第167話 同じ想い③
アトラクションは一人で回らず、ほとんどの時間を適当に人気の少ない目立たない場所でスマホを触って過ごしていた。お昼も一人で食べて時間を潰す。
「クソ真面目に校外学習なんて参加するんじゃなかったわ」
周りに誰もいなかったから、苛立った声で一人ごとを言う。
学校をズル休みするという発想もできず、つい来てしまったけど、校内の子はもちろん、プライベートで来ているカップルや家族連れも、みんなワイワイ楽しそうにしているから、一人でベンチに座っている美衣子の存在は浮いてしまっていた。
もちろん、他のクラスの子たちにも普段クラスに馴染めていなさそうな子はいたけれど、そういう子たちは静かにグループ内にくっついて移動しているから一応今日は一人ではないらしい。一人なのは美衣子だけみたいだ。
小さくため息をつきながら、スマホの時計をチラリと見ると、すでに解散の時間まで1時間を切っている事がわかった。
「よかったわ。やっともうすぐ帰れる」
ほっと一息落ち着いたところで、スマホが大きな音を立てた。
「電話?」
番号の羅列だけが画面に写ってたから、一瞬誰かわからなかったけど、すぐに納得した。
「楪か……」
美衣子は頭を抱えた。着拒しておけばよかったと悔やみつつも、一応電話には出た。
「何? もう残り1時間もないから、そろそろみんなと合流しようってこと? そういう話なら嫌よ。もっと10分前くらいのギリギリまで戻らないからね」
「ううん、違うわ。みんなとの合流じゃない。わたし一人だけ。わたしが個人的にあなたに用事があるのよ」
「意味わからないんだけど……」
「わたし一人で行くから、今どこにいるのか、場所教えてよ」
「めんどくさ」とはっきり口にしながら、観覧車の近くだと伝えておいた。
教える必要もなかったのかもしれないけれど、正直少し退屈だったから、取り巻きなしで楪一人だけなら、来られてもまだマシかと思った。
そろそろ本気で迷惑だということを、きちんと面と向かって言う為の良い機会にもなりそうだし。どうやって楪に今後絡んで来ないようにと文句を言おうか、考えていたら楪はやってきた。
長い髪を優雅に風で靡かせながら、こちらにやってくる姿は、まだ顔が見えない距離でも楪だとわかった。姿勢良く歩いてきた楪は、ベンチに座っていた美衣子を見下ろした。
「鵜坂さんはお土産もう買ったの?」
「買わない」
そう、と興味なさげに相槌を打ってから、楪が続けた。
「この観覧車、一周15分ほどかかるから、お土産コーナー多分寄れないけど、大丈夫ね?」
別に本当に大丈夫だから良いけれど、仮にお土産コーナーに寄りたいと思っていても、そう答えさせてくれないような、有無を言わせないような言い方だった。
普段の和やかな声色とは違って、威圧的で少しだけ怖かった。
「お土産コーナーに寄れないのは大丈夫だけど、観覧車に乗るのは大丈夫じゃないわよ」
何が悲しくて楪と一緒に観覧車に乗らなければならないのだろうか。そう思ってベンチから動こうとしなかったのに、楪は美衣子の手を引っ張って、無理やり立ち上がらせた。好意的な相手をエスコートするような優しい手の引き方ではなく、雑で力のこもった、重い荷物を動かすときのような力のかけ方だった。
「乗るわよ」
「乗らない!」
「乗ってくれたらもうあなたに付き纏わないわ」
「さっきの電話みたいに嘘つくんでしょ?」
「つかない。本気」
短く伝えてきた楪の表情が普段と違って真面目だったから一応信じておいてあげた。
それに、美衣子もせっかくテーマパークに来て何のアトラクションも乗らないのは嫌だったし。楪がどうしても乗りたいと言うのなら、一人でアトラクションに乗りたくなかった美衣子にとっても好都合かもしれない。
黙って楪について行って乗車の手筈を整える。
「けど、あんたと2人で観覧車に乗らないといけないって何の罰ゲームよ?」
いつもの調子で美衣子が不快感を示しながら先に乗る。きっと楪はいつものように無難な微笑みを浮かべて、「わたしは鵜坂さんと乗るの楽しみだわ〜」なんて無難なことを言うのだろうと思った。
だけど、予想に反して楪は小さく舌打ちをして、美衣子のことを睨みつけながら乗ってくる。その目つきがとても怖くて、美衣子は思わず体をのけぞらせて、頭を軽くガラスにぶつけてしまった。
「それはこっちのセリフでしょ? なんでわたしがせっかく仲良くしてあげようとしてるのに、あんたはまったく協力してくれないわけ?」
楪の返答とほとんど同時に観覧車の扉が閉められた。
楪は露骨に嫌悪感を表した対応をしてきた。明らかに言葉の内容も、言い方も、表情も、普段美衣子に対しているものとは違い、刺々しく、攻撃的だった。
そんな攻撃的で、何を考えているのかわからない状態の楪と、これから密室で15分も一緒にいなければならないらしい。
美衣子はもう一度、今度は心の中で、何の罰ゲームよ、と苛立った感情を溢れさせていた。
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