第204話 エピローグ②

「どうしたのよ?」


「ねえ、美衣子薬指を出して」


灯里が真剣な表情で、緊張しながら言っていた。


「薬指ってことは、もしかして」


灯里は小さく頷いてから、その場で跪きながら、美衣子の方を見上げた。


「ねえ、美衣子。わたしと結婚してほしいの」


「け、結婚!? そんな……」


「もちろん、嫌だったらいいわ。法的な結婚は難しいから、今と生活もあんまり変わらないかもしれないし。ただ、わたしは真剣に美衣子とずっと居られるように、美衣子と結婚したいの」


灯里の真剣な思いを聞いて、美衣子が微笑んだ。


そして、灯里のおでこにそっとキスをしてから、答える。


「拒否するわけないわ。灯里の思い、しっかりと受け止めさせてもらうわね」


「嬉しいわ、美衣子……」


灯里がゆっくりと美衣子の手を持った。ゆっくりと薬指に嵌まっていく指輪の感覚にドキドキしてくる。


(わたしは灯里の婚約者になれるのね……)


美衣子がホッとするように小さく息を吐いたら、灯里がもう一つの婚約指輪を手渡してくる。


「次は美衣子がわたしのを……」


灯里から手渡された指輪の重みが、しっかりと手のひらに伝わった。


今度は美衣子が椅子から降りてしゃがみ、同じ視線の高さから灯里の薬指に指輪を嵌めていく。細くて長い綺麗な薬指に、2人の愛の証がつけられる。


「あらためて、これからもよろしくね」


パートナーとして、これからは灯里と生きていけるのか、と美衣子は大きく息を吐いた。その直後、灯里の唇が美衣子に触れる。ほんの数秒の短いキスだったけれど、灯里からの愛が籠っているのはよくわかった。


「ねえ、美衣子。今度わたしのお店で予約して貸切でお祝いしましょうよ。透華の店舗でさせてもらいましょう」


灯里の経営しているポップな雰囲気のカフェの一つは、透華が店長に就任していた。大学を卒業してから一人でカフェを経営していた経験を活かして、トントン拍子で店長に昇格したらしい。


元々経営していたお店は透華の雰囲気と合わなくて畳んでしまったけれど、今の灯里の経営している可愛らしい雰囲気のカフェでは、透華店長の店舗はかなり売り上げが上がっているらしい。


SNSでプチバズしたこともあるお店で使っている可愛らしい制服は透華が自ら選んだものらしくて、昔やっていた渋い雰囲気とは全く違う、可愛らしい雰囲気のお店を作り上げていた。透華の作る可愛らしい世界は、たくさんの人に受け入れられているのだ。


「わたしはもちろん良いけど、透華さんは灯里の元カノだったわけだし、気を悪くしないかしら?」


「透華から聞いてるでしょ? あの子、わたしじゃなくて、わたしのパパが好きだったからっていう理由で、わたしを愛してたんだから。むしろ、透華の方から付き合って2年目の記念日にはうちを使ってよって連絡きてたのよ」


灯里が苦笑いをした。


「そうなの……?」


「そうよ。でも、美衣子が料理作ってくれるから断ったの。透華が寂しがってるから、むしろ行ってあげましょうよ」


「それなら、もちろんいいわよ。わたしも透華さんのお店気になってるし」


「茉那や美紗兎ちゃんも誘って、みんなでパーティーができたら良いわね」


うん、と美衣子も頷いた。随分と楽しそうな話が進んでいった。


「ま、今日はわたしたち2人で結婚を祝しましょうよ!」


灯里がいつもよりも明るい声を出した。


「ええ、もちろんよ。さ、食べてちょうだい。灯里のためにとびきり美味しい料理を作ったんだから!」


「あら美衣子の料理はいつもとっても美味しいわよ?」


「今日は特別美味しいのよ、空気読みなさいよね」


美衣子が大袈裟に頬を膨らませたら、灯里が美衣子の頬を軽く突きながら微笑んだ。


「わかったわよ。特別美味しい美衣子の料理味あわせてもらうわ」


「それでいいのよ。じゃあ、とりあえず、乾杯ってことで!」


ダイニングにグラスがぶつかる音が響いた。


たくさん回り道はしたけれど、もうこれからは回り道なんてしなくて済みそうだ。美衣子も灯里も、何があってもお互いのことを好きでいてしまうのだから。


どんなことがあっても、お互いのことを愛してしまうのだから。




〜それでもあなたが好きみたい 完結〜

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それでもあなたが好きみたい 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji

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