第144話 温もり①
春が来て、梨咲と会う頻度は一気に減ってしまった。それでもなお、茉那が彼氏をコロコロ変える癖は変わらなかった。
そして、春になるとあの子がやってくる。
「茉那さん、会いたかったです!」
目の前の無邪気な笑顔を見て、泣きそうなくらいホッとしてしまう。
入学式の前日に引っ越してきた美紗兎が駆け寄ってくる姿に嬉しい感情はもちろんあった。それとともに、不安の感情もある。恋を重ねた結果、美紗兎のことがより恋しくなっていった。
それでも、無理やりよそよそしく振る舞う。
「ごめんね、今日は彼氏に会うからあんまり長居できないんだ」
明らかに寂しそうにしていた美紗兎から目を逸らす。心の中で、何度もごめんね、と謝った。本当はすぐにでも抱きしめてあげたかったのに。
そんな態度を取っているくせに、彼氏がいない時には拠り所がなくなってしまい、美紗兎をつい頼ってしまう。メンタルがどんどんぐちゃぐちゃになっていくのは自分でも感じていたら。
美紗兎と一緒にいたい。その思いが強くなって溺れてしまいそうになる。それでも、美紗兎を愛することが怖くて、無理やり彼氏を作ってしまう。
崩れて崩れて、どうしようか分からなくなってきた頃に、少しいつもとは違うタイプの新しい彼氏ができた。今までどこか性格が歪んでいた人ばかりだったけど、今度の人は爽やかな好青年だった。
「ほんとに良いの? 俺、今まで彼女とかできてなかったから月原さんみたいな優しい人と付き合えるの嬉しい」
純粋な感情をぶつけてきてくれる彼のことは、茉那は初めて男の人で好きになったかもしれない。
今まで茉那のことを褒められる時は大抵性格ではなくルックスだったから、そこも嬉しかった。この人はちゃんと茉那の中身を見てくれている。
美紗兎に比べたらずっと魅力は無いけれど、それでも素敵なことには変わらなかった。今まで付き合ってきた男の人の中では、圧倒的に魅力的だった。
「ナー子、良かったね」
梨咲が心の底から祝福をしてくれてるのがわかった。この頃会う機会が激減しているけれど、それでも梨咲が優しいのはよくわかる。
「あたし、心配だったんだ。ナー子は男運悪いからこのままずっと悪い男の人とばっかり付き合っていくのだと思ってたから」
「わたしって男運無かったんですかね……」
「自覚なかったの!?」
梨咲の反応を見て、茉那は苦笑いをした。今までの男運がどうかはわからないけれど、少なくとも今は茉那は満たされていた。
「あたしも今の彼氏とは結構歴長くなってきてるから、お互いやっと安定してきたってことなのかな」
「長いって言ってもまだ2ヶ月くらいですよね?」
「大事なのは時間じゃないよ、どれくらい心が通じ合ってるか!」
「意味わかりません……、って言いたいですけど、今ならちょっとだけわかるかもしれません」
茉那が微笑んだ。
そして、気持ちが安定してくると、美紗兎との関係も落ち着いたものになってくる。きちんと美紗兎以外に好きな人を作ることがこんなも気楽な感情をもたらすとは思わなかった。
今まで邪険にしてしまっていた分まで、美紗兎には優しくしてあげようと、茉那は心に決めた。
だから、たくさん遊びに誘った。カフェに行ったり、都内の美味しいパンケーキ屋さんに行ったり、一緒に期末試験の勉強をしたり、たくさん一緒にいる時間を増やした。
茉那自身も、全部の講義は無理でも、人の少ない講義なら出席できるようにもなってきたし、少しずつ昔のような平穏な日々を取り戻しつつあった。これでようやく落ち着いた生活ができるのかと安堵した。
もっとも、そんなぬるい生活は幻想に過ぎなかったのだと、もうすぐ知ることになるのだけれど……。
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