第108話 束の間の平穏①
カフェで茉那と一緒にケーキセットを食べたり、梨咲と会ったりした日からも、茉那との日々はとても落ち着いていた。入学してから暫くの間いろいろと茉那の変化に驚かされたけど、この頃はそんなこともほとんどない。
そして、今は茉那の部屋で向き合って講義のレジュメを広げて、近づく期末テストに向けて勉強をしていた。
このところ、茉那は美紗兎と一緒に会ってくれている時間が増えたから、きっと今は恋人がいないのだと思う。
「ずっと難しい本読んでたら眠たくならない? 勉強してて眠たくなったら、わたしのことは気にせず寝てもいいからね」
「いえ、大丈夫です」
5限が終わった後に外でご飯を食べた後に茉那の家に集まった。勉強を始めてから数時間が経っているけれど、まだ寝るにはとても早い時間だった。そもそも目の前に茉那がいて緊張してしまい、眠くなんてならなかった。
「みーちゃんは頑張り屋さんだね」
茉那が微笑みながら腕を伸ばして、正面に座る美紗兎の頭をそっと撫でた後、テーブルの真ん中に置いていたチョコレートの箱の中から一つ取り出して、口に放り込んだ。
「過去問本当に前日まで渡さなくていいの? 早く渡したほうが楽できると思うけど」
茉那が、美紗兎の蛍光ペンを持っていない方の手の甲の上にチョコレートをおきながら尋ねる。
「ある程度は自力で答えられるようにしておかないと、当日急に違う問題が出たりしたら困りますし」
そっか、と茉那が頷いた。今日の茉那は、美紗兎のことをとても優しく、丁寧に扱ってくれていた。
だけど、この間の梨咲といたときのような打ち解けたような雰囲気では接してくれなかった。
(きっと梨咲さんと一緒にいる時の方が、茉那さんは楽しいんだろうなぁ……)
そう思うと、なんだか申し訳なくなってしまう。そんな美紗兎のことを、茉那が頬杖をついて見つめていた。専門書から視線を上げると、優しい笑みを浮かべる茉那と視線が会う。
期末テストに向けての勉強会ということで2人で集まったけど、緊張してしまって勉強どころではなかった。
家に帰ってからの茉那の格好はキャミソール1枚だけになっていて、すっかり無防備になっていた。幼馴染とはいえ、片思い中の子にそんな格好をされると、やっぱり意識してしまう。
「みーちゃん、お疲れかな?」
ぼんやりとしていた美紗兎のことを茉那が心配そうに見つめる。
「いえ、まだまだ元気ですよ」
「無理しちゃダメだよ。コンビニでアイスでも買ってくるからちょっと休憩しよ」
茉那が立ち上がり、そのままの格好で外に行こうとする。
「えっ、ちょっと茉那さん! その格好で行くんですか?」
「そのつもりだけど……、どうかしたの?」
平然と言ってるけど、そんな露出の多い格好で夜間に外出するのは、今の不用心な茉那には良くないと思う。美紗兎は心配になってしまっていた。
「わたしが行きますから、茉那さんはじっとしてて下さい」
「いいよ、みーちゃんはお勉強の続きしておいてよ」
「ちょっとくらい息抜きしたいんで!」
とにかく茉那を部屋から出さないために、逃げるようにして美紗兎が外に出た。
のんびりと茉那のことを考えながら歩く。
高校時代までの茉那は派手な格好とは無縁な子だった。元々派手目な子だったり、明るい子だったら夏に露出の多い格好をすることも不思議ではないし、特に心配もしない。
けれど、長年仲良くしてきた茉那は明らかにそういうタイプの子とは違った。だから、美紗兎は未だに今の茉那の姿には慣れなかった。
(茉那さん変わっちゃったけど、今の茉那さんは自信に満ち溢れてそうだし、このほうがいいのかな……)
すっかり変化してしまった茉那の姿に寂しくはあるけれど、やっぱりこれはこれでいいのかも。
少なくとも、中学時代に美紗兎が見捨ててしまった寂しそうな茉那よりもは、今の余裕のある姿の方がいいのかもしれない……。
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