第129話 女子会っぽい何か①

「すごいよ! ナー子!」


ヘアサロンに寄った帰り、雰囲気を変えた茉那の姿を見ながら梨咲がはしゃいでくれるから、茉那も嬉しくなった。


短くなった前髪にはまだ慣れず、少し恥ずかしくなってしまう。メガネもやめて、コンタクトにしたから鏡を見た時に、別人が写っているように見えてビックリしてしまった。


さらに、梨咲に可愛らしくメイクも施してもらった。高校時代に美衣子がしてくれたナチュラルメイクとは違い、今回ははっきりと、見た目を変えるためのメイク。


すっかり別人になってしまった自分のことを知り合いが見てもきっと気がつかないだろう。


そう思うと、寂しい気もちもあるけれど、今度こそ自分を変えるためにはこの格好の方がいいのかもしれない。それに、美紗兎と会わないようにするためには、思いっきり雰囲気を変えてしまうくらいがちょうど良いのかもしれないし。


「梨咲さん、ありがとうございます」


「ううん、むしろこっちこそありがとう。ナー子の可愛い姿超眼福だよ!」


心底嬉しそうに言ってくれる梨咲の優しさが嬉しかった。梨咲につられて微笑んでいると、梨咲が急にパンっと手を叩いた。


「そういえばさ、あたしこの後同じゼミの子たちと一緒に宅飲み会するんだけど、ナー子も行かない?」


「ゼミの飲み会だったら、無関係のわたしがいったらマズくないですか……?」


「そんなの気にしなくてもいいよ、人多い方が楽しいし、めっちゃ参加してほしいよ。可愛いナー子のこと見せびらかせたいし!」


「わたし、可愛くないですし、あんまりおしゃべり上手じゃないですから、一緒にいてもつまらないですよ……」


「ナー子が可愛くないとか言ったら、あたしはどうなるのって話だよ。それに、一緒にいてつまらないなんて言わないでよ。あたしナー子といて超楽しいよ! だから、いいでしょ?」


梨咲が一生懸命頼み込むから、結局茉那は梨咲と一緒にゼミの宅飲み会に行くことにした。


「わたし、ほんとうに喋るの苦手ですからね……」


もう一度念押しをしたけれど、梨咲は「平気だって!」と呑気に笑っていた。


そんなわけで、梨咲の家で行われる宅飲み会へと参加する。茉那と、梨咲の友達2人との合計4人で宅飲み会をするみたいだった。


やってきた2人は、1人が黒いカラコンをつけて目を大きくしているブロンズ色の髪に染めている子で、もう一人が薬指に指輪をつけている、ガーリーな服を身に纏っている子だった。梨咲と同じように派手な見た目だったから、緊張してしまう。


「誰、その子?」


「お、初顔だねー。新入生かな?」


梨咲の家で先に待っていた茉那の方を指差して、後からきた子たちが尋ねてきた。茉那はどう答えようかと悩んだけど、梨咲がノータイムで返答してくれる。


「ナー子。あたしの友達だよ」


ふうん、と言ってそっけなく席についた子のことを見て、やっぱり茉那は来るべきではなかったのではないだろうかと不安になった。


「あんた、1回生? 梨咲といつ会ったの?」


スマホを触りながら、その子がどうでもよさそうに尋ねた。


「えっと、新歓祭の日に会いましたけど……」


「へぇ、そうなんだ。梨咲は誰とでも寝るから、変な影響受けないように気をつけなよ」


「人聞き悪いこと言わないでよ。ちゃんと気になった人としか寝てないからね」


「あんたの気になる人の基準ユルユルじゃないのよ」


「だって、寂しいじゃん。好きな人のこと抱きしめてたらあったかいでしょ?」


あのねぇ、と梨咲の友達がため息をついたけど、茉那は小さな声で呟いた。


「わかります。わたしも好きな人のこと抱きしめてたらあったかくなります……」


「ほら、ナー子もわかるって言ってるよー」


「それ、梨咲の悪い影響受けちゃってるんじゃないの?」


「違うよー。あたし、ナー子に影響与えられるほど強い生き方してないもん」


「梨咲みたいに堕落しきっちゃってる方がみんなに与える影響は大きそうだけどね」


「言い方ひどくなぁい?」


梨咲が、友達の肩のあたりを軽く叩いた。


「てか、まさかと思うけどナー子ちゃんも梨咲みたいに取っ替え引っ替えしてるわけじゃないでしょうね?」


梨咲の友達が不安そうに尋ねてくる。取っ替え引っ替えが何をさしているのかわからなかった。梨咲と一緒ということは、そんなにネガティブなことではないのだろうけど。


答えに困っていると、茉那が答える前に、梨咲が否定した。


「大丈夫、ナー子は超一途だから。そんなことしないよ。それに、ナー子はとっても真面目だから」


美紗兎への愛情の傍らで、美衣子に告白をしてしまった過去があるから、真面目とか、一途とか、そういうことを言われると少し罪悪感がある。


けれど、せっかく梨咲が茉那のことを良く言ってくれているから、否定するのも悪い気がして、何も言えなかった。


「真面目なら、なおのこと梨咲みたいになっちゃダメだからね」


梨咲の友達が、呆れたように言ったから、茉那は苦笑した。


「ねえねえ、ナー子ちゃん、一途って言ってたけど、ずっと同じ人と付き合ってるってこと?」


指輪をつけた方の梨咲の友達が優しい笑みを浮かべて聞いてくる。


「付き合ってないです。片思いっていうか……」


厳密には、しっかりと告白されたのを断ってしまったのだから、片思いとも違うような気がする。両思いだけど、美紗兎の愛を受け入れることができずに逃げ続けている、ややこしい関係。


「へえ、ナー子ちゃんみたいな可愛い子でも成就しない恋愛ってあるんだね」


「本当の妹みたいに可愛らしい子だから、今の関係を変えることが怖くて……」


少し照れくさそうに茉那が言う。


好きな子が女の子であることをそのまま伝えても、この間の梨咲のときみたいに優しい反応が返ってくると思ったのに、そうはならなかった。

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