第48話 高校からのお友達③
「美衣子ちゃんに会ったよ。相変わらず可愛らしくて素敵だったから久しぶりに再会してから何度も会うようになったんだ」
本当は何度も会うどころか同棲しているのだけれど、そこまで言うと灯里がこのお店のオーナーの透華に八つ当たりしてしまいそうだから、それは伝えなかった。
高校生のときに灯里に敵意を向けられた時でもこのくらいしっかりとした受け答えができれば、灯里とはもう少しうまくやれたのかもしれないと思わないでもない。
茉那の言葉を聞いて、一瞬灯里は驚いて目を大きく見開いたけど、すぐにゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ちつかせていた。
灯里はバッグの中からタバコとライターを取り出して、タバコに火を付ける。灯里がカッコよくタバコを咥えているのは、なんだかドラマのワンシーンのように見えた。
「よかったわね」と灯里は煙を吐き出しながら答えた。
「ここって禁煙じゃないの?」
「透華のお店なんだから、大丈夫よ。わたしたち以外にお客さんはいないし誰の迷惑にもならないわよ。もしかして、茉那はタバコの煙苦手だった?」
茉那がカフェの店員である透華のほうに目をやると、困ったように愛想笑いを向けていた。茉那はタバコは苦手ではないけれど、少なくても禁煙の店内でタバコを吸われている以上、透華の迷惑にはなっているのだから、誰の迷惑にもならないということはない。
「あんまり透華さんのこと困らせない方がいいんじゃないの?」
灯里も透華の方をチラッと見る。
「タバコ吸ってる灯里のことはカッコいいと思うけど、店の中ではちょっと困るかな……」
灯里に対して強い言葉を使えない透華がそう言うのだから、きっと本当に困っている。そんな透華の言葉を聞いて灯里がため息をついた。
「まず先に美衣子の話をしてわたしのことを困らせたのは茉那の方だと思うけど……。まあ、気持ちも落ち着いたし、もういいわ」
そう言うと、まだほとんど減っていないタバコの火を携帯灰皿で消してしまった。
「まあ、わたしはもう美衣子のことは忘れることにしたから関係ないわ……」
灯里がクールに答えた直後、声色を一変させた。
「って、えっ……」
灯里が入り口のドアの上の方にある小窓に視線を注いで身を硬直させていた。突然灯里の意識が目の前にいる茉那からも、オーナーの透華からも離れていく。明らかに一人だけお店の外の景色に意識が向いていた。
「灯里ちゃん……?」
灯里は茉那の呼びかけも耳に入らないようで、口を半開きにしたまま、茫然とドア越しに外を見ていた。明らかに気持ちの全てをドアの外に注いでいる。
普段油断なんてまったくすることのない灯里にこれだけ間の抜けたような表情をさせることのできる相手を茉那は一人しか知らない。
そんなことを考えていると、灯里の口からうわ言のように名前が出てくる。
「美衣子……」
灯里の言葉を聞いて、茉那も慌てて後ろを向くと、店の外からガラス窓越しに慌てふためく美衣子がいた。
(美衣子ちゃんがなんでここにいるの……? 後を付けられてたってこと……!?)
茉那からしても、美衣子に灯里と一緒にいるところを見られたくはなかった。
どうして灯里と一緒に会っていることがバレてしまったのだろうかと思う間もなく、美衣子は背を向けて店から離れて行ってしまっている。灯里が慌てて財布から1万円札を抜き出して机の上に置いた。
「悪いけど、わたしはこれで」
そう言った時にはすでに灯里は席を立って、入り口のドアノブに手をかけていた。凄い勢いで灯里が去って行ったせいで、店の中には茉那と店員である透華だけが残されてしまった。
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