5 遊技場

 そこは遊戯場だった。ルーレットやトランプゲーム、子から大人まで熱狂している。

 要目はどこかで財布の金を赤黄緑の丸い板と交換すると、斎にさっきもらった飲み物を持たせ、トランプゲームに挑んでいた。

 遊び方が分からないゲームだった。要目達の間では「フルハウス」「スリーカード」「ツーペア」などの声が飛び交っている。

 ただ見ている斎には、どこが楽しいのか、とさえ思った。 

 要目はテーブルの中央に盛り上げられた丸い板を両手で自分の元に引き寄せ、布袋に入れる。その頃には持っていた飲み物がぬるくなっていた。


「ありがとうございます」


 ルールはさっぱり分からないが、丸い板をできるだけ多く集めればいいことは分かった。

 要目は立ち上がり、斎の元に寄る。そして斎の手から飲み物を受け取り、飲んだ。

 飲み干すと要目はグラスをじっと見つめる。斎は事実だけを言う。


「ぬるくなった」


 要目は斎からもう一つの飲み物も受け取って飲み干す。斎の分ではなかったらしい。


「……そうですか……もうこんなになりますか」


 突然要目はドレスを翻してこの場を離れる。斎もついて行こうとしたその時だった。


「これはなんだ!」


 大声が聞こえ、斎が振り返るとトランプの場にいたディーラーが斎を指さしていた。

 周囲の視線が斎の手袋に集中している。斎はゆっくり手袋を顔の前に持っていく。

 両手が桜色に染まっていた。気のせいか、少し匂う。


(さっきまで白い手袋だったはず)


 いつの間にか斎は頑強な男達に囲まれていた。群衆はその様子を見ようと集まり、ざわざわと騒ぎ出す。

 その時、周囲をかき分けて細い男がやってきた。頑強な男達が素早く避ける。

 細い男は制服姿の者達と同じような帽子をかぶっているが、胸にある飾りの多さで高い地位の人間だと推測できた。


「この騒ぎは?」


 細い男が訊くとさっきのディーラーが背筋を伸ばして言った。


「そこの男の手袋が突然変色したのです」

「イカサマか?」

「いえ、それは調べてみないと」

「とにかく、怪しいものには変わりない。別室に来てもらう」


 別室、と聞いた途端、ディーラーと男達、そして周囲の群衆に動揺が走る。


(何だ?)


 疑問に思ったがそれもつかの間、斎はじりじりと囲まれていた。逃げ場がない。

 頑強な男達の一人が斎を捕まえようと手を伸ばす。斎は両手を挙げてそれを制した。


「ついて行く。触れないでくれ」


 意外にも男達は大人しく引き下がった。多分触れば何か起こす異能力者だと察知したのだろう。

 斎は目だけで辺りを見渡す。さっきの騒ぎで要目を見失ってしまった。


「では、ついてきてください」 


 細い男は手際よく、斎を別室へ誘導する。周りを頑強な男達を囲まれながら有無を言わさずに斎は別室へと入れられた。


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