第183話 元カノ⑤

高校3年生のクリスマスの日は灯里に誘われてクリスマスに一緒に遊ぶことになった。高校2年生のときは喧嘩をしていたにも関わらず、しっかりとキスはしているし、毎年灯里とは刺激的なことをしていた。


高校1年生の秋から、2年以上ほとんど一緒にいたから、もはや灯里は美衣子の距離感に遠慮もなくなってきていた。高校1年生のときのクリスマスにはすでに隣に座っていたけれど、高校3年生になると、もはや灯里は普通に手を絡ませて横に座っていた。


「ねえ、普通に手繋がれても困るんだけど」


「別に良いでしょ? わたしたちの仲なんだし」


灯里が甘えた声を出してくる。


「わたしたちの仲ってただの友達じゃない」


、じゃないでしょ。親友よ!」


はいはい、と適当にあしらいながらも手は繋いだままにしておいた。別に何をするでもなかったけれど、最近受験勉強で気が滅入っているから、たまには何も考えずに灯里と一緒にぼんやりとしているのも良いのかもしれない。


そんなことを考えていると、灯里が美衣子の手を離してグッと背伸びをした。


「ねえ、美衣子ベッド借りてもいい? なんか眠くなってきちゃったわ」


「あんたねぇ……」


普段から、美衣子と2人だけのときにはマイペースな灯里だったけれど、その日はいつにも増してマイペースだった。


「まあ、勝手に使ったら良いけどさ……」


わざわざクリスマス会をして、人の家で寝ようとするなんて、ほんとに学校での真面目な姿からは想像できないマイペースさである。まあ、それだけ美衣子に気を許しているということなのかもしれないけれど。


さっさとベッドの上の、掛け布団の上にゴロリと寝転んでから、美衣子に声をかけた。


「ねえ、美衣子もお昼寝しましょうよ?」


「いや、そのベッド明らかに一人用だからあんたが使ったらもう誰も使えないわよ」


「わたし一人に眠れって言うの?」


「いや、眠いからベッド使いたいって言ったのはあんたなんだから、そんなこと言われても」


「美衣子の意地悪」


「いや、あのねぇ……」


呆れてため息をついたけれど、灯里がじとっとした目でこちらを見ていたから、結局美衣子も同じベッドで横になってしまった。


美衣子の方を見て横向きで寝転がっている灯里の視線に少し緊張しながら、美衣子は天井を見ていた。


「こんな狭いところで一緒に眠りたいなんて、やっぱり灯里は変わっているわね」


「そんなこと思うのは美衣子に対してだけよ」


「あんたの感性がわからないわ」


「美衣子が素敵だからよ。きっと他の子も仲良くなったら美衣子の魅力に気づいちゃうでしょうに、残念ながらわたし以外誰も気づけなかったのね」


高校2年生のときには茉那も美衣子と仲良くしていて、告白もしてきたのだけど、そのことは灯里の中では無かったことになっているのだろうか。美衣子もわざわざ指摘しようとは思わなかった。


「なんでも良いけど」


ぼんやりと天井を見つめていると、エアコンでほんのり温まった室内にいるというのも相まって、心地良くなってくる。このまま灯里と一緒に本当にお昼寝タイムにしてしまうのも悪くないかもしれない。


そんなことを考えながら、目を閉じた瞬間に、灯里の声がした。


「美衣子、寝ないで」


灯里がギュッと頬をつねってきた。


「寝ろって言ったのはあんたでしょ。もう、さっきから発言コロコロ変わりすぎよ。自由すぎて疲れるんだけど……」


美衣子が灯里の方に顔を向ける。


「あと、つねるのやめなさいよ!」


すぐ至近距離で灯里と目を合わせる。相変わらずの整った顔立ちには、ずっと一緒にいても中々慣れなかった。


「じゃあつねるのやめて、撫でるわね」


今度は灯里がゆっくりと頬に手を這わせてくる。妖しげな瞳で美衣子のことを見つめてくるから、なんだか変な気分になってしまう。


「な、撫でるのも禁止……」


「残念ね。まあ、いいわ。わたしがしたいのはそんなことじゃないから」


「これ以上何がしたいのよ……」


「美衣子の裸が見たいの」


その声があまりにも純粋で、しかもサラリと言われてしまったから、一瞬何を言われているのかはわからなかった。


「ごめん、聞き間違いかもしれないからもう一回言ってもらってもいいかしら……」


「ええ、何度でも言うわ。美衣子の裸が見たいの。クリスマスプレゼント、まだ貰ってないから」


「それはさすがに変態すぎるわよ……」


美衣子が困惑するけれど、灯里がじっと見つめてきていた。灯里が美衣子の頬を手のひらで抑えているから、目を逸らすこともできない。


「別に変な意味じゃないわよ。ただ、美衣子のこと大好きだから見せて欲しいだけ。隅々まで知りたいだけ。知的探究心」


「それっぽい言葉使っておいたら誤魔化せると思ってない?」


「思ってるわ。美衣子が騙されてくれないかなって思って」


「真剣な目でそんなふざけたこと言わないでよ……」


呆れつつも美衣子がそっと灯里の手のひらを退けて、座り直した。着ていた服を脱いでいく。灯里のバカみたいな言い訳を聞いて納得したわけではない。美衣子の方も気になったから、交換条件にしてみようと思っただけ。


「まさかと思うけど、わたしだけ脱がして自分は高貴な身分で見物するつもりじゃないでしょうね?」


すでに上半身はブラジャーだけになっていた美衣子が、横になっている灯里に視線を向ける。スラリとした灯里の肢体がどんな感じになっているのか、気にならないことはなかった。本当に芸術品みたいになっているのだろうか、それとも意外とだらしないのか、純粋に気になってしまった。


「わたしにも脱げってこと?」


「高みの見物しようとしてたわけじゃないでしょ?」


「美衣子の変態……」


今度は、灯里は頬を赤らめながら言うから、美衣子の方まではずかしくなってしまう。


「さ、先に言い出したのはあんたの方でしょ!」


「そうだけど……、まさか美衣子も脱がそうとしてくるとは思わなかったから……」


「わかったわよ、じゃあもうやめましょう。着るわ」


一度脱いだ服に手を触れる。


「待って、美衣子。わたしも脱ぐから」


灯里が慌てて座って自分で服を脱いでいく。美衣子がサッサと脱いでしまって、先に裸になって灯里を見ていた。さすがに下まで脱ぐつもりはないから、ズボンは履いたまま。


「ねえ、美衣子恥ずかしいわ」


灯里は上半身をブラジャーだけにして、頬を赤く染めている。全体的に痩身な灯里は胸も小ぶりだった。


(唯一わたしが灯里に勝てるところかも……!)


ちょっとだけ嬉しくなってしまった。完璧すぎる灯里にも弱点があったから。


もっとも、ウエストは灯里の完勝だったから、総合的なスタイルは灯里の方が余裕で良いのだけれど。


「わたし一人脱ぐなんて不公平だから、さっさと灯里もブラ取ってよ」


「もう着ても良いわ」


「今更遅いから!」


灯里が美衣子に背中を向けた。


「じゃあ脱がせて」


「いや、自分で脱ぎなさいよ……」


「自分では脱がないわ」


美衣子がため息をついて、仕方なく灯里のブラジャーのホックを外した。


「さ、脱がせたからこっちむきなさいよ」


灯里が小さく頷いてから美衣子に向き直した。お互いに上半身の全てを曝け出して向かい合うのはなんとなく新鮮だった。


「すごいわね。肌綺麗」


美衣子が灯里の脇腹をそっと触る。ヒャッ、と普段出さないよな高い声が灯里の口から出た。滑らかな肌触りがとても心地よかった。


感心していると、今度は灯里の方が美衣子のお腹をさすってくる。くすぐったいし、最近ちょっとお肉がついてきているから恥ずかしい。


「ちょっと!」


「お返しよ」


灯里がクスッと笑った。


「あんたね」


美衣子が灯里の胸の突起を引っ張った。灯里の喉から、んっ、と甘い声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと、それは反則よ。ダメよ美衣子!」


「こっちもお返ししただけだけど?」


「じゃあ、わたしもお返しするわ」


灯里がそっと美衣子の胸に顔を近づけてきたかと思うと、そのまま前歯でソッと美衣子の乳首を咥えたのだ。全身にゾクっとした感覚が走り、脈が速くなる。


「ちょ、ちょっとそれはさすがにダメだって……!」


慌てて灯里の頬を両手で挟んで、美衣子の体から離した。


「もう着ましょう。さっさと服着ましょう!」


「そ、そうね……」


これ以上続けると、灯里相手に友達以上の感情を持ってしまいそうだった。そうなったら、きっと灯里はドン引きして、美衣子との友達をやめてしまうんじゃないかって思ってしまった。


だから、今日はこれで終わり。灯里の方も珍しくしおらしくなってしまっているし、とても気まずい。


「そ、そろそろ受験勉強もあるし、もう今日は解散しましょう」


美衣子が提案すると、灯里もあっさり頷いた。普段ならもう少し一緒にいたいとか言い出しそうなものなのに。


当然、その日は勉強は当然手につかなかった。灯里の綺麗な肌の感触がしばらく残ったままになっていて、ペンは持てなかった。

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