第126話 大学入学と新しい出会い①
「ごめんね、みーちゃん。わたし東京の大学に行くことにしたんだ」
高校3年生の秋の終わり頃、茉那は美紗兎に打ち明けた。
「謝らないでくださいよ。茉那さんは頭いいですから、賢いとこいくべきですもん」
美紗兎は笑ったけど、その表情はとっても寂しそうだった。その表情を見て、茉那は胃を締め付けられるような気分になった。
もちろん、本当に進学の意思だけならそこまでの罪悪感はないのかもしれない。
だけど、ほんの少し下のランクだけど実家から近い大学もあるのに、そっちを選ばなかったのは、美紗兎と離れたかったからだった。
仲良くなればなるほど、愛せば愛すほど、別れは辛くなる。
だから、美紗兎のことがこれ以上可愛くて仕方がなくなってしまう前に、どこかに去ってしまいたかった。これ以上、好きになるわけにはいかなかった。
そんな自分勝手な理由の茉那を、優しさと寂しさを合わせたような微笑みで受け入れてくれる美紗兎を裏切るみたいで申し訳なかった。
上京する日の駅のホームで美紗兎と抱きしめあった。美紗兎とはもう会わないかもしれないと思うと涙が止まらなかった。そんな茉那のことを美紗兎は優しく見送ってくれた。
大学に入学してすぐにあった新歓祭の日は、みんなだいたいは友達と一緒に来ていたけれど、当然茉那に友達なんて存在はなかった。当然一人で回っていく。美衣子も美紗兎もいない大学で、茉那は静かに歩いていた。
(ダメだな、やっぱりこんな派手なところはわたしには合わないや……)
大学からは気分を変えてサークルに入ろうと思ったけど、とてもじゃないけど、こんな派手な空気はあわなかった。
結局、大学生になってもまた一人。カフェテリアの端っこで茉那はため息をついた。外の熱気と比べたら、随分と静かで過ごしやすかった。高校の時と同じ、おさげ髪で厚いレンズの眼鏡をかけた地味な少女は、すっかり背景と化していた。
「ねえ」
目の前に人がやってきて、声を出したから、茉那は慌てて姿勢を正した。机に体がぶつかって、コーヒーが揺れて少しこぼれてしまった。茉那に声をかけてきたのかわからず、キョロキョロと周りを見回した。
だけど、周りには誰も人がいなかったから、やっぱり茉那に声をかけたようだった。おそるおそる顔を上げると、男子学生が2人立っていた。どこにでもいそうな、特徴のない人たちだった。
「新入生だよね?」
尋ねられたから、茉那はおそるおそる頷いた。
「大学ぼっちだったら大変っしょ?」
ストレートに言われたけど、とくに傷つくこともなく茉那は頷いた。
「暇だったらどっか行こうよ。お昼ご飯でも食べに行きながら、大学のこといろいろ教えるからさ」
「ありがとうございます……」
一人ぼっちで困っていたから、優しい人たちだなと思ってついていくことにした。
立ち上がって、一緒に学外に出ようとした。
「ねえ、何してんの?」
また別の声がした。怒ったような口調がする。
今度はしっかりとした、力強い女性の声。後ろを振り向いたら、ふんわり巻かれたセミロングの髪の毛をした、気の強そうな女性が立っていた。髪色は薄いピンク色で、なんだかおしゃれな印象の人だった。
また茉那に何か言われたのかと思い、あたふたとしてしまう。
「えっと、今からちょっと外で……」
困惑している茉那の方にツカツカと歩いてきた女性は、そっと茉那の頬を触って、じっと近くで見つめてくる。
「え……、あの……」
そして、ため息をついてから、茉那と一緒にいた男性の方を睨む。
「まったく、なにも知らなさそうな子騙して……」
「騙す?」
「行くよ」
訳のわからない茉那の手を突然女性が引っ張っていく。先ほど声をかけてきた男の人たちは、そそくさと逃げるようにしてその場を去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます