幕間 幼少期の2人〜納涼会の夜〜
納涼会の日の夜は、参加していたみんなでお泊まり会をした。部屋は大部屋で、8人程で同じ部屋に泊まっていた。
隣の布団で眠るはずだった美紗兎は、当然のように茉那の布団に潜り込んでくる。
「みーちゃんのお布団あっちだよ……」
指を差したけど、美紗兎は茉那のお腹のあたりににギュッとしがみついている。いつもの茉那の家でのお泊まり会みたいに、一緒に眠るつもりみたいだった。もちろん美紗兎と一緒に眠るのは嫌ではないのだけれど、みんなの前では少し恥ずかしかった。
そんな風に2人で同じ布団に入っていると、6年生の子たちが話している会話が耳に入ってくる。
「そういえば、佐藤先生結婚したんだってね」
「えー、おめでたいねー」
「わたしは結婚するなら優しくてカッコいい人がいいかなー」
「今カレさんみたいな?」
「そう。このまま結婚したいよー」
そんな話題が聞こえていた。とくに気にもしていなかったのに、美紗兎が布団の中で声を出した。
「みさとはまなちゃんと結婚する!」
「み、みーちゃん、いきなり何言ってるの?」
茉那が小さな声で布団の中に顔を突っ込んで、美紗兎に言う。誰にも聞かれてなかったらいいのだけど、と思ったけど、残念ながら、部屋のみんなが聞いていたみたいだった。
「美紗兎ちゃん、女の子同士だと結婚できないんだよ」
6年生の子が少し意地悪気に言う。
「そんなことないもんっ! みさとはまなちゃんと結婚するんだよっ」
美紗兎の声が震えていて、今にも泣き出しそうになっていたから、茉那が思わず答えてしまった。
「そうだよ。わたしはみーちゃんと結婚するんだよ」
そのまま、そっと布団の中にいる美紗兎の髪を撫でた。やっぱりふんわりとしていて気持ちが良かった。
「……まなちゃん、ありがと」と布団の中で、小さな声で美紗兎が言っていた。今度は他の誰にも聞こえないくらい小さな声で。
周りの子たちは、もうすっかり美紗兎たちから興味はなくなっていて、別の話題で盛り上がっていた。
美紗兎を守るために、結婚するとは言ったけれど、家族同然の美紗兎とは、結婚どころか恋愛関係にもならないだろう。美紗兎は、茉那にとって恋人よりも大事な人だから。
「ずっと一緒にいようね、みーちゃん」
そっと髪の毛を撫でながら呟いた頃には、もう美紗兎は気持ち良さそうに眠ってしまっていたのだった。
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