第83話 寂しいときには……③
茉那の目の前には、相変わらず昔と変わらない好意を向けてくれている美紗兎がいる。だけど、2人の関係は昔とは違い、どんどん歪になっていく。
(こんなんだからみんなどんどんわたしから離れていくんだよ? いつかみーちゃんだってわたしに愛想尽かしてどこかに行っちゃうよ?)
茉那の中の冷静な自分がそう言っている。だけど、冷静ではない自分はその言葉を必死に否定する。
(みーちゃんは絶対にわたしのそばから離れないんだから! それに、今いるのはみーちゃんじゃなくて"美衣子ちゃん"だから!)
まだ、美紗兎が……、ううん、"美衣子ちゃん"は側にいてくれているのだから。
茉那はゆっくりと、首の後ろに手を回してきた"美衣子ちゃん"のことを抱きしめた。そこにちゃんと存在している"美衣子ちゃん"のことを、しっかりと全身で確認するみたいに。
"美衣子ちゃん"はそっと茉那の首筋を舐めた。舌先でソッと舐めてくれる。不意にやってきたビリッとくる心地良い感覚を受けて、茉那が"美衣子ちゃん"を抱きしめる力が強くなる。
「大好きだよ、美衣子ちゃん」
その声を聞いて、"美衣子ちゃん"は首筋から離れて、茉那の顔をソッと上目遣いで見られる位置に来る。その瞳がほんの一瞬だけ寂しそうな色を見せた後、すぐに"美衣子ちゃん"は微笑んだ。
「嬉しいわ、茉那」
(いつまでこんな酷い関係を続けるつもり? 早く目の前の大切な子の本当の顔を見てあげなよ)
また、茉那の中の冷静な自分が問いかける。せっかく昂揚していた気持ちが一気に萎えた。
気分が悪くなり、そっと"美衣子ちゃん"の体を引き離す。
「茉那……?」
「ごめんね、疲れちゃった。今日はここまで」
美紗兎とは目を合わせないようにして、水を飲みに行く。
顔を見ていないから表情はわからないけれど、きっとまた寂しそうな顔をしているのだろう。このところ"美衣子ちゃん"は寂しい表情をすることが増えている。そして、その度に茉那の中の冷静な自分が出てきて、気分が悪くなってしまう。
そうやって"美衣子ちゃん"とのプレイは近頃は大抵の場合不完全燃焼で終わってしまう。茉那の気まぐれで。
この行為を始めたばかりの頃は、美紗兎が素に戻ってしまい、中断していた。だけど、近頃は美紗兎はほぼ完璧に"美衣子ちゃん"を演じてくれている。だから、美紗兎にはいよいよ何の落ち度もない。
悪いとは思うけれど、途中で客観的な自分が邪魔をして、悪酔いしたみたいに頭が痛くなる。
いつものように、美紗兎のことを部屋に置いてシャワーを浴びに行く。不愉快な感情を早く洗い流したかった。
一人になりたくないのに、"美衣子ちゃん"と会ったら一人になりたくなる。
お風呂に入り、バルブを捻ると、温かいシャワーの湯気に包まれる。
「ほんと、いつまでこんな酷い関係を続けるつもりなんだろ……」
茉那は大きくため息をついた。また美紗兎と一緒に昔みたいにお風呂に入りたい。
だけど、そんなことはできるはずがない。
お互いにもう純粋な幼馴染ではなくなってしまっているのだから……。
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