第192話 本当の気持ち④

何度もやったキスだけれど、再会してからは初めてのキス。唇越しに、学生時代の気持ちが一気に流れ込んでくるような気がした。


灯里の滑らかな素肌を抱きしめながらのキスは、柔らかくて溶けてしまいそうだった。鼻先を擦り合わせながらキスを続けていく。少ししてから、唇から唾液の糸を引きながらお互いの顔を離した。


「随分濡れてるのね」


美衣子は灯里の女性器の表面を触りながら微笑んだ。


「だ、だって美衣子が、美衣子が……」


そんな話をしている最中にもジワリと濡れていたから、ソッと美衣子が指を挿れた。灯里の口から、ヒャウッと聞いたことのない音が出てきた。暗い部屋でもわかるくらい、顔を真っ赤にしている。


もう一度、顔を近づけてキスをしながら、指は灯里の膣内をかき混ぜていた。再び唇を離したときに、指を抜いた。


「ねえっ、美衣子。これは夢なの? 現実なの? わたしまだ、熱にうなされていたりするのかしら?」


灯里が興奮した声で聞いてくる。


「夢だったら、せっかく勇気を振り絞ってあんたに告白したわたしの度胸が台無しになっちゃうから、現実が良いわね」


「こんな素晴らしい現実があるなんて、わたし、訳がわからないわ!」


灯里は泣きながら、美衣子の膣内をかき混ぜ返してくれた。今度は美衣子が、ヒャッと甲高い驚いた声を出す。灯里の指がわたしの中を撫でている。その事実と、現実の快楽により気分が昂まり、じんわりと愛液が出ていく。


「ねえ、灯里! わたしだって信じられないのよ!」


灯里が美衣子の膣内から指を出した。そして、お互いに見つめ合って微笑み合った。学生時代から数年の年月が経ったのに、お互いに、まだ未成年の頃みたいに純粋な気持ちに戻っているような気もした。


「美衣子、あなたは知っていると思うけれど、わたし、美衣子のことずっと好きだったのよ!」


「好きなら好きって言いなさいよ!」


美衣子がそう言うと、灯里が目を丸くして驚いていた。


「だってあれだけアピールし続けていたのよ? 普通気付くでしょ!」


「言ってくれないとわからないわ!」


「美衣子の鈍感!」


灯里が美衣子に抱きついて、そのままキスをしながら倒れ込んできた。美衣子の体がベッドに沈み、上から灯里が乗っかってくる。灯里は美衣子の体をギュッと捕まえるみたいにして、離そうとしなかった。


お互いに気持ちが落ち着くまで、時計の音とお互いの息遣いだけが聞こえる中、キスを続けていた。ほんのり寒かった部屋にいたのに、いつしか体が火照り、すっかり暖かくなっていた。


「ねえ、灯里。そろそろ服着ないと風邪ぶり返しちゃうわよ……」


すっかりキスに満足し合った頃合いを見計らって、美衣子が声をかけた。


「そうね……」


少し名残惜しそうにため息混じりに服を着る。


「良い思い出になったわ、本当にありがとう、美衣子」


お互いに服を着終えてから、灯里が美衣子の手をソッと包み込むようにして持った。


「良い思い出って……。なんでもう今後はしないみたいなこと言ってるのよ? ねえ、さっきわたしが灯里に告白したの覚えてる……? 返事まだ聞いてないんだけど」


時間差で冷静になってから答えを聞くのもなんだか変な感じもするけれど、どうしても気になってしまった。付き合えるにしても、振られるにしても、中途半端な状態が嫌だった。


「もう少し早ければよかったのに……」


灯里がボソッと呟いた。


「もう少し早ければってどういうことよ?」


美衣子が不安そうに尋ねると、灯里はベッドから立って自室の仕事用のデスクの方に向かっていった。そして、手のひらに収まってしまいそうな小さな箱を持って、ベッドに投げ捨てた。その後、きらりと光る何かも一緒に投げ捨てた。


「何よ、これ?」


美衣子が手に取った箱は明らかに高い指輪を入れるための箱。そして、もう一つ月の明かりを反射させながら転がっていった何かを手に取った。


「これって……。婚約指輪……?」


灯里が小さく頷いたら、美衣子が困惑する。


「な、何よ。結婚するんなら早く言ってよね。わたし一人で緊張してて、バカみたいじゃない」


乾いた笑いとともに、美衣子は自分の感情の逃し場所について考えていた。無理やり作り出した笑顔だったけれど、すでに瞳は潤んでしまっていた。


美衣子の反応を見ながら、灯里が困ったような声を出した。


「告白の答えだっけ……。わたしも美衣子のことは大好きで愛しているわ」


ジッと真剣な目で伝えられる。すでに婚約が決まっているのに、随分と真剣に美衣子に恋を打ち明けてきていた。


「でも、結婚するんでしょ……?」


美衣子の視界がぐるりと回った。灯里は何も言わずにジッと立って、ベッドに座ったままの美衣子のことを見下ろしていたかと思うと、ポタポタとベッドが濡れていった。灯里が静かに泣いていた。


「もっと早く言ってくれていたら、わたしは婚約なんてせずに、美衣子と一緒にどこにだっていったのに。南極でも、ジャングルでも、深海でも、宇宙でも、美衣子が一緒にいてくれるのなら、どこにでも行ったわ。でも、現実では、美衣子と離れてしまうのよ……」


「どういうことよ……」


「わたしは来月日本で挙式を挙げてから、年始にはフランスに住むために引っ越すのよ。来年からヨーロッパにも販売経路を作るために、フランスの支店で支店長に任命されているの。それで、このところ準備に追われていたの」


「待ってよ灯里。そんなこといっぱい言われても、わたしの心が追いつかないわよ……」


次から次へと聞きたくない事実が灯里の口から知らされていく。


「ごめんなさい、美衣子。明日も早いからわたしはそろそろ寝るわね」


灯里が涙が止まらない瞳のまま、美衣子の方を見て微笑んだ。仕方がないから美衣子が部屋から出て行こうとすると、灯里が付け加えた。


「おやすみなさい美衣子。たった一瞬でもあなたと両思いになれて嬉しかったわ……」


「おやすみなさい、灯里」と伝えた。灯里の方は見ずに、背中を向けたまま。

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