第78話 あの子への電話①
ふうっ、と茉那はため息を吐き出した。高校時代の思い出に耽っているうちに、いつしかコーヒーもぬるくなっていた。
灯里は先ほど美衣子を追いかけて出ていったから、今はお店の中には透華と2人だけになっていた。本当は今すぐに美衣子を探しにいきたいけれど、なかなか店から出づらくなってしまった。
先ほど灯里の美衣子への反応を見てから、透華は少し落ち込んでしまっている。透華と美衣子、その2人に対して灯里がどう言う感情を抱いているのか、嫌でもわかってしまったに違いない。
でも、茉那も人の心配をしている場合ではない。美衣子に灯里と親しくなったことがバレてしまった。結果的に灯里と仲直りしていることを美衣子に隠してしまっていたことになるから、美衣子はとても怒っているかもしれない。もっとも、そんな大きな問題でさえも、美衣子に隠していることの中ではかなり些細な問題なのかもしれないけど……。
家に帰ったら美衣子に事情を説明して全部謝ろう、その時には大学時代のトラウマについても話さないといけないかもしれないけど、今は美衣子にしっかりと全部打ち明けることが大事だと思う。そう思って、覚悟を決めていた時にスマホにメッセージが入った。
(美衣子ちゃんからだ……)
不安になりながらメッセージを開く茉那の顔からサッと血の気が引いた。
美衣子『ごめん、暫く茉那の家には帰れないかも』
美衣子にはメッセージアプリを教えていないから電話番号でのSMSメッセージでのやり取りになる。返ってきたのが絵文字も顔文字もない文章だから、距離を感じてしまった。
やっぱり怒っているのかも……。
茉那の呼吸が不安で荒くなった。
「なんだか顔が青くなってるけど、どうかしたの?」
透華が心配そうに尋ねてくる。
「いえ……、ちょっと動画のコメントに嫌な事書かれてて……」
適当な嘘をついた。
「大丈夫なの……?」
「ええっと……。ちょっと対応だけしないといけないので、家に帰りますね」
「うん、心配だもんね。お代はまた今度で良いから」
取り乱しようが尋常ではないから、多分嘘だとバレている。それでも、透華は何かを察してそれ以上は踏み込もうとはしなかった。
茉那がいつものように透華にツケておいてもらってから家に帰る。透華からは常連兼お友達特典で、基本的にはまとめて払うことを許してもらっている。
茉那はお店を出ると、俯きながら早足で家に帰った。
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