏をかかれて祭の人混みに紛れて逃げ出しました。それから昼に出ることを予測して張っていたら今度は部下だけ昼に逃がし、私がその部下を捕まえて居場所を聞き出している間に逃げました」


 階段の途切れ目が見える。もうすぐ屋上に着く。


「今回は裏をかいて昼に逃げ出すか、裏の裏をかかれて今夜に逃げ出すか」

「それとも、表でも裏でもなく目の前にいたりして」

「!」

「!」


 斎の知らない声が聞こえた時、要目と斎はすでに屋上にいた。



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