第88話 茉那の誕生日①

「美衣子さん、今日は一緒に来てくれてありがとうございます」


雑貨屋の店内で美紗兎にお礼を言われて、美衣子がゆっくりと首を横に振った。


「こっちこそ誘ってもらえてよかったわ。今日が茉那の誕生日だったなんて知らなかったもの」


今朝、美紗兎から茉那の誕生日プレゼントを買いに行きませんか、と声をかけられたのだ。茉那の誕生日を知らなかったから、声をかけてもらえて助かった。


美紗兎に案内されて、かわいい小物類が売っているような雑貨屋に入ったけど、お金持ちの茉那への誕生日プレゼントがお手軽な値段の商品ばかりの雑貨屋で大丈夫なのだろうかという不安はある。


まあ、今の美衣子は貯金もほとんどなくて高価なものを買うのは難しいから、雑貨屋くらいの方がありがたいといえばありがたいのだけど。


「あんまり高いものだと茉那さん遠慮しちゃいそうですから」


美衣子の不安を解消してくれるみたいに美紗兎が言う。なるほどね、と美衣子は納得した。


とりあえず、美紗兎と一緒に店内を見回していく。動物系の小物が多い。いろいろ可愛らしいものが多くて目移りしてしまうなと思って見ていると、ウサギの前髪クリップが目に止まった。


「あ、これ……」


この前髪クリップには、美衣子はしっかりと見覚えがあった。


「わたしも持ってるやつだわ。高校時代に茉那からクリスマスプレゼントにもらったやつ!」


美衣子の言葉を聞いて、美紗兎が微笑んだ。


「茉那さん、昔から大切な人に買うプレゼントはここで買ってましたから、美衣子さんのこと大切に思ってたんでしょうね。わたしもよくここでウサギのキャラクターの雑貨買ってもらいましたよ」


「わたしにも美紗兎ちゃんにもウサギの小物を買ってあげてるってことは、茉那はウサギが好きなのかしらね」


なんとなく聞いたのに、美紗兎は深刻そうな顔をする。


「ウサギは茉那さんのことが好きですけど、茉那さんがどうかはわからないです」


「茉那がウサギを好きなんじゃなくて?」


違和感だらけの言い回しが気になってしまう。


「茉那さんはきっとウサギが特別に好きなわけじゃないと思うんです。ただそこにウサギがあったから、手に取っただけなんじゃないですかね……。きっとそこにあったのが猫でも犬でも手に取れたらよかったのに、近くにいたのがウサギだったから、ウサギを選んだんですよ、きっと……」


「えっと……。今はウサギの小物の話をしているってことで良いのよね……? 茉那が適当にプレゼントを選んだ結果ウサギをくれたってこと?」


「まさか。茉那さんはいつでも一生懸命選んでくれてますよ。ウサギをとっても可愛がってくれてますし」


なるほどね、と頷いたけど、正直何を言っているのかよくわからなかった。なんだか美紗兎が寂しそうに微笑んでいるけれど、その感情の理由もよくわからなかった。


突然ウサギのポエムみたいなのを語り出したし、もしかして不思議ちゃんなのだろうか。


「このお店によく来るんだったら、ここでプレゼント買ったら茉那がもう持っているものと被っちゃうんじゃないの?」


「大丈夫ですよ、茉那さんはこのウサギのキャラクターのグッズが好きですから、それ以外を選んだら被りません」


今度は茉那がウサギのキャラクターが好きと言い出したし、言っていることがさっきと変わっている気がする。言葉の矛盾が気になってはいたけれど、それよりも美紗兎が持っているウサギのキャラクターが描かれているコースターの方が気になった。


「美紗兎ちゃんはウサギのキャラクターのグッズを選ぶのね」


「被らないためには選ばない方がいいのかもしれないんですけど、それでもやっぱり茉那さんにはウサギを選ばせたくなっちゃうんですよね……」


えへへ、と笑う美紗兎に合わせて美衣子も愛想笑いをしておいたけど、やっぱり何を言っているのかイマイチよくわからなかった。美紗兎の持っているトートバッグもウサギ柄だから、好きなものをいとこ同士で共有しておきたいくらいの感覚なのだろうか。


真相はわからないし、探るのも面倒だからそう言うことにしておこう。そう結論づけて、美衣子も誕生日プレゼントを選ぶことにした。

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