6 罠
細い男は斎を囲んでいた頑強な男達に部屋の外へ待機するよう指示すると鍵を閉めた。現在、部屋にいるのは細い男と斎の二人だけである。
奥の壁に机を置いただけの殺風景な部屋だ。細い男は振り返って帽子をとる。目鼻立ちが整った顔が現れた。
「はじめまして、オーナーです。さっきのディーラーの無礼をお許しください」
丁寧な口調だがその視線は斎を舐めまわしていた。
不快感に斎は真正面からオーナーを睨め上げる。
その時、ドアが大きく開かれた。そこで、外から頑強な男達に抱えられて入ってくる要目を見た。
「何かの間違いでしょう! うちの従者はそんなイカサマみたいな真似などしません! 離しなさい!」
要目は地面に放り出され、尻餅を強くつく。
「こんなことして、ただで済むと思っているんですか?」
ぎゃんぎゃんと喚く要目をよそに、細い男――オーナーは扉に鍵を閉める。斎がチャンスだと思い左手で右手袋の中指をつまんだ次の瞬間、オーナーが振り返ったので動作を止めた。
オーナーはキッと睨んでいる要目に近づき、手を差し伸べる。
「手荒な真似をして申し訳ございませんでした。後で彼らにはしっかり言い聞かせておきます」
要目は差し伸べてくれた手を掴み、立ち上がる。その時、要目はバランスを崩し、オーナーにもたれかかった。
直後、オーナーは小さく呻き声をあげ、要目を突き飛ばす。
オーナーの右の手の甲に針が刺さっていた。
「これは……」
オーナーはゼエゼエ息を吐きながらその場に倒れる。
要目はそんなオーナーを見下ろしていた。
その目に鋭い光を宿して。
「はじめまして」
オーナーは激しく痙攣し、床に転がる。大声で助けを呼ぼうとするオーナーに要目は言い放った。
「助けを呼ぼうなんて馬鹿な真似はよしなさい。即効性の毒を注入しました。助けを呼ぶより早く何とかしないと死んでしまいます」
「な、なにが望みだ……」
「今から一つ質問をします。それに首を縦に振るか横に振るか、してください。そうすれば何とかしてあげます」
要目は床に転がっているオーナーの傍にしゃがみ、耳元で何かを囁く。聞いた直後、オーナーは激しく首を縦に振り、両手で要目の足にすがった。
「はやく、解毒剤を……」
要目はクスッと笑った。口元に浮かんでいるのは不敵な笑みだ。オーナーはその顔を見て青ざめる。
「解毒剤、ね。解毒剤はあの香水の瓶に入っていたんですが。残念ながらオーナーの命令で怪しい物は優秀な部下が処分しましたので」
要目は不敵な笑みを浮かべたまま、足にすがったオーナーの指を一本ずつ引きはがす。
オーナーは目を見開く。
「き、貴様!」
「何とかします、とは言いましたが、解毒剤をあげるとは言っていません」
「くっ」
オーナーは制服のポケットに隠していた折り畳み式ナイフを要目の足の甲に突き刺す。
「気力を振り絞って返り討ちにしようとした、という所でしょうが残念でしたね。こんなもの痛くも痒くもありません。それに」
要目は足の甲に刺さったナイフを引き抜く。
刃に何もついていなかった。
「私には血も涙もありません」
要目は足の甲からナイフを抜くと高く振り上げる。
「
要目はナイフをオーナーの首めがけて突き刺す。刺してからナイフをグリッと動かすとオーナーは全く動かなくなった。
「……うちの両親がされたことに比べればこんなのまだマシよ」
要目は立ち上がると、死体を跳び越えて軽やかに机に乗り、天井板をはがす。
「ここに人一人通れる通路があります。そこから外に逃げましょう」
なぜそんなことを知っているのか、と尋ねる暇はなさそうだ。
異変に気付いたのか、外から扉が激しく叩かれている。
要目が天井裏に消えたので斎もそれに続く。
闇の中、天井裏を這って進む。その中で要目は斎にギリギリ聞こえる声で呟いた。
「計画通り」
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