第54話 探しものと新しい出会い④
「ねえ、茉那。茉那の泊っている部屋って822号室で合ってるわよね?」
「うん、合ってるよ……。でも、誰もいない……」
閉め出されているのなら、みんな部屋の前で待っているのではないだろうかと思いながらも、他の人の部屋で茉那のことを悪く言っている可能性もあるのでは、と不安に思ってしまう。どうしようかと考えていると、美衣子が茉那の手を離した。
(あ、美衣子ちゃん……)
心の中で寂しく思いながらも美衣子のその後の行動が速くて、それ以上のことを考える暇はなかった。躊躇なく822号室の呼び鈴を押して、大きな声で中に向かって声をかける。
「ねえ、誰かいるー?」
美衣子が声をかけるとすぐにドアが開いた。
「いるけど、何の用?」
美衣子にとっても、そんなに仲が良いわけでもない茉那の部屋の子たちが少し迷惑そうに反応する。
(鍵開いてる……?)
茉那が困惑していると、美衣子が「何もないわ。じゃあね」と言って背中を向けてしまった。
茉那は美衣子の一連の行動を困惑交じりに見守っていたけど、少し落ち着いてきたときにお風呂上りに部屋に戻った時の状況を思い出して、冷や汗がでてくる。
「そうだ、わたしルームキーなんて持ってなかったんだ……」
オートロックのドアは外からドアを閉めれば勝手に施錠されるから鍵を持っていかなくても出ることができる。
だから、茉那が一番最後に大慌てで出たとしても、鍵を持たずに施錠ができる。きっとそのことを大慌てで部屋から出た茉那は失念していたのだ。
そういえば、慌てていたから違和感に気が付かなかったけど、大浴場から戻って来て部屋に荷物を置くときには、部屋が真っ暗で歩きにくかった。部屋の電気を付けるためのカードボックスからルームキーが抜かれていたということに気づかないといけなかったのに、それに気がつかないくらい慌ててしまっていたようだ。
無事に解決できたのはとりあえず良かったけど、わざわざ一緒に探してくれた美衣子への申し訳なさの感情が募ってしまう。
「ごめんね、美衣子ちゃん……」
「どうしたのよ、無事に見つかってよかったじゃない?」
美衣子は首を傾げている。
「美衣子ちゃんにせっかく手伝ってもらってたのに、結局わたしのミスで鍵無くしてなかったなんて……」
「いいじゃない。無事に見つかったんだから、原因なんてなんでもいいわ」
美衣子がそう言いながら、ハッとした顔をした。
「ごめん、茉那。慌ただしくて悪いけど、そろそろ灯里が戻ってくるから先に部屋に戻っておくわね」
「あ、うん……」
背中を向けて部屋に戻っていく美衣子に向けて茉那が所在なさげに手を中途半端にあげて見送る。美衣子は余程灯里と仲が良いのだろうと思って、少し羨ましく思った。
結局その後、美衣子と次に会話をすることになったのが、文化祭終わりの告白の日なのだから、美衣子もとても驚いたに違いない。
茉那の中で、美衣子への恋心を持った理由は実際のところ茉那自信もわかっていなかった。
まだ仲良くなかった茉那に優しくしてくれたからなのか、それとも人と接する機会が少なすぎて友達の優しさに浸った感情を恋愛感情と勘違いしてしまったのだろうか。それとも、美衣子のどこかに美紗兎と似たところを見出してしまったからだろうか……。
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