第69話 お泊り会⑤
茉那がキツイ口調で答えてしまったせいで、せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまったかもしれない。悪いことしちゃったな、と心の中で困っていると、美紗兎が無理やり話題を変えてくれた。
「ねえ、茉那さん、わたしなんだか眠くなっちゃいました」
ふぁああ、と無理やり欠伸をしている美紗兎を見て、茉那は苦笑した。
「随分突然眠くなるんだね……」
気を遣ってくれているんだろうな、ということはよくわかった。美紗兎の優しさに甘えようと思い、「そろそろ寝よっか」と言って眠る準備に入ろうとしたら、美紗兎に右手首を掴まれて、美紗兎の方へグッと引っ張られた。
「え? みーちゃん……?」
そのままなぜか美紗兎が茉那の人差し指と中指をパクっと加えてしまった。
「ええっ!? みーちゃん何してるの!??」
突然のことに思わず大きな声をだしてしまった。
だけど、この行動は決してこれが初めてではない。幼稚園の頃、夜眠るときに寂しがった美紗兎はよく茉那の何かを咥えていた。多分おしゃぶりを卒業したばかりで口寂しかったからとかそういう理由だったのだろうと思う。
日によって、時には服の袖であったり、時には耳であったり、時には髪の毛であったり、とにかく茉那のいろいろなものを美紗兎は咥えていた。
でも、一番多かったのは今みたいに指を咥えることだった。美紗兎の温かい口内に誘われた茉那の人差し指を、美紗兎の舌が撫でていく感触はくすぐったかった。
「さすがにもう高校生になったんだから咥えなくても眠れるでしょ?」
茉那が苦笑しながら指を引き抜こうとしたけれど、美紗兎は手首を掴む力を強めてしまった。本気で拒もうと思えば引き離せたけれど、茉那はそれ以上力を加えなかった。
「寝るまでだよ」
茉那の言葉を聞いて、美紗兎は目を瞑ったまま口元だけ軽く微笑んだ。
「みーちゃんはいつまでも甘えん坊さんなんだね」
茉那はもう片方の手で可愛らしい後輩の頭をそっと撫でる。撫で続けているうちに、次第に美紗兎の呼吸が深くなっていく。美紗兎が茉那の手首を握る力も弱くなっていき、眠りに落ちてった。
「もう寝たかな……?」
小さな声で茉那は呟いてからそっと指を美紗兎の口内から引き抜き、起こさないように、ゆっくりと上半身を起こして座った。
気持ちよさそうに眠っている美紗兎の顔を上から見る。可愛らしくて愛嬌のある顔は、茉那のことを誰よりも安心させてくれる。茉那はそっと美紗兎の耳元に口を近づけた。
「みーちゃんはずっとわたしの傍にいてね……」
そのまま眠っている美紗兎の耳にそっと唇をくっつける。その瞬間、美紗兎が少しだけ頷いたような気がして、茉那は慌てて美紗兎の耳元から離れた。
「えっと……、みーちゃん起きてた……?」
問いかけてみたけど、美紗兎は何も答えなかった。相変わらず規則正しく可愛らしい寝息を立てているままだった。どうやら偶然動いただけのようだ。
「ビックリした……」
少し荒くなった呼吸をゆっくりと落ち着けて、茉那も再び横になり、目を瞑る。
「今日は久しぶりにお泊まり会ができて嬉しかったな……。ありがと、みーちゃん」
美紗兎を起こさないように小さな声で感謝の言葉を告げてから、そっと美紗兎の手を握りしめた。
ハグは暑いから拒んだけど、お礼の気持ちをこめて、手だけでも握ってあげようと思った。柔らかい美紗兎の手のひらを触ると、心地の良い安堵感に包まれる。そのまま茉那もゆっくりと眠ったのだった。
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