第136話 恋とクラッシャーと恋②
冬休みが近づいてきたその日も茉那は梨咲の家に入り浸っていた。
「5限の講義、小テストあるからキャンパス行くけど、ナー子どうする? うちで待っとく?」
「お昼寝してても良いですか?」
いつしか茉那と梨咲は遠慮がいらない仲になっていた。
「いいよ。お菓子はキッチンラックのとこに入ってるから、適当に食べといて」
「はーい」
梨咲が慌ただしく部屋から出ていった。秋以降、結局茉那はほとんど大学には行けていなかった。
「単位大丈夫かな……」
外で揺れている木をぼんやりと眺めながら呟いた。
梨咲が過去問はくれると言ってくれているから、期末テストだけで成績を決める科目ならなんとか単位が取れるだろうけど、出席点のある科目は単位の取得はきっと絶望的。
「まあ、いっか」
ため息をつきながら、梨咲の部屋に置いてあるビーズクッションに体を預けた。自分の部屋で講義をサボって眠っていると、もう元の生活に戻れなくなってしまう気がしてしまう。だから、梨咲の部屋に入り浸る。
幸い、梨咲は茉那が家にやってくることを喜んで受け入れてくれた。その優しさに存分に甘えさせてもらう。
(ありがとうございます、梨咲さん)
すやすやと窓から入ってくる柔らかい日差しを浴びながら眠る。心地の良い温もりは、茉那のことを深い眠りへと誘っていた。
幾らかの時間が経過して、頬をむにゅりと引っ張られる感覚で目が覚めた。梨咲が頬をつまんでいた。
「ナー子、ご飯できたよ。今日は鍋にしよっか」
「え? あれ……?」
慌てて体を起こして、梨咲の部屋の置き時計を確認する。
「もう夜の9時前!?」
ちょっとだけ眠るつもりだったのに、ぐっすり眠っていたらしい。いつの間にか梨咲が掛け布団も用意していてくれたみたいだし、晩御飯も作ってもらって、至れり尽くせりだった。
「さすがに晩御飯まで食べさせてもらうのは悪い気がします」
「人の家で爆睡していた人がいまさら遠慮しないでよね」
梨咲が苦笑する。
「それに、もう2人分用意しちゃってるんだから、食べていってよね」
「梨咲さんなんだかお母さんみたいですね」
「そんなこと初めて言われたな」
梨咲は苦笑して真っ赤なマニキュアを塗った長い爪を見せながら、手を茉那の方に差し出す。
「さ、起き上がって。キッチンからお皿運ぶの手伝って」
はぁい、と茉那が間伸びをした返事をしながら一緒にキッチンへと向かった。そうして、お皿にポン酢を注いでお鍋を突き合う。梨咲はいつものように缶チューハイを開けている。
「ナー子は飲まないんだよね」
「……今日はちょっとだけもらっても良いですか?」
「珍しいね」
「梨咲さんから悪い影響受けちゃったみたいです」
「よく言うよ」
茉那がクスッと笑って、梨咲からグラスを受け取った。てっきり梨咲のことだから1缶分渡してくれるのかと思ったけれど、そんなことはなかった。
「まずはちょっと試してみてからね。アルコールに弱かったら大変だから」
「なんだか優等生みたい。梨咲さんらしくないですね」
「あのねえ……」
梨咲が苦笑する。
「わたしだって高校時代はナー子みたいに真面目だったんだからね」
「へえ、なんだか意外ですね」
「心外だなあ」
梨咲がわざと大きく頬を膨らませて答えてから、真面目な顔をした。
「真面目すぎると、道を外した時の反動が大きいから、正直ナー子のことちょっと心配してる……」
「わたしは梨咲さんみたいに派手な髪の毛にしませんもん」
「そう言う問題じゃないよ」
梨咲が立ち上がって、茉那の横に座る。
「梨咲さん、席替えですか? わたし、そっちにいくんですか?」
茉那が立ちあがろうとしたけれど、梨咲が両手をぎゅっと握ってきたから、その場から動けなくなった。
「ねえ、ナー子、あたしにしなよ……」
「へ? 何がですか?」
「無理して彼氏なんて作らずに、あたしを恋人にしてよ」
「え? ……え?」
梨咲の言葉をすんなりとは飲み込めなかった。
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